業務委託契約では、委託者が実際に業務を担当する受託者の労働者と面接・面談をすることは、違法・禁止ですか?
業務委託契約において、委託者が業務に従事する受託者の労働者と面接・面談をすることにより、その労働者の採用・選考等をこなうことは、37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )に抵触し、偽装請負・労働者派遣法違反に該当し、委託者・受託者双方が違法となります。

このページでは、業務委託契約の委託者・受託者双方に向けて、業務委託契約における委託者と受託者の労働者との面接の違法性について解説しています。

業務委託契約では、実際に業務に従事する受託者の労働者の能力・経験・適性等を把握するために、委託者がその労働者との面接を希望する場合があります。

しかし、この委託者と受託者の労働者との面接は、偽装請負となり、委託者・受託者ともに労働者派遣法違反となる可能性があります。

このため、委託者が受託者の労働者の能力・経験・適性等を把握するためには、面接以外の適法な方法でおこなわなければなりません。

このページでは、こうした委託者と受託者の労働者との面接の違法性や適法な受託者の労働者の能力・経験・適性等の把握方法について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 業務委託契約における委託者と受託者の労働者との面接が違法・禁止となっている根拠。
  • 業務委託契約において委託者が受託者の労働者の能力・経験・適性等を把握する方法。

なお、SES契約に関する面接・面談の問題点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

SES契約の事前面接・事前面談は偽装請負?違法?禁止?




委託者と受託者の労働者との面接・面談は違法?禁止されている根拠は?

面接・面談が「委託者による受託者の労働者の使命・選考」となる場合は違法

委託者と受託者の労働者との面接は、単に面接をおこなうこと自体は、特に問題とはなりません。

しかしながら、委託者による面接によって、実際に作業をおこなう受託者の労働者が指名されたり、選考等がされることとなると、違法となります。

これは、偽装請負の判定基準である37号告示に抵触し、労働者派遣法違反となるからです。

しかも、偽装請負とみなされると、面接をおこなった委託者のみならず、受託者も労働者派遣法違反となります。

面接・面談が「委託者による受託者の労働者の使命・選考」にならないのであれば問題ない

逆に言えば、面接・面談によって、委託者が受託者の労働者の指名や選考をしなければ、特に問題ではありません。

例えば、面接・面談によって、受託者やその労働者が、委託者について何らかの判断(業務を実施できる能力・経験があるかどうか、委託者やその管理者と受託者の管理者や労働者との相性など)をする場合もあります。

こうした面接・面談については、37号告示では、特に問題とされていません。

ですので、あくまで問題となるのは「委託者による受託者の労働者の指名・選考等と目的とした面接・面談」である、という点です。





偽装請負の判定基準=「37号告示」とは?

労働者派遣事業と「労働者派遣事業でない事業」の区分に関する基準

偽装請負=労働者派遣法違反は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第 37 号)によって判断されます。

この基準は、実務上、「37号告示」と省略されて呼ばれています。

その第1条にも、以下のように規定されています。

37号告示第1条

1 この基準は、(途中省略)労働者派遣事業(途中省略)に該当するか否かの判断を的確に行う必要があることに鑑み、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分を明らかにすることを目的とする。

2 (以下省略)

【意味・定義】37号告示とは?

37号告示とは、労働者派遣事業と請負等の労働者派遣契約にもとづく事業との区分を明らかにすることを目的とした厚生労働省のガイドラインである「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」をいう。

37号告示とは?(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )

このため、企業間取引において、37号告示は、厚生労働省に違法な労働者派遣事業=偽装請負と判断されないように対処する際の、最も重要な基準となります。

受託者の「労働者の配置等の決定及び変更」は受託者自身がおこなう

37号告示第2条第1号では、以下のとおり、労働者の様々な事項に関する管理について、次のとおり規定されています。

37号告示第二条

請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。

(2)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

(2)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。

(2)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

二 (以下省略)

このうち、面接については、第2条第1号ハ(2)の「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと」に抵触します。

ここでいう「労働者」は受託者の労働者であり、「自ら」は受託者のことを意味します。

つまり、受託者の「労働者の配置等の決定及び変更」については、受託者自らがおこなわなければなりません。

面接は委託者が「労働者の配置等の決定及び変更」をおこなっているとみなされる

にもかかわらず、委託者が面接をすることによって、委託者が受託者の労働者を指名したり、採用選考等をおこなった場合、委託者が「労働者の配置等の決定及び変更」をおこなっているものとみなされます。

37号告示の具体的判断基準にも、以下の記載があります。

① 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

(具体的判断基準)

当該要件の判断は、当該労働者に係る勤務場所、直接指揮命令する者等の決定及び変更につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。
なお、勤務場所については、当該業務の性格上、実際に就業することとなる場所が移動すること等により、個々具体的な現実の勤務場所を当該事業主が決定又は変更できない場合は当該業務の性格に応じて合理的な範囲でこれが特定されれば足りるものである。
〔製造業務の場合〕
自らの労働者の注文主の工場内における配置も受託者が決定すること。
また、業務量の緊急の増減がある場合には、前もって注文主から連絡を受ける体制にし、受託者が人員の増減を決定すること。
〔バンケットサービスの場合〕
業務に従事するバンケットコンパニオンの決定についてはホテル等による指名や面接選考等を行わずバンケット業者自らが決定すること。また、同一の宴席におけるバンケットサービスを複数のバンケット業者が請け負う場合には、異なるバンケット業者のバンケットコンパニオンが共同して1つのサービスを実施することのないよう、あらかじめ各バンケット業者が担当するテーブルやサービス内容を明確に区分していること。

上記の記載では、あくまで「バンケットサービスの場合」の一例として挙げられていますが、他の業務委託契約でも同様です。

ポイント
  • 37号告示=労働者派遣事業と「労働者派遣事業でない事業」の区分に関する基準。
  • 受託者の「労働者の配置等の決定及び変更」は受託者自身がおこなう。
  • 面接は委託者が「労働者の配置等の決定及び変更」をおこなっているとみなされる。





事前面接・事前面接は労働者派遣法にすら抵触する

なお、いわゆる「事前面接」や「指名」のような、あらかじめ労働者を特定する行為は、労働者派遣法ですら禁止されています。

労働者派遣法第26条(契約の内容等)

(第1項から第5項まで省略)

6 労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。

(以下省略)

この規定では、「努めなければならない」という、いわゆる「努力義務」の規定となっていますが、実際には、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(いわゆる派遣先ガイドライン)の第2の3で明確に禁止されています。

3 派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止

派遣先は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること、派遣先に対して当該労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとすること等派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと。なお、派遣労働者又は派遣労働者となろうとする者が、自らの判断の下に派遣就業開始前の事業所訪問若しくは履歴書の送付又は派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定することを目的とする行為が行われたことには該当せず、実施可能であるが、派遣先は、派遣元事業主又は派遣労働者若しくは派遣労働者となろうとする者に対してこれらの行為を求めないこととする等、派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止に触れないよう十分留意すること。





偽装請負(労働者派遣法違反)のリスクは?

実際に、業務委託契約が偽装請負と判断された場合は、様々なリスクが発生します。

わかりやすい例としては、受託者の側は、無許可での労働者派遣事業をおこなっていたことになります。

勘違いされがちですが、委託者の側は、偽装請負で何の問題がないわけではなく、派遣先としての義務に違反することになります。

このほか、具体的なリスク・問題点は、次のとおりです。

委託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

偽装請負の委託者のリスク・問題点
  • 「派遣先」とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される

受託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

偽装請負の受託者のリスク・問題点
  • 派遣元=無許可の派遣業者とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される

委託者・受託者共通のリスク・問題点一覧

委託者・受託者共通のリスク・問題点
  • 行政指導・行政処分を受ける
  • 労働契約申込みみなし制度
  • 罰則は法人だけでなく個人にも科される
  • 労働者派遣法・適法な業務委託契約にするコストがかかる

これらのリスク・問題点につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

偽装請負とは?判断基準・違法性・罰則・リスクとその対策は?

ポイント
  • 偽装請負は、受託者はもとより、委託者も労働者派遣法違反となる。





適法に受託者の能力・経験・適性等を把握する方法は?

面接ではなく能力・経験・適性等の把握のみであれば違法とはならない

それでは、偽装請負・労働者派遣法違反に該当しない、受託者の労働者の能力・経験・適性等(以下、「スキル」といいます)を把握する方法を紹介します。

実は、委託者による受託者の労働者のスキルの把握そのものは、37号告示でも例外として認められており、偽装請負・労働者派遣法違反とはなりません。

ただし、この例外には、次のとおり条件があります。

受託者の労働者のスキルの把握が認められる条件
  • 委託者が受託者に対し個人を特定できるスキルシートを提出させることによって、受託者の個々の労働者を指名したり、受託者の特定の労働者の就業を拒否したりしないこと。

つまり、個人を特定できないスキルシートの提出は、偽装請負とは判断されません。

根拠資料
Q7 アジャイル型開発では、開発担当者同士が情報共有や助言、提案を行いながら、個々の開発担当者が自律的に判断して開発業務を進めるため、そのような開発を行うことができる専門的な技術者が必要となりますが、国内ではアジャイル型開発を経験した技術者が少ない等の状況にあるため、開発担当者の技術や技能について、一定の水準を確保することが重要です。そこで、発注者から受注者に対し、開発担当者の技術・技能レベルや経験年数等を記載した「スキルシート」の提出を求めたいのですが、これに何か問題はありますか。
A7 前記A2で述べたとおり、適正な請負等と判断されるためには、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること及び請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することが必要であり、そのためには、受注者の労働者の配置等の決定及び変更について受注者自らが行うことが求められます。
そのため、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになり、適正な請負等とは認められません。
他方で、アジャイル型開発において、受注者側の技術力を判断する一環として、発注者が受注者に対し、受注者が雇用する技術者のシステム開発に関する技術・技能レベルと当該技術・技能に係る経験年数等を記載したいわゆる「スキルシート」の提出を求めたとしても、それが個人を特定できるものではなく、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり特定の者の就業を拒否したりできるものでなければ、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与しているとまではいえないため、「スキルシート」の提出を求めたからといって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。

個人を特定できないスキルシートにより受託者の労働者を選別してもいい?

この例外の根拠となる疑義応答集第3集では、あくまで「個人を特定できないスキルシートの提出」だけが偽装請負とは判断されない旨の回答となっています。

また、「個人を特定できるスキルシートの提出」により、受託者の労働者の選別をすることは、「適正な請負等とは認められません」との回答となっています。

この点について、委託者が「個人を特定できないスキルシートの提出」により受託者の労働者を選別することが適正な請負等なのか、偽装請負なのか、明記されていません。

しかし、これについては、偽装請負と判断される可能性があります。

スキルシートの提出だけにとどめておく

というのも、回答にもあるとおり、「受注者の労働者の配置等の決定及び変更について受注者自らが行うことが求められます。」

この回答は、すでに述べた37号告示第2条第1号ハ(2)の「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと」を意味します。

この記載でも分かるとおり、スキルシートにおいて個人が特定できるかどうが重要なのではなく、受託者の労働者の配置等の決定・変更について受託者自身がおこなうことが重要なのです。

このため、委託者としては、たとえ個人を特定できないスキルシートの提出を求めたとしても、それはスキルの把握だけにとどめ、受託者の労働者の選定には関与しないことです。

ポイント
  • スキルシートは、個人を特定できないものの提出のみであれば、指揮命令・指示には該当しない。
  • スキルシートにもとづき受託者の労働者の指名・選別・選考等をしない。





業務委託契約における面接・面談に関するよくある質問

業務委託契約では、委託者が実際に業務を担当する受託者の労働者と面接をすることは、違法・禁止ですか?
業務委託契約において、委託者が業務に従事する受託者の労働者と面接をすることは、37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )に抵触し、偽装請負・労働者派遣法違反に該当し、委託者・受託者双方が違法となります。
業務委託契約では、委託者が受託者の労働者の能力・経験・適性等について、どのように把握するべきなのでしょうか?
業務委託契約では、いわゆる「スキルシート」の提示を求めることにより、個人が特定できない形で、委託者が受託者の労働者の能力・経験・適性等を把握すること自体は、偽装請負・労働者派遣法違反とはなりません。ただし、スキルシートにより受託者の労働者を選別してしまうと、偽装請負・労働者派遣法違反となります。