履行期間と契約期間にはどのような違いがあるのでしょうか?
履行期間と契約期間の違いは、履行期間が債務の履行の期間であるのに対し、契約期間は履行期間を含む契約全体の期間であるであることです。

このページでは、履行期間と契約期間の違いについて、わかりやすく解説しています。

履行期間と契約期間は、文字どおり、両者とも期間の一種です。

これらの履行期間と契約期間の違いは、期間の範囲が債務の履行か契約全体か、という点です。

契約実務上は、まったく別物と扱われる場合もあれば、ほとんど同じ意味で使われることもあります。

このページでは、こうした「履行期間と契約期間の違い」について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 履行期間と契約期間の違い。
  • 履行期間と契約期間の契約実務上の扱い。




履行期間と契約期間の違いは?

履行期間は、債務の履行の期間であり、契約期間は、契約の期間です。

履行期間と契約期間の違いは?

履行期間と契約期間の違いは、履行期間が債務の履行だけの期間であるのに対し、契約期間は債務の履行を含む契約全体の期間であること。

履行期間は、契約上の債務の履行の期間であることから、契約期間の範囲(最長でも契約期間と同一)で設定されることとなります。

よって、期間の長さという点では、「履行期間≦契約期間」となります(ただし、残存条項による履行期間を除く)。





【意味・定義】履行期間とは?

履行期間=何らかの継続的な債務を履行しなければならない期間

履行期間は、民法上は定義が規定されていません。

ただ、一般に、継続的な債務(=義務)を履行しなければならない期間のことを意味します。

【意味・定義】履行期間とは?

履行期限とは、継続的な債務を履行しなければならない期間をいう。

業務委託契約においては、履行期間は、主に継続的な業務を実施する期間のとして規定されます。

履行期間は、主に準委任契約型の業務委託契約において規定されます。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

ただし、請負契約型の業務委託契約であっても、履行期間を規定する場合もあります。

履行期限=何らかの債務を履行しなければならない期間

なお、同様の表現に、履行期限という表現があります。

【意味・定義】履行期限とは?

履行期限とは、債務を履行しなければならない期限をいう。

こちらは、文字どおり「期限」です。

このため、履行期間とは異なり、債務者は、その期限までは、債務の履行をしなくてもかまいません。

業務委託契約においては、履行期限は、主にスポットの業務を実施する期限として規定されます。

履行期間は、主に成果物のある請負契約型の業務委託契約において規定されます。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?





【意味・定義】契約期間とは?

契約期間の終期は民法上一律には決まっていない

契約期間は、民法上は定義が規定されていません。

ただ、一般に、契約の成立を始期とし、契約の終了を終期とした期間のことを意味します

【意味・定義】契約期間とは?

契約期間とは、契約の成立を始期とし、契約の終了を終期とした期間をいう。

この点について、契約の成立については、民法第522条第1項では、次のように規定されています。

民法第522条(契約の成立)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

これに対し、契約の終了については、契約解除については統一的な規定があるものの、それぞれの典型契約の終了については、規定されているものと規定されていないものがあります。

つまり、民法では、契約の終了については、契約解除以外については、一律で決まっているわけではありません。

履行期間は契約期間に含まれる

なお、契約期間は、契約全体の期間であり、履行期間は契約の一部である債務の履行の期間です。

このため、履行期間は常に契約期間に含まれることとなり、その長さは「履行期間≦契約期間」となります(ただし、残存条項による履行期間を除く)。

また、履行期間と契約期間が同一である場合もあれば、まったく別の場合もあります。

場合によっては、履行期間を設定しない契約もあり得ます(取引基本契約等。詳しくは後述)。





契約実務における履行期間と契約期間の扱い

履行期間の設定は3パターン

企業間契約において、履行期間と契約期間は、主に次の3パターンあります。

4パターンの履行期間と契約期間
  • 履行期間=契約期間(例:システムエンジニアリングサービス契約)
  • 履行期間<契約期間(例:建物建設工事請負契約)
  • 契約期間のみ(例:取引基本契約)

以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。

パターン1:履行期間=契約期間の場合

履行期間と契約期間が完全に一致する契約は、主に何らかの作業の実施や知識・ノウハウの提供のみを目的とした契約であることが多いです。

例えば、システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)、一部のコンサルティング契約、製造業務委託契約など、主に準委任型の契約であることが多いです。

【意味・定義】システムエンジニアリングサービス契約・SES契約とは?

システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)とは、プログラムのコーディング・プログラミングの作業のみを提供する準委任契約型の契約をいう。

また、単体の秘密保持契約も履行期間と契約期間が完全に一致します。

これらの契約は、債務の履行=業務の実施が終了した後は、契約上は、重要な債務は残りません。

このため、一部の重要な債務(秘密保持義務等)を残存条項として残すほかは、契約を終了しても差し支えないと言えます。

この点から、履行期間と契約期間が結果的に一致することとなります。

パターン2:履行期間<契約期間の場合

債務履行後に重要な債務がある場合に規定する

履行期間が契約期間よりも短い契約は、債務の履行の終了後に何らかの重要な債務が残っている契約であることが多いです。

例えば、建設工事請負契約など、一部の請負型の契約が該当します。

【意味・定義】建設工事請負契約とは?

建設工事請負契約とは、請負人(受託者)が何らかの建設工事を完成させること約束し、注文者(委託者)が、その建設工事の施工の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。

請負契約は、厳密には履行期間ではなく履行期限=納期として設定されることが多いですが、建設工事のような大規模な契約では、いわゆる「施工期間」として、事実上の履行期間が設定されます。

この場合、履行期間(=施工期間)の終了により請負契約の目的である「仕事の完成」があったとしても、その後の引渡し(建物の引渡し)や検査(不合格の場合の対応)など、重要な債務が残っています。

このため、履行期間よりも長期間の契約期間を設定する場合があります。

期間や債務の切り分けは重要ではない

ただ、履行期間が終わった後の債務であっても、履行期間外だからとって履行しなくてもいいわけではありません。

このため、履行期間と契約期間の切り分けや、履行期間中と履行期間外の債務の切り分けには、特に重要な意味があるわけではありません。

その意味では、厳密には、履行期間と契約期間を別々にする意味は、さほど重要ではありません。

重要な点は、履行期間の終期(業務実施の最終日)や履行期限・履行期日(納期)と契約期間の終期が、何らかの起算点となることが多いことです(後述)。

このため、履行期間の終期(業務実施の最終日)や履行期限・履行期日(納期)と契約期間の終期を明確にしておく必要があります。

パターン3:契約期間のみ

契約期間のみを規定し、履行期間を設定しない契約は、債務の内容については別の契約で規定する契約が該当します。

例えば、いわゆる取引基本契約が該当します。

【意味・定義】基本契約(取引基本契約)とは?

基本契約とは、継続的な売買契約、請負契約、準委任契約の取引の基本となる、個々の取引における共通した条項を規定した契約をいう。取引基本契約ともいう。

取引基本契約は、個々の業務の履行期間については、通常は個別契約において規定するため、基本契約では規定しません。

この他、事実上は「履行期間=契約期間」のパターンであるものの、履行期間が明らかに契約期間と同一であるため、履行期間の規定を省略している契約も、このパターンに該当します。





契約書では必ず履行期間と契約期間を規定する

履行期間と契約期間は「明らかにする」ことに意味がある

以上のように、履行期間は契約期間と一致する場合もあれば、別々の場合もあります。

ただ、すでに述べたとおり、履行期間と契約期間の切り分けが重要なわけではありません。

むしろ、履行期間の最終日や、契約期間の最終日が明確になっているかが重要です。

これらの日付は、何らの起算点になっていることがあります。

履行期間・履行期限・契約期間が起算点となる場合
  • 履行期間:支払期限(報酬の締切計算)、契約不適合責任、検査期間等
  • 契約期間:残存条項

これらは、より厳密には、「実際の履行日」や「実際の契約終了日」が起算点になります。

ただ、特に「実際の履行日」については、履行期間を明確に規定することにより、委託者・受託者ともに、ある程度は目処をつけることができます。

このため、契約書には、仮に一致するものだったとしても、なるべく履行期間(または債務履行の終了日)と契約期間を明記しておくべきです。

履行期間は三条書面の必須記載事項

なお、下請法が適用される取引の場合、履行期間は、いわゆる「三条書面」の法定記載事項となっていて、記載は必須です。

【意味・定義】三条書面(下請法)とは?

三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者対し交付しなければならない書面をいう。

下請法第3条(書面の交付等)

1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

ここでいう「公正取引委員会規則」である三条書面規則第1条第1項第2号には、以下の規定があります。

下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則第1条

1 下請代金支払遅延等防止法(以下「法」という。)第三条の書面には、次に掲げる事項を明確に記載しなければならない。

(1)(省略)

(2)製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、提供される役務。以下同じ。)の内容並びにその給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者が委託を受けた役務を提供する期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間))及び場所

(以下省略)

よって、三条書面には、履行期間の記載は必須となります。

この他、三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

履行期間と契約期間の違いに関するよくある質問

履行期間と契約期間にはどのような違いがあるのでしょうか?
履行期間と契約期間の違いは、履行期間が債務の履行の期間であるのに対し、契約期間は履行期間を含む契約全体の期間であるであることです。
履行期間と契約期間は契約書に規定する必要はありますか。
履行期間の終期(最終日)と契約期間は、ならかの債務等の起算点となっていることが多いため、仮に一致するとしても、省略せずに規定するべきです。