こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、危険負担の移転の条項について、簡単にわかりやすく解説しています。

物品・製品・成果物等の目的物の引渡しがともなう業務委託契約では、危険負担の移転の時期を規定します。

ここでいう「危険」とは、後発的事由によって、債務の給付=業務としての物品・製品・成果物等の納入が不能となることを意味します。

こうした後発的な事由による債務の給付不能(特に委託者・受託者双方の責任でないもの)について、いつの時点でどちらが責任を負うべきか、という点を「危険負担の移転」の条項で規定します。

危険負担の移転の時期は、委託者にとっては遅いほうが、受託者にとっては早いほうが有利ですから、利害が対立します。

このため、「危険負担の移転」の条項では、妥協点が重要となります。

このページでは、こうした危険負担の移転に関するポイントについて、解説しています。

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業務実施ができない場合の危険の負担を決める

目的物に損害が発生した場合の負担に関する規定

危険負担の移転の条項は、物品・製品・成果物等の目的物が引渡される業務委託契約において規定される条項です。

こうした業務委託契約の場合、後発的な事由によって、受託者の債務の給付が不能となることがあります。

例えば、天変地異のような不可抗力や火災などの災害が後発的な事由に該当します。

このような事由が発生した場合、誰がその給付の不能に関する損害を負担するのか、という点が問題となります。

【意味・定義】危険負担とは?

こうした損害の負担について規定した条項が、「危険負担の移転」の条項です。

【意味・定義】危険負担の定義

危険負担とは、後発的な事由によって、目的物になんらかの損害が生じた場合における損害の負担をいう。

危険負担の移転の条項では、こうした危険負担をする契約当事者を規定します。

具体的には、まずは受託者が負担したうえで、いずれかの時点で委託者にその負担が移転します。

このため、移転の時期(一般的には目的物の納入時か検査合格時)は、非常に重要です。

ポイント

危険負担の移転の条項では、物品・製品・成果物等の目的物の納入=業務の実施ができなくなった場合の責任の負担を決める。

危険負担の問題となる4パターンの損害

後発的事由によって損害が発生するのは4パターン

業務委託契約において、後発的事由によって危険負担の問題となる損害が発生するのは、4パターンあります。

(※あくまで、一般的な業務委託契約における内容であり、契約内容によっては、必ずしも同様の内容とはならない場合があります)

後発的事由で損害が発生するパターン

  1. 受託者の責任によって発生する損害(債務不履行)
  2. 委託者の責任によって発生する損害(危険負担)
  3. 委託者・受託者の双方に責任がある事由によって発生する損害(債務不履行+過失相殺)
  4. 委託者・受託者の双方に責任がない事由によって発生する損害(危険負担)

業務委託契約において、危険負担の移転が問題となるのは、このうちの4点目です。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

受託者の責任によって発生する損害(債務不履行)

受託者の責任によって損害が発生した場合は、危険負担の問題ではありません。

というのも、受託者の責任によって債務の給付が不能となった場合、受託者にとっての債務(委託者にとっての債権)は、損害賠償請求権(+契約解除権)として、依然として残ります。

このため、受託者の責任による損害については、どちらかといえば債務不履行=履行不能の問題であり、厳密には危険負担の問題とはなりません。

こうした事情があることから、受託者の責任にもとづく危険負担については、業務委託契約では、規定しないか、便宜上規定する程度です。

委託者の責任によって発生する損害(危険負担)

委託者の責任によって損害が発生した場合は、厳密には危険負担の問題ではあります。

というのも、委託者の責任によって債務の給付が不能となった場合、受託者にとっての債務(委託者にとっての債権)は、消滅します。

このため、理論上は、委託者の責任による損害については、債務不履行ではなく、危険負担の問題となります。

もちろん、業務委託契約では、こうした場合の損害に関する危険負担は、時期に関係なく、委託者の責任とします。

委託者・受託者の双方に責任がある事由によって発生する損害(債務不履行+過失相殺)

委託者・受託者の双方に責任がある事由によって損害が発生した場合、受託者単体の責任の場合と同様に、債務不履行の問題となります。

この場合も、受託者にとっての債務(委託者にとっての債権)は、損害賠償請求権(+契約解除権)として、依然として残ります。

ただし、受託者単体の責任による損害とは違って、委託者にも責任がありますので、その責任との過失相殺(民法第418条)があります。

このため、受託者も、責任を負うことになります。

委託者・受託者の双方に責任がない事由によって発生する損害(危険負担)

委託者・受託者の双方に責任がない事由によって損害が発生した場合、危険負担の問題となります。

実は、こうした、委託者・受託者の双方の責任がない事由にもとづく危険負担が、もっとも典型的で重要な危険負担です。

すでに述べたとおり、委託者・受託者のいずれかに責任がある場合、理論上の根拠は別でも、その責任は、責任がある当事者が責任を取るのが当然です。

これに対し、どちらにも責任がない場合は、当然ながらどちらも責任を取りたがりません。

逆にいえば、こうした事情があるため、わざわざ業務委託契約で、危険負担について規定する必要があります。

【整理】後発的事由による債務の給付不能のまとめ

これらをわかりやすく整理すると、後発的事由によって発生した債務の給付不能や損害に関する危険負担・債務不履行は、委託者・受託者の責任の有無により、次のとおりです。

責任当事者 危険負担・債務不履行
(履行不能)の別
負担当事者
受託者 債務不履行(履行不能) 受託者
委託者 危険負担 委託者
委託者・受託者双方 債務不履行(履行不能) 委託者・受託者双方
(過失相殺による)
委託者・受託者いずれも責任がない 危険負担 業務委託契約の内容次第。
危険負担の規定がなければ民法による

繰り返しになりますが、この4点目の委託者・受託者いずれも責任がない損害が、業務委託契約では問題となります。

ポイント

  • 一般的な業務委託契約において、後発的事由によって損害が発生するのは4パターン。このうち、危険負担の問題となるのが2パターンで、債務不履行=履行不能の問題となるのが2パターン。
  • 受託者の責任によって発生する損害(債務不履行)=受託者の責任。
  • 委託者の責任によって発生する損害(危険負担)=受託者の責任。
  • 委託者・受託者の双方に責任がある事由によって発生する損害(債務不履行+過失相殺)=委託者・受託者双方の責任。
  • 委託者・受託者の双方に責任がない事由によって発生する損害(危険負担)=納入時または検査合格時までは受託者の責任。

危険負担の移転の時期は納入時か検査完了時

危険負担は受託者から委託者に移転する

委託者・受託者の双方に責任がない場合、一般的な業務委託契約では、危険負担は、受託者から委託者に移転するように規定します。

このため、どの時点で移転するのかが重要となります(後に触れますが、一般的には、納入時か検査完了時とします)。

なお、実務上は、上記の1点目と4点目、つまり受託者単体に責任がある場合と委託者・受託者双方に責任がない場合を合わせて規定します。

言いかえれば、「委託者に責任がない場合」の危険負担について、規定します。

危険負担の移転の時期は委託者・受託者の利害が対立する

委託者・受託者の双方は、当然のことながら、危険負担=リスクを負うことを避けようとします。

また、繰り返しになりますが、危険負担は、受託者から委託者に移転します。

このため、委託者・受託者は、それぞれ、危険負担について、次のように考えます。

危険負担に関する委託者・受託者の双方の思惑

  • 委託者:遅い時期に危険負担が移転したほうがいい。
  • 受託者:早い時期に危険負担が移転したほうがいい。

つまり、物品・製品・成果物の引渡しを受ける委託者にとっては、なるべく遅くまで危険負担が移転しないほうが有利といえます。

他方、物品・製品・成果物の引渡しをする受託者にとっては、なるべく早く危険負担が移転したほうが有利です。

このように、危険負担の移転の条項は、委託者・受託者の間で、完全に利害が対立する条項です。

通常は納入時か検査完了時に危険負担が移転する

この点につき、一般的な業務委託契約では、委託者・受託者の双方に責任がない場合における危険負担の移転の時期は、納入時または検査完了時のいずれかとします。

つまり、納入時または検査完了時のいずれかまでは受託者が危険負担の責任を負い、それ以降は委託者が危険負担の責任を負います。

この点について、一般的な業務委託契約では、検査は、納入の後で実施されます。

業務委託契約の納期(納入期限・納入期日)・作業期間とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?

業務委託契約の検査期間・検査期限と検査手続きとは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?

つまり、危険負担の移転の時期は、より早い納入時のほうが受託者にとっては有利であり、より遅い検査完了時のほうが委託者にとって有利ということです。

危険負担の移転時期の有利・不利

  • 受託者:より早い方=納入時のほうが有利
  • 委託者:より遅い方=検査完了時のほうが有利

理論上は他の時期に危険負担を移転させることができる

危険負担の移転時期を物品・製品・成果物の完成時にすることもできる

なお、この他の時期であっても、理論上は、危険負担を移転させることはできます。

例えば、受託者にとって最も有利なのは、物品・製品・成果物が完成した時点で、委託者に危険負担を移転させる規定です。

ただ、こうした規定では、受託者の倉庫にある、出荷前の物品・製品・成果物に関する損害まで、委託者が負担しなければなりません。

こうした、あまりにも受託者にとって有利な契約内容は、一般的な業務委託契約で規定しません。

危険負担の移転時期を報酬・料金・委託料の支払完了時とすることもできる

これとは逆に、委託者にとって最も有利なのは、報酬・料金・委託料の支払いを完了した時点で、委託者に危険負担を移転させる規定です。

言いかえれば、報酬・料金・委託料の支払いを完了するまでは、報酬・料金・委託料に発生した損害について、委託者は責任を負担しない、ということです。

ただ、こうした規定では、すでに納入や検査まで終わり、委託者の倉庫にある、物品・製品・成果物に関する損害まで、受託者が負担しなければなりません。

こうした、あまりにも委託者にとって有利な契約内容は、一般的な業務委託契約では規定しません。

ポイント

  • 業務委託契約の目的物である物品・製品・成果物等の危険負担は、受託者から委託者に移転する。
  • 委託者としては、遅い時期に危険負担が移転したほうがいい。
  • 受託者としては、早い時期に危険負担が移転したほうがいい。
  • 一般的な業務委託契約では、納入時か検査完了時に危険負担が移転する。
  • 受託者としては、より早い方=納入時のほうが有利。
  • 委託者としては、より遅い方=検査完了時のほうが有利。

民法での危険負担の規定は「債務者主義」

危険負担の考え方は債権者主義と債務者主義

民法における危険負担には、何らかの目的物の引渡しを請求できる債権について、債権者主義と債務者主義の2種類があります。

民法での危険負担の分類

  • 【例外】債権者主義(民法第534条、第353条):債権者が危険を負担する制度。債権者は、目的物が滅失・毀損した場合、代金・報酬・料金・委託料を支払う義務がある。
  • 【原則】債務者主義(民法第536条):債務者が危険を負担する制度。債務者は、目的物が滅失・既存した場合、代金・報酬・料金・委託料を請求する権利はない。

民法では、第534条と第535条で先に例外について規定しつつ、第536条でこれらの以外=原則を規定しています。

業務委託契約でいえば、受託者が何らかの物品・製品・成果物等の目的物を引渡す契約内容の場合に、火災などの後発的な事由でその目的物が滅失してしまったときが該当します。

こうした場合、債権者(委託者)がその損害を負担するのが、債権者主義であり、債務者(受託者)が負担するのが債務者主義です。

民法の危険負担は契約実務の実態に合っていない

民法における危険負担の規定は、企業間取引の実態と合っていない部分があります。

また、契約内容や、契約の目的物によって、誰が危険負担を負うのかが、非常に複雑に規定されています。

このため、通常の契約実務では、民法とは異なる形で、危険負担の移転について規定することが多いです。

逆にいえば、危険負担の移転について規定されていないと、危険負担の当事者や負担の範囲を巡って、トラブルになる可能性があります。

ポイント

  • 債権者主義とは、物品・製品・成果物の引渡しを請求できる債権者が危険を負担する制度。債権者は、目的物が滅失・毀損した場合、代金・報酬・料金・委託料を支払う義務がある。
  • 債務者主義とは、物品・製品・成果物の引渡しをする義務がある債務者が危険を負担する制度。債務者は、目的物が滅失・既存した場合、代金・報酬・料金・委託料を請求する権利はない。
  • 民法の危険負担は契約実務の実態に合っていない部分があるため、業務委託契約で修正する必要がある。

【例外】債権者主義は委託者が危険を負担する

売買契約等の危険負担は債権者主義

民法第534条では、危険負担について、次のとおり規定しています。

民法第534条(債権者の危険負担)

1 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

2 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

本条が適用される業務委託契約の場合、「債権者の負担」とあるとおり、その危険は、債権者(委託者)の負担となります。

ここでいう「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約」とは、一般的には売買契約などが該当します。

特定物=債権者主義・不特定物=債務者主義

【意味・定義】特定物・不特定物とは?

特定物・不特定物とは、次のとおりです。

特定物・不特定物の定義

  • 特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性について着目した特定の有体物をいう。
  • 不特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性ではなく、単に種類・性質・型番などに着目した有体物をいう。

不特定物は実質的には債務者主義

民法第534条では、第1項で、特定物に関する契約を債権者主義としています

他方、第2項で、不特定物に関する契約については、「第401条第2項の規定によりその物が確定した時から」第1項を適用する内容となっています。

民法第401条(種類債権)

1 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。

2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

ここでいう「債務者が者の給付をするのに必要な行為」とは、必ずしも明確な基準があるわけではありません。

ただ、例えば、売買契約において、債権者(委託者)の住所に目的物を納入する場合は、実際に納入することが「必要な行為」を完了したことになります(大審院判決大正8年12月25日)。

つまり、不特定物の取引に関する売買型の業務委託契約では、危険負担は、実質的には、債権者(委託者)が危険を負担する、債務者主義(民法第536条)といえます。

危険負担は受託者の責任によらない場合のみ

特定物の契約に関しては、民法第534条第1項に「その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したとき」とあります。

つまり、危険負担が問題となるのは、あくまで、債務者(受託者)の責任によらずに、後発的な事由=危険が発生した場合だけです。

逆にいえば、特定物の契約に関しては、次の2パターンで問題となります。

危険負担が発生する2パターン

  • 債権者(委託者)・債務者(受託者)のいずれの責任にもよらない事由(例:火災等)によって、目的物が滅失・損壊した場合。
  • 債権者(委託者)の責任による事由によって、目的物が滅失・損壊した場合。

これらの場合は、いずれも債権者(委託者)の責任となります。

なお、債務者(受託者)の責任による目的物の滅失・損壊は、債務不履行=履行不能の問題となります。

契約の実態に合っていない債権者主義

【整理】特定物の契約に関する危険負担・債務不履行の4パターン

特定物の契約に関する危険負担の債権者主義と債務不履行について整理すると、次のとおりです。

債権者主義の危険負担・債務不履行

売買契約等(売買型の業務委託契約)において、後発的事由によって発生した特定物である目的物の滅失・損壊=債務の給付不能に関する危険負担・債務不履行は、委託者・受託者の責任の有無により、次の4パターンに分類される。

責任当事者 危険負担・債務不履行
(履行不能)の別
負担当事者
債務者(受託者) 債務不履行(履行不能) 債務者(受託者)
債権者(委託者) 危険負担(債権者主義) 債権者(委託者)
債権者(委託者)・債務者(受託者)双方 債務不履行(履行不能) 債権者(委託者)・債務者(受託者)双方
(過失相殺による)
債権者(委託者)・債務者(受託者)いずれも責任がない 危険負担(債権者主義) 債権者(委託者)

非常に問題が多い「どちらの責任でもない」場合

ここで問題となるのが、上記の4点目です。

つまり、債権者(委託者)・債務者(受託者)のどちらの責任でもない場合に、果たして、債権者(委託者)に危険負担を負わせてもよいか、という点です。

具体的には、次のような例の場合です。

債権者主義の問題点の具体例

  • ある物品の購入を希望する委託者が、その物品を製造する受託者の工場兼倉庫を視察し、その場で商談が成立し、業務委託契約を取交した。
  • 契約内容は、その物品を1,000個を委託者の倉庫に納入されるものである。
  • 200個は在庫があったので、残りの800個が製造され、まとめて納入される。
  • 理論上は、200個については、特定物の売買契約であり、800個については、請負契約である。
  • 後日、納入がある前に、地震により物品・工場・倉庫とも全壊し、物品の製造ができなくなった。

こうした場合、200個については、特定物の売買契約であるところから、債権者主義となり、委託者(債権者)がその危険を負担することにあります。

つまり、委託者(債権者)は、地震で引渡しがされなくなった200個の物品の代金を支払う義務があります。

業務委託契約では必ず特約で危険負担の移転時期を規定する

この点が、特定物の売買における危険負担で、非常に多くの批判がある点です。

危険負担における債権者主義の問題点

民法の規定どおりでは、特定物に関する売買型の業務委託契約の場合において、委託者・受託者のどちらの責任でもない危険が発生したときは、委託者は、自分の手元にない特定物の危険についても、負担しなければならない。

こうした事情があるため、一般的な売買契約・取引基本契約・売買型の業務委託契約では、民法の規定とは別に、危険負担の移転の時期を規定します。

なお、800個の方は、請負契約であるため、危険負担は債務者主義となり、委託者は、報酬・料金・委託料を支払う義務がありません。

【補足】民法第535条について

停止条件付双務契約の危険負担とは?

なお、一定の前提条件(停止条件)がある契約の危険負担については、民法では、次のとおり規定されています。

民法第535条(停止条件付双務契約における危険負担)

1 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。

2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。

3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

第1項は、ある前提条件が成立した場合に目的物の売買等がなされる契約において、その条件が満たされる前に目的物が滅失したときは、危険負担の問題とはなりません。

この場合は、その目的物の損害は、債務者が負担することになります。

第2項は、目的物が、第1項のような滅失ではなく、損傷した場合は、その危険負担は債権者が負う、ということです。

第3項は、債務者の責任で目的物が損傷した場合に、条件が成就したときは、債権者は、契約履行+損害賠償請求か、契約解除+損害賠償請求のいずれかを選択できる、ということです。

停止条件付双務契約の危険負担の具体例

企業間取引としては、具体的には、次のような設例が考えられます。

停止条件付双務契約の危険負担の具体例

  • 銀行の融資が決定した場合(停止条件)に、ある中古車の売買が成立する契約を締結した。
  • 【第1項】銀行の融資の審査の途中で中古車が第三者による放火で滅失した場合は、債務者(売主)がその損害を負担する。
  • 【第2項】地震によって中古車の車体の一部にキズ・ヘコみ=損傷ができた場合は、債権者(買主)がその損害を負担する。
  • 【第3項】債務者(売主)の運転による事故で中古車が一部壊れた場合は、債権者(買主)は、買取り+損害賠償請求か契約解除+損害賠償性キュのどちらかを選べる。

特に、第2項については、滅失と損傷によって、債務者(売主)と債権者(買主)の責任が真逆になっています。

このように、滅失と損傷によって結論がことなる点については、多くの学者が批判している点です。

ポイント

  • 特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性について着目した特定の有体物をいう。
  • 不特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性ではなく、単に種類・性質・型番などに着目した有体物をいう。
  • 特定物の売買契約等の危険負担は、原則として債権者主義。
  • 原則として、特定物の危険負担は債権者主義、不特定物の危険負担は債務者主義。
  • 債務者の責任による場合は、危険負担ではなく債務不履行=履行不能の問題。

【原則】債務者主義は受託者が危険を負担する

請負契約等の危険負担は債務者主義

さて、今まで解説した民法第534条と第535条は、目的物が特定物であり、契約内容が「物権の設定又は移転」である場合が前提であり、こちらはむしろ例外といえます。

これに対し、これらの例外を除いた原則が、次の民法第536条です。

民法第536条(債務者の危険負担等)

1 前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

本条が適用される業務委託契約の場合、「債務者の負担」とあるとおり、その危険は、債務者(受託者)の負担となります。

本条は、特に請負型の業務委託契約に適用される規定です。

当事者双方の責任によらない場合は債務者主義

不特定物の契約等に関しては、債務の給付不能について、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって」(民法第536条第1項)と規定されています。

つまりこれは、第三者の責任や、自然災害等の不可抗力によって発生した給付不能を意味します。

この場合は、「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」、つまり、債務者は、報酬・料金・委託料等を受取る権利はありません。

このため、目的物に発生した損害は、債務者の負担(=債務者主義)となります。

債権者の責任による場合は債権者の負担

また、同様に、債務の給付不能について、「債権者の責めに帰すべき事由によって」(民法第536条第2項)と規定されています。

この場合も、危険負担の問題ではありますが、あくまでその原因は、債務者の責任によって発生したものです。

この場合は、「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」、つまり、債務者は、なお報酬・料金・委託料等を受取る権利があります。

この際、「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」、例えば、請負契約の場合において、材料費を受注者の負担としたときは、その利益=材料費は返還しなければなりません。

【整理】不特定物の契約に関する危険負担・債務不履行の4パターン

不特定物の契約に関する危険負担の債権者主義と債務不履行について整理すると、次のとおりです。

債務者主義の危険負担・債務不履行

請負契約等(請負型の業務委託契約)において、後発的事由によって発生した不特定物である目的物の滅失・損壊=債務の給付不能に関する危険負担・債務不履行は、委託者・受託者の責任の有無により、次の4パターンに分類される。

責任当事者 危険負担・債務不履行
(履行不能)の別
負担当事者
債務者(受託者) 債務不履行(履行不能) 債務者(受託者)
債権者(委託者) 危険負担(債権者主義) 債権者(委託者)
債権者(委託者)・債務者(受託者)双方 債務不履行(履行不能) 債権者(委託者)・債務者(受託者)双方
(過失相殺による)
債権者(委託者)・債務者(受託者)いずれも責任がない 危険負担(債務者主義) 債務者(受託者)
ポイント

  • 特定物の売買契約等以外の契約、特に請負契約の危険負担は、原則として債務者主義。
  • 債権者の責任による場合は、債権者主義。
  • 債務者の責任による場合は、危険負担ではなく、債務不履行=履行不能の問題。
  • 債権者・債務者のいずれの責任でもない場合は、債務者主義。

業務委託契約で危険負担の移転を規定する理由

業務委託契約ではわざわざ危険負担の移転について規定する

すでに述べたとおり、一般的な業務委託契約では、危険負担の移転について、規定することが多いです。

契約内容が民法と同様の内容となる場合であっても、わざわざ規定します。

これには、いくつかの理由があります。

以下、詳しく解説します。

【理由1】民法の規定とは別の内容とするため

特定物の売買がともなう業務委託契約の場合、委託者(買主)・受託者(売主)の双方に責任がないときは、債権者主義により、委託者(買主)の危険負担とされます(民法第534条第1項)。

つまり、委託者(買主)としては、手元に契約の目的物である物品・製品・成果物等がない場合であっても、責任を負うことになります。

これは、委託者(買主)にとって、非常に不利な内容です。

こうした内容を修正するために、危険負担の移転の条項を規定します。

【理由2】民法の規定がわかりづらいため

すでに解説したとおり、民法の危険負担の規定は、非常にわかりづらい、という特徴があります。

このため、いざトラブルとなった際、相手方に民法の内容を主張しても、そもそも主張を理解すらしてもらえない可能性があります。

こうした事態を予防するため、契約書には、危険負担について、シンプルにわかりやすく規定します。

こうすることで、トラブルとなった際にも、少なくとも主張を理解してもらえない、ということはなくなります。

【理由3】規定がないことによる相手方の主張を封じるため

また、仮に相手方が民法の内容を理解できたとしても、必ずしもその主張を受け入れるとは限りません。

民法の危険負担の規定は、非常に複雑であるため、相手方と主張・解釈が対立する内容が、いつくもあります。

こうした主張・解釈の対立を防ぐためにも、契約書には、危険負担の移転について規定します。

こうすることで、トラブルとなった際も、相手方が民法にもとづく意図的・恣意的な主張・解釈ができないようにします。

【理由4】業務委託契約の契約形態が明記されていないとトラブルになるため

業務委託契約は定義がない

業務委託契約は、法律上は定義がない契約であり、実態は、約7パターンの契約のいずれかです。

業務委託契約の7つのパターン―請負・委任・偽装請負・雇用・売買(譲渡)・寄託・組合

こうした契約形態を契約内容として明記していれば、危険負担の移転の条項が契約内容としてなかったとしても、民法のどの危険負担の規定を適用するのか、一応は判断がつきます。

逆にいえば、契約形態について明記されていないと、トラブルの際に、相手方としては、当然自社にとって有利となるような、民法上の危険負担の主張・解釈をしてきます。

業務委託契約の契約形態とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?

売買型と請負型の業務委託契約では適用される危険負担の条項が違う

特に、特定物の売買契約(民法第534条)と請負契約(民法第536条)では、危険負担について、結論が違ってくる場合があります。

ただ、そもそも売買契約と請負契約の違いは、明確な線引きが難しいものです。

例えば、ある物品・製品が同じものでも、自社で製造しているものを納入する場合(請負契約)と、外注先から調達したものを納入する場合(売買契約)では、外形的には同じでも、契約形態は別物です。

こうした場合、民法上のどの規定が適用されるのかが不明確となり、トラブルとなった場合に、相手方と主張・解釈が対立する可能性があります。

こうした事態が起きないように、業務委託契約書では、危険負担の移転について、明記します。

ポイント

  • 業務委託契約では、わざわざ危険負担の移転について規定する。
  • 【理由1】民法の規定を修正し、民法とは別の内容とするため。
  • 【理由2】トラブルになった場合に、わかりづらい民法の規定ではなく、わかりやすい業務委託契約の規定で、相手方に主張を理解してもらうため。
  • 【理由3】危険負担の移転の規定がないことによる、相手方の民法にもとづく意図的・恣意的な主張を封じるため。
  • 【理由4】業務委託契約の契約形態が明記されていないと、民法のどの規定を適用するべきかの主張・解釈を巡ってトラブルになるため。

【補足】所有権の移転の時期について

危険負担の移転の時期と同様に問題となる契約条項に、所有権の移転の時期があります。

所有権の移転の時期は、危険負担の移転の時期とセットで考えられることが多い条項です。

所有権の移転の時期の詳しい解説につきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約の所有権の移転の時期とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?