こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約書において、特許権の実施権のライセンス(実施権の設定・許諾)のしかたについて解説しています。

製造請負の業務委託契約や、高度な技術が必要な建設工事の業務委託契約では、委託者が、受託者に対して、業務の実施に必要な特許権をライセンスすることがあります。

この特許権のライセンスは、実質的には一種のライセンス契約です。

このライセンスのしかたは、大きく分けて5種類あります。

このページでは、この5種類のライセンスについて、解説しています。

なお、この他の業務委託契約における特許権の問題全般については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における特許権・実用新案権―その使用許諾・改良発明の問題点とは?

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特許権をライセンス(実施権の設定・許諾)する業務委託契約とは?

主に製造請負の業務委託契約で重要となる

業務委託契約で特許権が重要となるのは、主に、(大手の)製造業者=委託者が、外注先・下請企業の製造業者=受託者に製造請負を業務委託する場合です。

例えば、典型的なパターンとしては、委託者が設計した製品や部品などを、受託者に製造させる場合です。

このような場合、委託者が、自ら取得している特許権をライセンス(実施権の設定・許諾)して、受託者に製品・部品などを製造させることがあります。

こうした業務委託契約では、特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)のしかたが問題となります。

なお、製造請負の業務委託契約については、以下のページをご覧ください。

これだけは押さえておきたい!製造請負契約書の作成の20のポイント

建設工事の業務委託契約でも重要となる

また、施工に高度な技術が必要な建設工事の業務委託契約でも、特許権が重要となります。

こちらも、一般的には、(大手の)建設業者=委託者が保有する特許権の技術を使って、下請の建設業者=受託者が施工する場合です。

この場合は、委託者から受託者に対し、特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)をすることになります。

また、逆に、下請の建設業者=受託者のほうが高度な専門技術があり、特許権を取得している場合は、下請の建設業者のほうから、(大手の)建設業者=委託者のほうに特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)がされることもあります。

なお、建設工事の業務委託契約については、以下のページをご覧ください。

これだけは押さえておきたい!建設工事請負契約書の24のポイント

特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)が複雑になる場合は契約を切り離す

なお、業務委託のしかたや、契約内容によっては、特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)の契約内容が複雑になる場合があります。

こうした場合は、無理に業務委託の内容とライセンスの内容をまとめて業務委託契約書を作成する必要はありません。

業務委託契約書とライセンス契約書を別々に作成しても、特に問題はありません。

ただし、その業務委託契約書とライセンス契約書の内容が、関連していることを、双方の契約内容として規定する必要があります。

また、双方の契約内容が矛盾しないよう、また、矛盾した場合はどちらが優先するのか、という点も考慮して作成します。

ポイント

  • 業務委託契約で特許権が重要となるのは、主に製造請負・建設工事の業務委託契約。
  • 業務委託契約書とライセンス契約書は別々に分けても構わない。
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特許権の「実施権」とは

特許権のライセンスは専用実施権と通常実施権の2つ

特許法では、他人に特許権の使用を許諾する=ライセンスすりことを、「実施権を設定する」(専用実施権の場合)、「実施権を許諾する」(通常実施権の場合)と表現します。

また、この実施権は、「専用実施権」と「通常実施権」の2種類が存在します。

専用実施権の定義

「専用実施権」とは、対象となる特許発明を専用実施権者が独占的に実施することができる権利のことをいいます(特許法第77条)。

通常実施権の定義

「通常実施権」とは、とは、その特許発明を実施することができる権利のことをいいます(特許法第78条)。

なお、特許権そのものの解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

特許権・実用新案権・発明の定義・要件とは?業務委託契約との関係をわかりやすく解説

専用実施権と通常実施権の違いは?

専用実施権と通常実施権の違いは、次のとおりです。

専用実施権 通常実施権
実施権を与えることができる者
(ライセンサー)
特許権者のみが専用実施権を設定(ライセンス)できる。 特許権者又は専用実施権者が、通常実施権を許諾(ライセンス)できる。
ただし、専用実施権者による場合は、特許権者の承諾が必要となる。
特許原簿への設定登録
(登録免許税が必要)
専用実施権の効力を発生させる要件及び第三者に対抗する要件として設定登録が必要。
(効力発生要件)
原簿への登録は不要。
実施権の性質 他人が発明を実施した場合には、差止請求、損害賠償請求を行うことができる。 他人が発明を実施した場合であっても、差止請求や損害賠償請求を行うことができない。
ライセンサーの自己実施権の留保 専用実施権を設定する場合には、ライセンサー(=特許権者)の実施権は留保できない。 通常実施権を許諾する場合には、ライセンサーの実施権は留保される。
ライセンスの重複の可否 特許権者は、専用実施権の設定後、その設定範囲については、専用実施権と通常実施権の別にかかわらず、実施権を設定・許諾できない。 特許権者は、通常実施権の許諾後、その許諾範囲についても、専用実施権又は通常実施権を第三者に設定・許諾できる。
先に通常実施権の許諾を受けた通常実施権者は、専用実施権者に対抗できる。

なお、後で説明しますが、通常実施権は、許諾のしかたによって、さらに4つのパターンに分けられます。

特許権の実施権の設定・許諾=ライセンス契約

業務委託契約の一部の内容とはいえ、特許権の実施権の設定・許諾は、一種のライセンス契約です。

このため、特許権の実施権の設定・許諾が含まれる業務委託契約書を作成する場合は、業務委託契約に関する専門知識は当然のことながら、ライセンス契約や特許法の専門知識も必要となります。

ライセンス契約は、契約実務の中でも、高度な専門知識が必要な契約です。

このため、委託者・受託者双方(特に委託者の側)とも、業務委託契約の締結にあたっては、慎重に対応しなけれなりません。

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ライセンス契約において重要となる3つのポイント

ライセンサーの自己実施の可否・独占か非独占か・再実施権の許諾の可否がポイント

特許権のライセンス契約において、特許権の使用許諾=実施権の設定・許諾は、5パターンあります。

具体的には、専用実施権と4つの通常実施権の合計5パターンです。

これらいずれのパターンも、以下の3点がポイントとなります。

ライセンス契約における3つのポイント

  • 特許権者=ライセンサー(=委託者)が自己実施できるかどうか
  • 独占的ライセンス・非独占的ライセンスのどちらなのか
  • ライセンシー(=受託者)が第三者に対して再使用の許諾=再実施権の許諾ができるかどうか

【ポイント1】委託者自身が特許権を自己実施できるかどうか

完全なライセンスか非完全なライセンスか

1点目のポイントは、特許権者=ライセンサー=委託者が、自分自身で特許権を行使(=自己実施)できるかどうか、という点です。

専用実施権の場合は、ライセンサー=委託者は自己実施ができませんが、通常実施権の場合は、原則として、ライセンサー=委託者は自己実施できます。

ただし、通常実施権の場合は、ライセンス契約によって、ライセンサー=委託者の自己実施に制限をかけることができます。

通常実施権に場合、ライセンサー=委託者の自己実施に制限をかけるものを「完全」と表現し、制限をかけないものを「非完全」と表現します。

委託者と受託者の双方の立場による対応の違いは?

これは、例えば、委託者自身が製造業者であって、業務委託の対象となる製品・部品などを、自分自身で製造できる場合に、問題となります。

ライセンスが完全か非完全かは、ライセンサー(=委託者)・ライセンシー(=受託者)の立場によって、以下のような対応となります。

ライセンサー=委託者の自己実施のポイント

  • 【ライセンサー=委託者】:品質管理・コスト削減・技術情報の漏洩防止などのため、自社製造もできるように、特許権の自己実施ができるほうがよい=非完全のほうがいい。
  • 【ライセンシー=受託者】:なるべく自社だけで製品・部品を製造できたほうが売上が増えるため、ライセンサー=委託者の自己実施を制限したほうがよい=完全のほうがいい。

なお、この点は、ライセンサー=委託者が製造業者でない場合(例:ファブレスメーカーや販売だけの業者の場合)は、問題になりません。

【ポイント2】委託者が他の第三者に対して特許権の実施権の設定・許諾ができるかどうか

独占的ライセンスか非独占的ライセンスか

2点目のポイントは、特許権者=ライセンサー=受託者が、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、特許権の実施権の設定・許諾ができるかどうか、という点です。

専用実施権の場合は、ライセンサー=委託者は第三者に対して特許権の実施権の設定・許諾ができませんが、通常実施権の場合は、原則として、第三者に対して特許権の実施権の設定・許諾ができます。

ただし、通常実施権の場合は、ライセンス契約によって、ライセンサー=委託者による第三者への特許権の実施権の設定・許諾に制限をかけることができます。

通常実施権の場合、ライセンサー=委託者の第三者への特許権の実施の設定・許諾の制限をかけるものを「独占的」と表現し、制限をかけないものを「非独占的」と表現します。

委託者と受託者の双方の立場による対応の違いは?

これは、ライセンサー=委託者が、製造業者であっても、製造業者でなくても問題となります。

独占的ライセンスか非独占的ライセンスかは、ライセンサー(=委託者)・ライセンシー(=受託者)の立場によって、以下のような対応となります。

ライセンサー=委託者による第三者への実施権の設定・許諾のポイント

  • 【ライセンサー=委託者】:ライセンシー=受託者との価格交渉、製品・部品等の安定供給の確保などのため、第三者への特許権の実施権の設定・許諾ができるほうがいい=非独占的ライセンスのほうがいい。
  • 【ライセンシー=受託者】:なるべく自社だけで製品・部品を製造できたほうが売上が増えるため、ライセンサー=委託者による第三者への特許権の実施権の設定・許諾ができないほうがよい=独占的ライセンスのほうがいい。

【ポイント3】受託者が他の第三者に対して特許権の実施権の再許諾ができるかどうか

原則として専用実施権・通常実施権とも再実施権の許諾はできない

3点目のポイントは、ライセンシー=受託者が、第三者に対して、特許権の通常実施権の再許諾(サブライセンス)ができるかどうか、という点です。

専用実施権の場合は、ライセンシー=受託者は、「特許権者の承諾を得た場合に限り、…他人に通常実施権を許諾することができる。」とされています(特許法第77条)。

ライセンシー=受託者の権利が比較的強い専用実施権ですら、「特許権者の承諾」が必要ですから、通常実施権では、第三者に対して、通常実施権を許諾することはできません。

ただし、通常実施権の場合は、ライセンス契約によって、ライセンシー=受託者による第三者への特許権の通常実施権の再許諾(サブライセンス)ができる契約内容とすることもできます。

委託者と受託者の双方の立場による対応の違いは?

ライセンシー=受託者の再実施権の許諾の可否は、ライセンシー=受託者による、外注先・下請企業に対する下請取引・再委託ができるかどうかに関わる、非常に重要な問題です。

このため、ライセンサー(=委託者)・ライセンシー(=受託者)の立場によって、以下のような対応となります。

ライセンサー=委託者による第三者への実施権の設定・許諾のポイント

  • 【ライセンサー=委託者】:品質確保、外注先・下請企業からの技術情報の漏洩の防止の為、ライセンシー=受託者による第三者への特許権の通常実施権の許諾ができないほうがいい=下請取引・再委託を許諾しないほうがいい。
  • 【ライセンシー=受託者】:生産量の確保のため、ライセンシー=受託者による第三者への特許権の通常実施権の許諾ができないほうがいい=下請取引・再委託ができるほうがいい。

通常実施権の再許諾なしで下請実施(一機関としての実施)はしないほうがいい

なお、一定の条件を満たした場合、特許権者の許諾や共有の特許権者の同意を得ることなく、外注先・下請企業に対して、通常実施権の再許諾(サブライセンス)ができることがあります。

これは、特許法に関する判例で、認められていることです。

こうした、通常実施権の再許諾(サブライセンス)の許諾・同意なしに再委託をする取引きを、「下請実施」や「一機関としての実施」といいます。

ただ、このような方法は、労働者派遣法違反=偽装請負となる可能性がありますので、慎重に対応する必要があります。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

共有特許権の下請実施(一機関としての実施)とは?―その問題について解説

ポイント

特許権のライセンス(実施権の設定・許諾)は、ライセンサーの自己実施の可否・独占か非独占か・再実施権の許諾の可否を中心に検討する。

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ライセンスの5つのパターン一覧

すでに触れましたが、特許権のライセンスは、専用実施権と4つの通常実施権の、合計5つのパターンがあります。

通常実施権の4パターンは、完全か非完全か、独占か非独占かによって、分類されます。

以下は、これらの5つのパターンを簡単にわかりやすくまとめた表です。

完全・非完全 独占的・非独占的
専用実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
完全独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
非完全独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
完全非独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができる。
非完全非独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができる。

これに加えて、ライセンシー=受託者が、第三者に対して、通常実施権の再許諾(サブライセンス)ができるかどうかが、ポイントとなります。

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【パターン1】専用実施権

完全・非完全 独占的・非独占的
専用実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。

専用実施権は滅多に設定されない強力な権利

専用実施権の概要は、すでに触れたとおりですが、ライセンサー=委託者は、自己実施ができず、また、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができません。

つまり、専用実施権の場合、特許権を実施できるのは、ライセンシー=受託者だけです。

専用実施権は、通常実施権に比べて、ライセンシー=受託者の権利が非常に強く、また、設定登録という手続きが必要です。

また、特許権者自身による自己実施ができなくなります。

この点から、よほど特殊な事情がある場合や、ライセンシー=受託者の立場が強い場合でもない限り、滅多に設定されることはありません。

当然ながら、業務委託契約の一部の契約内容としても、まず設定されることはありません。

業務委託契約のために敢えて専用実施権を設定する場合は?

例外として、受託者の立場が非常に強い場合に、受託者自身が独占的に、ある製品・部品の生産を丸抱えする取引きの場合は、あえて専用実施権を設定することもあります。

というのも、専用実施権は、第三者からの特許権侵害があった場合、ライセンシー=受託者自らが、差止請求や損害賠償請求で対応ができる、という特徴もあります。

このため、ライセンサー=委託者では特許権侵害での差止請求や損害賠償請求の対応が難しい場合は、敢えて専用実施権を設定します。

そのうえで、こうした差止請求や損害賠償請求を含めて、ライセンサー=委託者に丸投げする、という方法もあります。

これは、例えば、ライセンサー=委託者が中小企業で、ライセンシー=受託者が大手企業の場合が該当します。

ポイント

専用実施権は、ライセンシー=受託者に強力な権利を与えることになる。このため、業務委託契約での特許権のライセンスとしては、滅多に使われない。

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【パターン2】完全独占的通常実施権

完全・非完全 独占的・非独占的
完全独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。

専用実施権とは違いライセンシーは差止請求・損害賠償請求ができない

完全独占的通常実施権は、専用実施権と似た通常実施権で、ライセンサー=委託者は、自己実施ができず、また、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができません。

つまり、完全独占的通常実施権の場合、特許権を実施できるのは、ライセンシー=受託者だけです。

専用実施権との違いは、すでに触れたとおりです。

専用実施権との最も大きな違いは、第三者からの特許権侵害があった場合に、ライセンサー=委託者が、差止請求や損害賠償請求などの対応ができない、という点です。

ただ、通常のライセンス契約とは違って、業務委託契約の内容として通常実施権を許諾している場合、ライセンサー=委託者が第三者からの特許権侵害を放置することは、まず考えられません。

ですから、この点につきましては、専用実施権と完全独占的通常実施権は、実質的にはあまり差がないといえます。

業務委託契約のために完全独占的通常実施権が設定されることは滅多にない

完全独占的通常実施権は、専用実施権ほどではないにせよ、ライセンシー=受託者に非常に強い権利があるライセンス契約です。

業務委託契約(特に製造業の業務委託契約)では、完全独占的通所実施権を設定するということは、特許権だけではなく、その業務について、独占的に引き受けることになります。

そういう意味では、ライセンシー=受託者にとっては、非常に魅力的なライセンスといえます。

ただ、こうした業務委託契約では、通常は、ライセンサー=委託者のほうが立場が強く、ライセンシーのほうが立場が弱いものです。

このため、専用実施権と同様に、完全独占的通常実施権が許諾されることは、まずありません。

ポイント

専用実施権ほどではないにせよ、完全独占的通常実施権もまた、ライセンシー=受託者に強力な権利を与えることになる。このため、業務委託契約での特許権のライセンスとしては、滅多に使われない。

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【パターン3】非完全独占的通常実施権

完全・非完全 独占的・非独占的
非完全独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。

グループ企業などでありがちなライセンス契約

非完全独占的通常実施権は、ライセンサー=委託者は、自己実施ができますが、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができません。

つまり、非完全独占的通常実施権の場合、特許権を実施できるのは、ライセンサー=委託者とライセンシー=受託者だけです。

両者が特許権を実施でき、かつ、第三者に対して通常実施権の許諾(再許諾)ができない、という点では、対等な契約内容といえます(ただし、ライセンシー=受託者に通常実施権の再許諾が認められていない場合に限ります)。

この点から、グループ企業間や親子会社間の業務委託契約、あるいは親密な関係の企業間の業務委託契約で設定されることがあります。

いいかえれば、業務委託契約の特許権のライセンスとしては、あまり一般的なものではありません。

ポイント

非完全独占的通常実施権は、グループ企業内での業務委託契約で使われる場合があるものの、独立した企業同士の業務委託契約では、あまり使われない方法。

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【パターン4】完全非独占的通常実施権

完全・非完全 独占的・非独占的
完全非独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができる。

ライセンサーが自己実施できないのにライセンシーは第三者への実施権の許諾ができる

完全非独占的通常実施権は、ライセンサー=委託者は、自己実施ができませんが、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができます。

つまり、完全非独占的通常実施権の場合、特許権を実施できるのは、ライセンシー=受託者と、ライセンシー=受託者以外に特許権の通常実施権の許諾がされた第三者です。

完全非独占的通常実施権は、ライセンサー=委託者自身の自己実施が禁止されているにもかかわらず、ライセンシー=受託者以外の第三者には通常実施権の許諾ができる、という特殊なライセンスです。

このため、一般的な業務委託契約やライセンス契約では、滅多に採用されないライセンスの方式です。

ファブレスメーカーや大学が保有する特許権の場合はありえる

では、どのような場合に、完全非独占的通常実施権でのライセンスがあるのかといえば、ファブレスメーカーや大学がライセンサーになる場合です。

ファブレスメーカーや大学は、生産手段を持っていませんので、特許権を自己実施することはありません。

ただ、生産手段がないのであれば、実質的に特許権の自己実施をする能力がない以上、わざわざ自己実施を禁止する必要もありません。

ですから、受託者=ライセンシーの側から強い要望がない限り、通常は、完全非独占通常実施権とはせずに、次項の非完全非独占的通常実施権の許諾とします。

ポイント

完全非独占的通常実施権は、業務委託契約としても、ライセンス契約としても、非常に特殊で、滅多に使われない。ただし、ファブレスメーカーや大学がライセンサーとなる場合で、ライセンシーの立場が強いときは、使われることもある。

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【パターン5】非完全非独占的通常実施権

完全・非完全 独占的・非独占的
非完全非独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができる。

非完全非独占通常実施権=本来の「通常実施権」

非完全非独占的通常実施権は、ライセンサー=委託者は、自己実施ができますし、ライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができます。

つまり、非完全非独占的通常実施権の場合は、特許権を実施できるのは、ライセンサー=委託者、ライセンシー=受託者、ライセンシー=受託者以外に特許権の通常実施権の許諾がされた第三者です。

一般的に、単に「通常実施権」といえば、この非完全非独占的通常実施権のことをいいます。

つまり、非完全非独占的通常実施権は、本来の=デフォルトの通常実施権ということです。

特許権のライセンスが含まれる業務委託契約では最も一般的

一般的に、業務委託契約、特に製造業の業務委託契約において、委託者が受託者に対し、自らの特許権の通常実施権を許諾する場合は、この非完全非独占通常実施権とします。

というのも、非完全非独占通常実施権では、委託者=ライセンサー自身が実施できますし、受託者=ライセンシー以外の第三者にも通常実施権の許諾ができます。

ということは、委託者=ライセンサーとしては、自身で生産したり、受託者以外の第三者に生産を委託することもできます。

これにより、相見積もりで製品・部品の単価を下げたり、品質を保つなど、多くの事業上のメリットがあります。

このため、委託者=ライセンシーがよほど強い立場にある場合など、特殊な場合を除いて、一般的には、業務委託契約での特許権のライセンスは、この非完全非独占通常実施権とします。

ポイント

非完全非独占通常実施権は、一般的な「通常実施権」のことで、特許権のライセンスがある業務委託契約では、最も一般的な方法。