このページでは、秘密保持義務の要素のひとつである、秘密情報の開示について解説します。

秘密保持義務には、次の3つの要素があります。

秘密保持義務の3要素
  • 秘密情報の開示
  • (狭義の)秘密保持義務と例外
  • 秘密情報の使用許諾・目的外使用の禁止

一般的な秘密保持義務では、2点目の(狭義の)秘密保持義務は必ず規定されています。

ただ、1点目の秘密情報の開示に関する規定や、3点目の秘密情報の使用許諾(まれに目的外使用の禁止までもが)は規定されないことが多いです。

秘密情報の開示に関する規定は、秘密情報の内容、開示の期限、開示の方法などが、業務の実施や契約の履行に影響を与える場合があります。

このため、特に秘密情報の使用・利用が前提となる業務委託契約では、忘れずに必ず規定するべきです。

このページでは、こうした秘密情報の開示の条項について、具体的に解説しています。




業務委託契約で秘密情報の開示を義務づける

どのような情報を開示するのかを規定する

業務委託契約では、業務の実施にあたり、なんらかの情報の開示が前提となる場合があります。

特に、受託者としては、委託者から情報を開示してもらわないと、満足に業務を実施できない可能性もあります。

このような場合、受託者としては、委託者に対し、秘密情報の開示を義務づける必要があります。

また、単に「秘密情報の開示」を義務づけるのではなく、開示される秘密情報の内容について、可能な限り詳細に特定します。

この際、開示対象となる秘密情報の特定にあたっては、秘密情報の定義を応用して、少なくともメタ形式(概念)、できればクレーム類似形式で特定します。

なお、秘密情報の定義につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

秘密情報とは?定義の規定のしかた・書き方・具体例について解説

また、細かい点ですが、受託者としては、業務内容や納期によっては開示される時期も重要となります。

同様に、開示の方法が重要となることもあります。

このため、委託者による秘密情報の開示に期限を設定したり、秘密情報の開示の方法を規定することもあります。

秘密情報の開示条項の具体例

【契約条項の書き方・記載例・具体例】秘密情報の開示に関する条項

第○条(秘密情報の開示)

委託者は、受託者に対し、本契約の成立後、直ちに、新技術Aを利用して製造した試作品Bの強度に関する検査データを開示するものとする。

第○条(秘密情報の開示)

委託者は、受託者に対し、本契約書末尾記載の日付から1ヶ月経過後までに、Bの製造におけるC工程で使用される添加剤及び調合の手順を開示するものとする。

第○条(秘密情報の開示)

委託者は、受託者に対し、平成●年●月●日までに、D社からの業務委託の際に提供を受けた5社以上からの借入を有する多重債務者のデータを開示するものとする。

第○条(秘密情報の開示)

委託者は、受託者に対し、◯◯システムに関してサーバーに記録されたソースコードを開示するため、本契約成立後、直ちに、受託者が当該サーバーにアクセスするために必要なものであって、アカウントの発行、パスワードの開示、権限の付与その他の措置を講じるものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




ポイント
  • 受領者としては、開示対象となる秘密情報を具体的に規定する。
  • 場合によっては、秘密情報の開示の期限・方法等も規定する。





業務委託契約では秘密情報の開示がない場合の契約解除なども検討する

一般的な債務不履行では対処が難しい可能性もある

なお、併せて、秘密情報の開示の規定では、秘密情報の開示がない場合の対処についても規定します。

具体的には、委託者からの情報開示がない場合は、受託者は、業務委託契約を解除できるようにします。

もちろん、秘密情報の開示義務を規定しただけでも、その違反があった場合は、一般的な債務不履行の事由に該当します。

このため、一応は、法定解除権にもとづく契約解除の主張はできます。

業務委託契約における契約解除条項とは?書き方・規定のしかたは?

ただ、こうした一般的な債務不履行の既定では、要件や手続きがあいまいなため、すんなり契約の解除ができないリスクがあります。

契約解除と併せて免責・違約金の設定も検討する

このため、特に受託者の立場としては、法定解除権とは別に、業務委託契約で約定解除権を規定します。

例えば、受託者からの情報開示の請求があってから一定期間(具体的に日付を規定します)の経過後も、委託者から秘密情報の開示がない場合には、契約の解除ができるようにします。

この場合、受託者としては、実際に契約解除をした場合には、その契約解除にもとづく委託者の損害については、免責されるように規定します。

場合によっては、(かなり厳しい条件ではありますが)違約金の設定をしてもいいでしょう。

ポイント
  • 開示者からの秘密情報の開示がない、または不十分な開示しかない場合は、受領者としては、契約解除ができるような内容とする。
  • 委託者からの情報開示がないことが原因で契約解除となった場合、受託者としては、免責される内容とする。
  • 場合によっては、違約金を設定する。





秘密情報の開示条項に関するよくある質問

なぜ業務委託契約で秘密情報の開示を義務づける必要があるのですか?
一部の業務委託契約では、委託者からの情報提供が受託者による業務の実施の前提条件となっている場合があります。このような場合、情報開示を義務づけないと、受託者にとっては、業務の実施ができなくなる可能性があります。
受託者としては、委託者からの秘密情報の開示がない場合に備えて、どのような対策をしておくべきですか?
受託者として委託者からの秘密情報の開示がない場合は、少なくとも契約解除ができるよう、契約内容として約定解除権を規定しておくべきです。