請負契約は、請負人から解除できますか?
請負契約は、請負人から解除できます。
請負人は、民法上は、注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条)と、債務不履行による解除(民法第541条・第542条)ができます(法定解除権)。
この他、請負契約書に特約として契約解除権が規定されている場合は、契約解除事由が発生したことによる解除ができます(約定解除権)。
ただし、請負人からの契約解除は、報酬・料金の債権回収や損害賠償責任の追求が難しい場合が多いため、事実上は、あまり契約解除をする意味がないことが多いです。

このページでは、請負契約の請負人による契約解除について解説しています。

理屈のうえでは、請負契約において請負人からの契約解除は可能です。

しかしながら、非常に限られた状況でなければ、法定解除権や一般的な約定解除権による契約解除はできません。

しかも、仮に契約解除ができたとしても、報酬や料金の債権回収は非常に難しい状態となっていることが多いです。

このページでは、こうした請負契約の請負人からの契約解除のポイントについて開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページをご覧いただくことで、以下の内容を理解できます。

このページでわかること
  • 請負契約における請負人からの契約解除が可能である理由と条件。
  • 請負契約における請負人からの契約解除のリスクと対応策。

なお、請負契約そのものの詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?




請負契約では法定解除権・約定解除権のいずれかにより請負人から解除できる

請負契約は、請負人から解除できます。

請負契約に限らず、契約は原則として解除できませんが、例外として契約解除事由を満たした場合は解除できます。

請負契約の場合は、以下の3つの場合に契約の解除ができます。

請負人から請負契約の解除ができる場合
  • 注文者についての破産手続が開始された場合
  • 注文者による債務不履行があった場合
  • 特約として規定された契約解除条項の契約解除事由が発生した場合

しかしながら、これらの契約解除事由に該当する場合はまれなケースであるため、請負契約は、請負人からは解除できないことが多いです。

そのうえ、これらの契約解除事由に該当した場合は、すでに仕事が完成(少なくともある程度は着手)している状態であるにもかかわらず、報酬・料金の債権回収が難しい状況になっていることが多いです。





法定解除権・約定解除権とは?

契約解除権は主に法定解除権と約定解除権の2種類

契約解除権には、主に法定解除権と約定解除権の2種類があります。

【意味・定義】法定解除権とは?

法定解除権とは、法律に規定された契約解除権をいう。約定解除権とは別の解除権。

【意味・定義】約定解除権とは?

約定解除権とは、契約当事者の合意によって契約に規定された条件つきの契約解除権をいう。法定解除権とは別の解除権。

請負契約の法定解除権とは?

請負契約において、請負人には、次の解除権が認められています。

【意味・定義】請負契約における請負人の法定解除権とは?

民法上の請負人の法定解除権は次の1つ。

  • 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権(改正民法第642条第1項)
改正民法第642条

民法第642条(注文者についての破産手続の開始による解除

1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。

2 (以下省略)

つまり、あくまで注文者が破産手続の開始の決定を受けなければ、請負人からは契約解除ができません。

この他、請負契約にもとづく法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

請負契約の契約解除権とは?請負人・注文者からの契約解除について解説

債務不履行による法定解除権とは?

なお、請負契約限った法定解除権とは別に、民法上は、契約全般に適用されるものとして、債務不履行があった場合等における法定解除権も規定されています。

民法第541条(催告による解除)

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

上記の条文は、いわゆる「催告解除権」のものです。

こちらは、契約解除事由として「債務を履行しない場合」が規定されています。

民法第542条(催告によらない解除)

1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1)債務の全部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1)債務の一部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

上記の条文は、いわゆる「無催告解除」のものです。

こちらは、債務不履行とその他の契約解除事由が規定されています。

請負契約の請負人としては、第1条第1号、第2号、第5号等が問題となります。

請負契約の約定解除権とは?

一般的な請負契約の約定解除権としては、次の契約解除事由に該当した場合は、契約解除ができるようにします。

契約解除事由の具体例とは?
  1. 公租公課・租税の滞納処分
  2. 支払い停止・不渡り処分
  3. 営業停止・営業許可取り消し
  4. 営業譲渡・合併
  5. 債務不履行による仮差押え・仮処分・強制執行
  6. 破産手続き開始申立て・民事再生手続き開始申立て・会社更生手続開始申立て
  7. 解散決議・清算
  8. 労働争議・災害等の不可抗力
  9. 財務状態の悪化
  10. 信用毀損行為
  11. 契約違反・債務不履行

なお、約定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?書き方・規定のしかたは?





実務上は請負人からの請負契約の解除は難しい

請負契約における請負人からの契約解除事由は非常にレアケース

以上のように、理論上は、請負人から請負契約の解除をすることはできます。

ただ、実際には、以下の契約解除事由のいずれかに該当する必要があります。

請負契約の契約解除事由
  • 注文者についての破産手続が開始された場合
  • 注文者による債務不履行=金銭の支払い未払い・不払い・支払拒絶があった場合
  • 特約として規定された契約解除条項の契約解除事由が発生したイレギュラーの場合

以下、詳しく見ていきましょう。

注文者の破産手続開始=報酬の回収不能

まずは、民法上の請負契約の条項に規定されている「注文者についての破産手続の開始による解除」(民法第642条)です。

そもそも、注文者について破産手続開始がなされること自体、めったにありません。

そのうえ、契約解除ができたとしても、請負人としては、継続して請負契約の債務の履行=仕事の完成をしなくてもよくなるだけであって、報酬・料金の債権回収は、事実上不可能です。

そもそもこの民法第642条は、無駄に仕事をしなくてもいいようにするために規定されたものです。

このため、ただし書きにおいて、「ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。」とあるくらいです。

債務不履行があった状態では債権回収は難しい

債務不履行は後になって発覚する

次に、注文者の債務不履行があった場合です。

請負契約において、主な注文者の債務は、報酬・料金の支払いです。

この報酬・料金の支払いが滞ったり、支払いが不能となったり、支払いを拒否した場合に、初めて契約解除ができるようになります。

つまり、通常は、報酬・料金の支払期限にならなければ、債務不履行になるかどうかの判断ができません。

後払いの場合は報酬・料金の債権回収が難しい

この点につき、一般的な請負契約では、報酬・料金は後払いとなることが多いです。

このため、こうした注文者による債務不履行は、請負人による「仕事の完成」の後となることが多いです。

つまり、なんらかの物品の引渡しがともなう請負契約では、すでにその物品が引渡された後に債務不履行が発覚することとなります。

こうなると、その物品を換金して債権回収を図ることも難しくなります。

約定解除権の行使の場合は契約解除条項の契約解除事由次第

最後に、約定解除権の契約解除事由に該当する場合です。

約定解除権を行使できるかどうかは、実際の契約解除事由次第となります。

すでに述べたように、一般的な契約解除事由は、以下のとおりです。

契約解除事由の具体例とは?
  1. 公租公課・租税の滞納処分
  2. 支払い停止・不渡り処分
  3. 営業停止・営業許可取り消し
  4. 営業譲渡・合併
  5. 債務不履行による仮差押え・仮処分・強制執行
  6. 破産手続き開始申立て・民事再生手続き開始申立て・会社更生手続開始申立て
  7. 解散決議・清算
  8. 労働争議・災害等の不可抗力
  9. 財務状態の悪化
  10. 信用毀損行為
  11. 契約違反・債務不履行

これらは、法定解除権に比べると、多少は契約解除事由が広く規定されています。

しかしながら、この契約解除事由の大半は、注文者にとって差し迫った信用状態の悪化に関するものです。

このため、この契約解除事由に該当する場合であっても、債権回収は非常に難しいと言えるでしょう。





請負契約の請負人は与信調査を徹底する

以上のように、請負人からの請負契約の解除は、理論上はできます。

しかしながら、極めて限られた状況でなければ、請負人からの請負契約の解除はできません。

しかも、契約解除ができたとしても、報酬・料金の債権回収は難しい状態となることが多いです。

このため、請負人として請負契約を締結する場合は、注文者の与信調査を徹底することが重要となります。

また、可能であれば、全額前払いとする、少なくとも半額は前払いにするなど、支払期限や支払条件も工夫するべきでしょう。





請負契約における請負人からの契約解除に関するよくある質問

請負契約において請負人から契約解除ができますか?
請負契約は、請負人から解除できます。具体的には、以下の場合に解除ができます。

  • 注文者についての破産手続が開始された場合
  • 注文者による債務不履行があった場合
  • 特約として規定された契約解除条項の契約解除事由が発生した場合
請負人から請負契約を解除できた場合、報酬・料金の債権回収は可能ですか?
請負契約を解除した場合、請負人は、理屈のうえでは報酬・料金の回収は可能です。しかし、契約解除ができる状況では、注文者に支払能力がない状態であることが多いため、現実的には債権回収が難しくなっていることが多いです。





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