業務委託契約・下請契約等で、受託者・下請事業者が、委託者・親事業者や再委託先・孫請事業者に対して、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止できますか?また、これらは違法にはならないのでしょうか?
業務委託契約・下請契約等では、受託者・下請事業者が、委託者・親事業者と再委託先・孫請事業者による直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止したとしても、原則として違法にはなりません。なお、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの原因によってはその原因が違法となる可能性はありますが、そのことにより直接取引・直接契約・中抜きが違法とはなりません。

このページでは、主に業務委託契約・下請契約の受託者・下請事業者向けに、委託者・親事業者と再委託先・孫請事業者による直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止する契約条項の適法性・違法性について解説しています。

業務委託・下請契約では、原則として、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止したとしても、そのこと自体は、特に違法にはなりません。

ただし、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きに至る原因が違法行為(例:中間マージンが高過ぎる、等)であることもあります。

この場合は、その原因自体は違法行為となっても、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止そのものは違法とはなりません。

このページでは、こうした直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止に関する契約条項の適法性・違法性について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 業務委託・下請契約において、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項が有効・適法である理由。
  • 直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項が独占禁止法に抵触しない理由。
  • 委託者・親事業者や再委託先・孫請事業者が直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをおこなった場合に発生するペナルティ。




直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止は適法・合法

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの問題点とは?

再委託や孫請がある業務委託契約では、委託者や親事業者が、再委託先や孫請事業者と直接契約をすることがあります。

具体的には、次のような取引です。

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの具体例
  • 業務委託契約において、委託者から委託された業務を受託者が受託して再委託先に再委託している場合、委託者が、受託者を排除して、直接、再委託先と取引、契約、交渉等の中抜きをおこなうこと。
  • 下請取引において、親事業者から委託された業務を下請事業者が受託して孫請事業者に再委託している場合、親事業者が、下請事業者を排除して、直接、孫請事業者と取引、契約、交渉等の中抜きをおこなうこと。

この場合、直接契約をすることで、受託者・下請事業者の中間マージンが無くなり、委託者・親事業者と再委託先・孫請事業者としては、それぞれ利益が増えることとなります。

他方で、間に入った受託者や下請事業者としては中間マージンの分の利益が無くなってしまいます。

そこで、受託者や下請事業者は、業務委託契約において、再委託先や孫請事業者に対し、場合によっては委託者や親事業者に対しても、こうした直接契約を禁止することがあります。

これが、業務委託における直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの問題です。

「契約自由の原則」により適法・合法・有効となる

結論としては、業務委託契約において、直接取引を禁止する契約条項は、契約自由の原則のうち、内容自由の原則(民法第521条第2項)により、原則として有効となります。

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者が、契約について自由に決められる原則をいう。契約自由の原則は、さらに以下の4つに分類される。

  • 契約締結自由の原則
  • 相手方自由の原則
  • 内容自由の原則
  • 方式自由の原則

民法第521条(契約の締結及び内容の自由)

1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

現行法では、直接契約を禁止する内容について「特別の定め」が存在しないため、直接取引を禁止したとしても、無効にはなりません。

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをする自由もある

ただし、委託者・親事業者や再委託先・孫請事業者にも契約自由の原則は適用されます。

具体的には、すでに述べた契約自由の原則のうち、相手方自由の原則により、受託者・下請事業者を排除して、直接契約をする自由があります。

このため、直接契約を禁止した契約条項は、原則として、成立した直接契約を無効にさせることはできません。

ただし、債務不履行等のペナルティ(後述)の対象にはなります。

独占禁止法の排他条件付取引・拘束条件付取引・優越的地位の濫用には該当しない可能性が高い

なお、こうした直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止する契約条項は、原則として、独占禁止法には直ちに抵触はしません。

例えば、独占禁止法の不公正な取引方法の中には、「排他条件付取引」や「拘束条件付取引」があります。

【意味・定義】排他条件付取引とは?

排他条件付取引とは、「不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること」をいう。

【意味・定義】拘束条件付取引とは?

拘束条件付取引とは、再販売価格維持行為等の他、「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」をいう。

これらに該当する具体的な基準については、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」において定められています。

この点について、現在のガイドラインでは、一般的な業務委託や下請けにおいて問題視される直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止については、特に言及はされていません。

また、これは、優越的地位の濫用の濫用についても同様です。

優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」においても、一般的な業務委託や下請けにおいて問題視される直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止については、特に言及はされていません。

この他、独占禁止法、特に不公正な取引方法や優越的地位の濫用につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約では独占禁止法(不公正な取引方法・優越的地位の濫用)に注意

業務の「丸投げ」は原則として適法・合法・有効

このように、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止については、原則として法的に問題となることはありません。

それどころか、いわゆる業務の「丸投げ」についても、原則としては違法とはされていません。

ただし、一部の建設工事請負契約では、いわゆる「一括下請負いの禁止」に抵触する可能性はあります。

この他、業務委託の「丸投げ」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託の「丸投げ」は違法?適法に再委託するためにはどうする?





直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの原因は違法になり得る

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きが発生する原因とは?

このように、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止そのものについては、法的には問題になりません。

ただし、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きが発生する原因については、違法となるものもあります。

代表的な原因としては、受託者と再委託先または下請業者と孫請業者との取引にかかる報酬・委託料等が不当に低い場合です。

つまり、受託者や下請業者の中間マージンが不当に高い場合です。

高過ぎる中間マージンは独占禁止法・下請法・建設業法違反

高過ぎる中間マージンは、独占禁止法の優越的地位の濫用(取引の対価の一方的決定)、下請法の買いたたき、建設業法の不当に低い請負代金のいずれかに該当する可能性があります。

これらの独占禁止法、下請法、建設業法の規定は、それぞれ、以下の場合に適用されます。

独占禁止法・下請法・建設業法が適用される条件
  • 独占禁止法(優越的地位の濫用・取引の対価の一方的決定):すべての企業間取引
  • 下請法(買いたたき):企業間取引のうち、一定の資本金と業務内容の条件を満たしたもの
  • 建設業法(不当に低い請負代金):すべての建設工事請負契約

いずれにせよ、企業間取引である以上は、上記のいずれかに該当することとなります。

上記のいずれかに該当した場合、以下のリスクがあります。

違法な取引価格の引き下げのペナルティ
  • 勧告(下請法第7条第2項)
  • 企業名等の公表(独占禁止法第43条)
  • 排除措置命令(独占禁止法第20条)
  • 課徴金の徴収(独占禁止法第20条の6。ただし減額を継続した場合)

下請法や建設業法(第19条の3)は独占禁止法の特別法です。

【意味・定義】特別法とは?

特別法とは、ある法律(=一般法)が適用される場合において、特定の条件を満たしたときに、一般法よりも優先的に適用される法律をいう。

このため、最終的には、独占禁止法による行政処分等が課されます。

また、公正取引委員会から、改善報告書や改善計画書の提出を求められる場合もあります。

なお、民事上は、勧告や排除措置命令があった場合、不足分の取引価格の支払いをしなければならなくなります。

原因は違法であっても直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きそのものは適法・合法・有効

ただし、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの原因=高過ぎる中間マージンが独占禁止法違反、下請法違反、建設業法違反となった場合であっても、必ずしもこれらを禁止する条項が違法となるとは限りません。

すでに述べたとおり、受託者や下請業者の高過ぎる中間マージンが違法となった場合は、不足分の取引価格の支払いを求められる可能性はあります。

しかしながら、その不足分の支払いと、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止については別問題です。

このため、適正な報酬・委託料等を改めて設定することにより、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止を継続することができます。





直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合のペナルティは?

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きは金銭的なペナルティが発生する

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きが契約上禁止されているにもかかわらず、委託者と再委託先、親事業者と孫請事業者がこれらをおこなった場合、ペナルティが発生します。

【意味・定義】直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きのペナルティ
  • 債務不履行(違約金)
  • 不法行為
  • 不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)

これらは、いずれも損害賠償請求や違約金などの、金銭賠償の原因となります。

以下、それぞれ簡単に解説します。

ペナルティ1:債務不履行(違約金)

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項の違反

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きのペナルティの1つめは、債務不履行(いわゆる「契約違反」)です。

契約条項として直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項がある場合、すでに述べたとおり、これらの条項は有効となります。

このため、これらの条項に違反した場合は、債務不履行となります。

債務不履行となった場合、少なくとも受託者・下請事業者が得られたであろう逸失利益が損害賠償請求の対象となります。

また、契約条項として違約金や賠償額の予定が規定されている場合は、少なくともその金額が損害賠償請求の対象となります。

秘密保持義務違反

なお、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項がない場合であっても、秘密保持義務が規定されている場合があります。

この場合は、秘密保持義務違反となる可能性もあります。

具体的には、委託者や親事業者、再委託先や孫請事業者が、受託者や下請事業者から開示を受けた取引先の秘密情報について、目的外の使用をしたことになります。

この場合も、債務不履行となります。

ペナルティ2:不法行為

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きのペナルティの2つめは、不法行為(民法第709条)です。

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止した条項がない場合であっても、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをしていいとは限りません。

契約条項がない場合であっても、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きによって受託者や下請事業者に損害(逸失利益)を与えた場合は、委託者や親事業者、または再委託先や孫請事業者は、民法第709条による不法行為に該当する可能性があります。

民法第709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条に違反した場合、少なくとも受託者・下請事業者が得られたであろう逸失利益が損害賠償請求の対象となります。

ペナルティ3:不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)

直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きのペナルティの3つめは、不正競争防止法違反、具体的には営業秘密の侵害です。

これは秘密保持義務違反と同様ですが、委託者や親事業者が直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合、委託者や親事業者、再委託先や孫請事業者が、受託者や下請事業者から開示を受けた取引先の営業秘密について、不正に使用をしたことになります。

ただし、不正競争防止法違反となるのは、あくまで、受託者や下請事業者が、委託者や親事業者、再委託先や孫請事業者などの取引先に関する情報について、営業秘密に該当するように管理等をしている場合に限ります。

この他、業務委託契における営業秘密につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における営業秘密(ノウハウ)の権利処理・秘密保持義務の重要性とは?





補足:営業代行・代理店契約でも直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きは禁止できる

営業代行・代理店契約でも「契約自由の原則」により禁止できる

以上のように、業務委託や下請取引では、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを適法に禁止できます。

これは、営業代行契約や代理店契約においても同様です。

営業代行契約や代理店契約では、そもそも委託者やサプライヤーが、顧客と直接契約を締結します。

このため、営業代行契約や代理店契約において問題となるのは、より正確には、報酬・委託料・手数料の負担を免れる目的で受託者や代理店の関与を排除する形で、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをする行為です。

こうした直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをする行為も、適法に禁止できます。

民法第130条により報酬請求権が発生する

このように、委託者やサプライヤーが、報酬・委託料・手数料の負担を免れる目的で、受託者や代理店の関与を排除する形で直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合、結果的には、報酬・委託料・手数料は発生します。

これは、民法第130条第1項によるものです。

民法第130条(条件の成就の妨害等)

1 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。

2 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

一般的に、営業代行契約や代理店契約は、成果報酬であり、成果の発生条件(受託者や代理店の勧誘による契約の成立等)の成就によって報酬・委託料・手数料が発生します

このため、民法第130条あるとおり、委託者やサプライヤーが成果報酬の発生条件を妨げた場合、受託者や代理店は、その成果報酬の発生条件を成就させることができます。

クラウドソーシング・仲介事業でも禁止できる

なお、これは、クラウドソーシングのサービスや、各種仲介事業でも同様です。

通常、クラウドソーシングや仲介事業は、何らかの契約について、プラットフォームとなったり、間に入ったりすることとなりますが、契約そのものについては、当事者間で直接締結されることが多いです。

つまり、構造としては、すでに述べた営業代行契約や代理店契約と同様となります。

このため、同様に、報酬・委託料・手数料の負担を免れる目的で、契約当事者が、クラウドソーシングのプラットフォーマーや仲介業者を排除する形で直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合、結果的には、報酬・委託料・手数料は発生します。





業務委託・下請契約における直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きの禁止に関するよくある質問

業務委託契約・下請契約等で、受託者・下請事業者が、委託者・親事業者や再委託先・孫請事業者に対して、直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止できますか?
業務委託契約・下請契約等では、契約自由の原則により、受託者・下請事業者が、委託者・親事業者と再委託先・孫請事業者による直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きを禁止できます。
直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合のペナルティにはどのようなものがあるのでしょうか?
直接取引・直接契約・直接交渉・中抜きをした場合のペナルティは、主に債務不履行や不法行為などによる損害賠償責任があります。この他、秘密保持義務違反や不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)に該当する可能性もあります。