業務委託契約(請負契約・準委任契約)では、委託者が受託者に対し作業場所を指定することは違法となるのでしょうか?
業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、委託者が受託者の作業場所を指定することは、原則として違法ではなく、適法です。それどころか、下請法が適用される場合は、場所の指定をしないと下請法違反=違法となる場合もあります。
ただし、受託者が個人事業者・フリーランスである場合は、業務内容の性質によって、違法(偽装請負)と適法の両方の可能性があります。

このページでは、業務委託契約の委託者・受託者の双方向けに、業務委託契約(請負契約・準委任契約を含む)において作業場所を指定した場合の違法性・適法性について解説しています。

業務委託契約において、委託者が受託者の作業場所について指定したとしても、原則として適法であり、特に問題にはなりません。

それどころか、下請法が適用される業務委託契約では、むしろ作業場所について明らかにしなければ、下請法違反=違法となる可能性もあります。

ただし、受託者が個人事業者・フリーランスである場合は、作業場所を指定すると、業務内容の性質によっては、「指揮命令」とみなされ、受託者が労働者扱いとなり、違法(偽装請負)となる可能性と、そうではなく適法となる可能性があります。

つまり、業務委託契約において、受託者が個人事業者・フリーランスだからといって、作業場所の指定があったとしても、直ちに違法(偽装請負)となるわけではありません。

このページでは、こうした業務委託契約における作業場所の指定に関する違法性と適法性について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 業務委託契約における作業場所の指定の違法性・適法性。
  • 受託者が個人事業者・フリーランスとなる場合において、作業場所の指定が違法・適法となる条件。
  • 下請法が適用される業務委託契約において場所を指定する必要性とその根拠。




業務委託契約における場所の指定は原則として違法ではない

企業間契約である業務委託契約において、受託者の作業場所を指定することは、契約自由の原則により、原則として違法ではありません。

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。

民法第521条(契約の締結及び内容の自由)

1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

上記の民法第521条第2項にあるとおり、「法令の制限内」ではありますが、業務委託契約において受託者の作業場所を指定したとしても、原則として違法=法律違反にはありません。

むしろ、下請法が適用される場合は、作業場所を指定しないと違法となる可能性もあります(詳しく後述)。





個人事業者・フリーランスが受託者の場合は作業場所の指定は違法?適法?

必ずしも「作業場所の指定=指揮命令=違法」とは限らない

ただし、受託者が個人事業者・フリーランスの場合、委託者が受託者の作業場所を指定したときは、業務内容の性質によって違法となる可能性と適法となる可能性の両方があります。

作業場所の指定の違法性・適法性(個人事業者・フリーランスが受託者の場合)
  • 「業務の遂行を指揮命令する必要による」作業場所の指定=違法
  • 「業務の性質上」「安全を確保する必要上」の作業場所の指定=適法

前者の場合は、いわゆる「指揮命令」に該当し、業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされ、委託者が労働基準法・労働契約法等の労働法に違反する可能性があります。

また、この場合は、受託者である個人事業者・フリーランスが労働者とみなされます。

他方で、後者の場合は、作業場所の指定は必然となり、適法な業務委託契約と判断される可能性が高いです。

つまり、個人事業者・フリーランスが受託者となる業務委託契約において、作業場所の指定は、必ずしも違法となるわけではありません。

労働者性の判断基準=「労働基準法研究会報告」とは?

上記の違法性・適法性の判断基準は、「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)」によるものです。

この「労働基準法研究会報告」の第2 1(1)ハに、以下の記載があります。

ハ 拘束性の有無

勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素である。しかしながら、業務の性質上(例えば、演奏)、安全を確保する必要上(例えば、建設)等から必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合があり、当該指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある。

これにより、場所の指定が「指揮命令する必要」による業務委託契約は違法(労働基準法・労働契約法等の各種労働法違反)、「業務の性質上」「安全を確保する必要上」による業務委託契約は適法となります。

この他、「労働基準法研究会報告」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは





作業場所の指定が違法となる条件(受託者=個人事業者・フリーランス)

あくまで「指揮命令」目的の作業場所の指定=違法

個人事業者・フリーランスが受託者の場合、作業場所を指定すると違法なる条件は、「業務の遂行を指揮命令する必要」であることです。

つまり、業務の性質上(後述)、特に必要のないにもかかわらず、委託者が個人事業者・フリーランスである受託者による業務遂行を指揮命令するために作業場所を指定することが該当します。

この場合、その業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされる可能性が高くなります。

すべての「作業場所の指定」が違法になるわけではない

つまり、個人事業者・フリーランスが受託者になる業務委託契約であるからといって、すべての「作業場所の指定」が指揮命令に該当するわけではありません。

あくまで、問題となるのは、「業務遂行を指揮命令する」ための作業場所の指定です。

また、仮に業務遂行を指揮命令するために作業場所を指定したとしても、そのこと自体は、数多くある労働者性の判断基準のひとつに過ぎません。

この点からも、(そのこと自体は望ましくはないですが)「作業場所の指定」により、直ちに「業務委託契約→労働契約・雇用契約」「個人事業者・フリーランス→労働者」(偽装請負)と判断されるわけではありません。

この他、個人事業者・フリーランスの労働者性のチェックリストにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働者性のチェックリスト―業務委託契約のフリーランスと労働者の判断基準





作業場所の指定が適法となる条件(受託者=個人事業者・フリーランス)

「業務の性質上」の作業場所の指定は適法

他方で、個人事業者・フリーランスが受託者の場合、作業場所を指定しても違法とならない条件は、主に「業務の性質上」であることです。

この「業務の性質上」について、「労働基準法研究会報告」では、具体例として「演奏」が挙げられています。

この点について、一般的な演奏業務は、観客に対して提供されるなど、特定の場所において遂行されることが必然となります。

このように、個人事業者・フリーランスが受託者である場合であっても、業務の性質上、場所の指定が必然となる業務委託契約では、作業場所を指定したとしても、特に問題とはなりません。

同じ契約でも業務内容によって「業務の性質上」必然かどうかは異なる

一般的なSES契約では個人事業者・フリーランスへの作業場所の指定は違法

この点について、同じ契約であっても、業務内容によって、作業場所の指定が違法な場合と適法な場合に分かれることがあります。

例えば、同じSES契約(システムエンジニアリングサービス契約)の場合であっても、受託者である個人事業者・フリーランスに対する作業場所の指定が、違法の場合と適法の場合が考えられます。

SES契約では、各種チャットツールや開発プラットフォームを利用することで、個人事業者・フリーランスである受託者は、リモートワーク・在宅での業務実施が可能となります。

このため、特に委託者が作業場所を指定する合理的な理由はありません。

以上の点から、委託者が個人事業者・フリーランスの作業場所として、委託者の事業所・オフィスなどを指定すると、一般的なSES契約では、適法な契約ではなく、労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされるリスクがあります。

業務の性質上必然的に作業場所を指定するSES契約は適法

他方で、同じSES契約でも、どうしても委託者の事業所・オフィスでの業務の実施が必要となる場合もあります。

例えば、セキュリティの都合上、インターネットに繋がっていない状態で作業をする必要がある場合や、チャットツールや開発プラットフォームを利用できない場合などです。

こうした「業務の性質上」、個人事業者・フリーランスの作業場所を指定する必然性がある場合は、同じSES契約であっても、適法と考えられます。

このように、単に「個人事業者・フリーランス相手のSES契約だから」場所の指定は違法なのではなく、業務の性質を見極めて判断する必要があります。





下請法が適用される業務委託契約では作業場所の明示は必須

必要な場所を業務委託契約書に記載しないと下請法違反となる

なお、業務の実施に必要があって委託者が場所を指定する場合は、業務委託契約書に作業場所を記載しないと、下請法違反となる可能性があります。

下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則第1条第1項第2号によって、いわゆる「三条書面」には、役務の提供を受ける場所などを記載しなければなりません。

このため、下請法が適用される業務委託契約において、作業場所を指定する場合は、必ず作業場所を記載するようにします。

なお、下請法が適用される条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?資本金・業務内容(製造委託等)について解説

書面を交付しないと最大で50万円の罰金が科される

仮に委託者=親事業者が、受託者=下請業者に対し三条書面を交付しない場合は、50万円以下の罰金が科されます。

下請法第10条(罰則)

次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処する。

(1)(省略)

(2)第5条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。

この点について、本来は場所の記載が必要であるにもかかわらず、場所の記載がない場合は、三条書面に不備があることとなり、三条書面を交付したこととなりません。

三条書面の不備・不交付は担当者を含む個人・法人双方に罰則が課される

ポイントは、親事業者である法人だけに罰金が科されるのではなく、「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです。

つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。

なお、親事業者である法人にも、罰金は科されます。

下請法第12条(罰則)

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。

この他、三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

作業場所を指定しない場合は三条書面への記載は不要

この点について、委託者が受託者の作業場所を指定しない場合、三条書面には、特に作業場所を記載する必要はありません。

下請法題第3条においても、「その内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しない」と規定されています。

下請法第3条

下請法第3条(書面の交付等)

1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

ただし、「作業場所を指定しない」ことについて明らかにするためにも、あえて三条書面や業務委託契約書にその旨を明記するべきです。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】作業場所に関する条項

第○条(役務の提供を受ける場所)

委託者は、受託者から本件業務の提供を受ける場所について、指定しないものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

このような条項を規定することにより、労働契約・雇用契約(偽装請負)ではなく、適法な業務委託契約と解釈される可能性が高くなります。





業務委託契約における作業場所の指定に関するよくある質問

業務委託契約で受託者の作業場所を指定することは違法ですか?
業務委託契約で受託者の作業場所を指定したとしても、原則として違法にはなりません。
業務委託契約において、例外として違法となる作業場所の指定は、どのような場合でしょうか?
個人事業者・フリーランスが受託者になる業務委託契約では、「業務の性質上」必然でないにもかかわらず作業場所を指定すると、適法な業務委託契約ではなく、労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされ、労働基準法、労働契約法などの各種労働法に違反する可能性があります。