システム・アプリ・ソフトウェア等の保守契約書の印紙税はいくらでしょうか?また、そもそも印紙税を貼る必要があるのでしょうか?
一般的なシステム・アプリ・ソフトウェア等の保守契約書は1号文書となり、印紙税が発生し、その金額は報酬・料金の計算方法により決まります。

このページでは、システム・アプリ・ソフトウェア等(以下、「システム等」とします)の開発の委託者・受託者の双方向けに、弊所によく寄せられるご質問である、システム等の保守契約書(以下、単に「システム保守契約」とします)に貼る収入印紙と印紙税の金額について、簡単にわかりやすく解説します。

一般的なシステム保守契約書は、不課税文書となる準委任契約ではあるものの、著作権の譲渡が発生するため、1号文書(印紙税の金額は報酬・料金による)に該当します。

このページでは、こうしたシステム保守契約書の印紙税や収入印紙について、開業20年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページをご覧いただくことで、以下の内容を理解できます。

このページでわかること
  • 一般的なシステム保守契約書の印紙税・収入印紙の金額。
  • システム保守契約書が不課税文書となる場合。
  • 請負契約であるシステム保守契約の印紙税・収入印紙の金額。




一般的なシステム保守契約書は1号文書

一般的なシステム保守契約は、1号文書(詳細な条件については後述)に該当します。

【意味・定義】1号文書(印紙税法)とは?

印紙税法における1号文書とは、以下のいずれかの契約書をいう。

  • 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
  • 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
  • 消費貸借に関する契約書
  • 運送に関する契約書(傭よう船契約書を含む。)

システム保守契約では、バグフィックス等の作業に伴い、著作権の譲渡があり得るため、上記の「無体財産権」の譲渡の契約書となります。

1号文書の印紙税・収入印紙の金額は、料金・報酬の金額に応じて、次の表のとおり計算されます。

1号文書の印紙税の金額
記載された契約金額印紙税額(1通又は1冊につき)
1万円未満非課税
1万円以上10万円以下200円
10万円を超え50万円以下400円
50万円を超え100万円以下1千円
100万円を超え500万円以下2千円
500万円を超え1千万円以下1万円
1千万円を超え5千万円以下2万円
5千万円を超え1億円以下6万円
1億円を超え5億円以下10万円
5億円を超え10億円以下20万円
10億円を超え50億円以下40万円
50億円を超えるもの60万円
契約金額の記載のないもの200円

例えば、システム等の保守業務の料金・報酬が月額50万円(税別)で12ヶ月間の当初の契約期間のシステム保守契約の場合は、600万円の契約金額となるため、印紙税・収入印紙は1万円となります。

ただし、システム等の保守業務の報酬・料金と著作権の対価が区分できる場合は、著作権の対価の部分のみの金額で印紙税・収入印紙の金額が計算されます。

また、システム等の保守業務の料金・報酬の計算方法(例:時間単価×稼働時間、日額単価×稼働日数)だけが記載されている出来高制の場合は、契約金額が確定していないため、印紙税・収入印紙の金額は、200円となります。





システム保守契約が課税文書に該当する条件は?

契約書が「課税物件」に該当すると収入印紙を貼る必要がある

システム保守契約書に収入印紙を貼る必要があるかどうかは、契約内容次第です。また、印紙税・収入印紙の金額は、報酬・料金次第です。

契約書が印紙税法上の課税文書に該当するかどうかは、原則として、その契約書が印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられている20種類の文書に該当するかどうかによって判断されます(ただし、例外あり。印紙税法基本通達第2条)。

印紙税法第2条(課税物件)

別表第1の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

このため、システム保守契約書が課税物件表に掲げられている文書に該当する場合、収入印紙を貼る必要があります。

なお、「課税物件」に該当しないシステム保守契約書には、収入印紙を貼る必要はありません。

一般的なシステム保守契約書は1号文書

一般的なシステム保守契約は、準委任契約に該当します。

契約書が準委任契約に該当する場合は、不課税文書となります。

しかしながら、一般的なシステム保守契約書では、バグフィックス等の作業に伴い、無体財産権(≒知的財産権、特に著作権)の譲渡があり得ます。

このように、一般的なシステム保守契約書では、著作権の譲渡を規定するため、1号文書に該当します。

システム保守契約が1号文書に該当する条件
  • 契約形態が準委任契約であること。
  • 無体財産権(特に著作権)の譲渡があること。

請負契約であるシステム保守契約書の印紙税・収入印紙

なお、当事者の合意により、システム保守契約を準委任契約ではなく請負契約とすることもあります。

この場合は、以下のいずれかに該当します。

請負契約であるシステム保守契約書の印紙税・収入印紙
  • 報酬の金額の記載があり、著作権等の譲渡がない場合=2号文書
  • 報酬の金額の記載があり、著作権等の譲渡がある場合=1号文書かつ2号文書
  • 報酬の金額の記載がなく、かつ、契約期間が3ヶ月を超える」ものまたは「3ヶ月未満で更新に関する定めがあるもの=7号文書





1号文書のシステム保守契約書の印紙税・収入印紙の金額の計算は?

印紙税・収入印紙の金額は「契約金額」で決まる

印紙税・収入印紙の金額の計算は、その契約書の「契約金額」に応じて計算されることとなります。

契約金額が確定している場合はその金額に応じて計算され、金額が確定していない場合は200円となります。

よって、システム保守契約書の印紙税・収入印紙の金額は、料金・報酬の金額が確定しているかどうかがポイントとなります。

月額固定等の料金・報酬の金額が確定しているシステム保守契約書の場合

「契約金額」はあくまで著作権の対価

一般的なシステム保守契約書は、ほとんどの場合は、月額固定の料金・報酬です。

このため、料金・報酬の金額と契約期間(月数)に応じて、印紙税・収入印紙の金額が計算されます。

1号文書の印紙税額の一覧表
1号文書の印紙税の金額
記載された契約金額印紙税額(1通又は1冊につき)
1万円未満非課税
1万円以上10万円以下200円
10万円を超え50万円以下400円
50万円を超え100万円以下1千円
100万円を超え500万円以下2千円
500万円を超え1千万円以下1万円
1千万円を超え5千万円以下2万円
5千万円を超え1億円以下6万円
1億円を超え5億円以下10万円
5億円を超え10億円以下20万円
10億円を超え50億円以下40万円
50億円を超えるもの60万円
契約金額の記載のないもの200円

ただ、1号文書は、あくまで無体財産権(システム保守契約の場合は主に著作権)の譲渡の対価が「契約金額」となります。

このため、システム保守契約の料金・報酬のうち、著作権の対価の部分が課税対象となります。

著作権の対価を料金・報酬を含む場合は全額が対象

ただ、一般的なシステム保守契約書では、どの程度の著作権の譲渡が発生するか事前に予想できないため、わざわざ著作権の対価を業務の料金・報酬と区別して記載はしません。

多くの場合、著作権の対価は、次のとおり、料金・報酬に含まれるように規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】著作権譲渡の条項

第○条(著作権の譲渡)

本件業務により発生した著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、その発生の時点で、受託者から委託者に譲渡される。この場合の譲渡の対価は、本件業務の報酬に含まれる。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

この場合は、業務の料金・報酬の全額が1号文書の「契約金額」とされます。

著作権の対価を無償とした場合は不課税文書となるが法律違反の可能性がある

逆に言えば、著作権の対価を無償(または1万円未満)とした場合は、印紙税・収入印紙の金額は0円となります。

しかしながら、無償・不当に低い対価の著作権の譲渡は、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請法に抵触する可能性があります。

無償・不当に低い対価の知的財産権の譲渡・使用許諾は独占禁止法違反・下請法違反

このため、印紙税を節税する目的で、著作権の対価を無償としたり、不当に低い対価に設定することは控えるべきです。

具体的な印紙税の計算方法は?

よって、金額が確定している1号文書であるシステム保守契約書の印紙税・収入印紙の金額の計算は、業務の報酬・料金の金額によって、以下のとおりとなります。

報酬・料金が確定しているシステム保守契約書の印紙税・収入印紙の具体例
  • 1.報酬・料金が月額50万円で12ヶ月間の契約期間の場合=600万円の契約金額の場合:1万円
  • 2.報酬・料金が月額50万円で6ヶ月間の契約期間の場合=300万円の契約金額の場合:2千円
  • 3.報酬・料金が一括で500万円で契約期間が6ヶ月の場合=500万円の契約金額の場合:2千円

月額固定の報酬・料金の場合は、当初の契約期間で合計した金額が契約金額となります。

このため、1.と2.は、報酬・料金が同じ50万円であっても、契約期間に違いがあるため、結果的に印紙税・収入印紙の金額は変わってきます。

なお、契約更新後の報酬・料金については、契約金額には計算しません。

稼働時間で計算する料金・報酬のシステム保守契約書の場合

これに対し、極めて特殊なパターンになりますが、金額が確定しておらず、稼働時間等による出来高制の計算方法としているシステム保守契約書もあります。

例えば、「時間単価×稼働時間」や「日額単価×稼働日数」で計算する方法です。

この場合、「契約金額」が確定していませんので、「契約金額の記載のないもの」として扱われます。

この「契約金額の記載のないもの」の印紙税・収入印紙は、200円です。





システム保守契約書は不課税文書となる?

著作権の譲渡が発生しないシステム保守契約書は不課税文書

システム保守契約書は、すでに述べたとおり、主に著作権の譲渡があるため、1号文書となります。

逆に言えば、著作権の譲渡がなく、契約形態が準委任契約であるシステム保守契約書は、不課税文書となります。

システム等の保守業務の中には、少ないながらも、著作権が発生しないものもあります。

例えば、まったくプログラムのコーディング業務がないものや、ノーコードツールを使って開発されたシステム等の保守業務のものなどが該当します。

このようなシステム保守契約書の場合は、不課税文書となり、印紙税・収入印紙の金額は0円となります。

印紙税の節税目的でシステム保守契約書に著作権の譲渡を記載しないべきか?

受託者にとっては問題ない

それでは、印紙税を節税する目的で、システム保守契約書に著作権の譲渡を記載しないべきなのでしょうか?

この点について、少なくとも受託者にとっては、著作権の譲渡を記載しないことは、デメリットがありません。

このため、受託者にとっては、印紙税の節税目的でシステム保守契約書に著作権の譲渡を記載しなくても、特に問題ではありません。

委託者としてはシステム保守契約書に著作権の譲渡は記載するべき

これに対し、委託者にとっては、節税目的でシステム保守契約書に著作権の譲渡を記載しないことは、避けるべきです。

一般的なシステム保守契約の業務内容には、バグフィックスをはじめとした、プログラムの改変や修正を伴うコーディング業務が含まれています。

こうしたプログラムのコーディング業務では、プログラム著作物の著作権が発生する可能性が高いです。

また、たとえノーコードツール等を使ったアプリなどであったとしても、UIのデザインの修正など、著作権が発生する可能性が考えられます。

このため、著作権の譲渡について規定しないと、わずかな印紙税を節税できたとしても、著作権の処理が不透明になります。

その結果、将来、受託者との間で、著作権を巡ってトラブルとなる可能性もあります。

この他、業務委託契約における著作権の処理につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約(請負契約)で著作権はどのように発生・帰属・譲渡・処理をする?





補足1:収入印紙への消印(≠割印)の押し方

なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。

この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書に貼る印紙(収入印紙)への消印(≠割印)のしかた・場所は?





補足2:契約書の収入印紙にはいつ消印を押す?

契約書の収入印紙に消印を押印するタイミングは、通常は、契約成立の時期=契約書に当事者すべての署名、記名押印等をした時点です。

具体的には、対面・郵送によって、以下の時期になります。

2つ契約成立の時期
  • 対面での契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインが完了した時点
  • 郵送で契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインがなされた契約書が当事者に到達した時点

この他、契約書の収入印紙にはいつ消印を押すかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

収入印紙の消印(≠割印)はいつ押す?





印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ

印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。

というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。

印紙税を節税する方法は、さまざまあります。

具体的には、以下のものが考えられます。

印紙税を節税する方法
  1. コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
  2. 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
  3. 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。

しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。

印紙税の節税のデメリット
  • コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
  • 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
  • 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。

これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。

電子契約サービスのメリット
  1. 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
  2. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
  3. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。

このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。

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システム保守契約書の印紙税・収入印紙に関するよくある質問

システム、アプリ、ソフトウェア等の保守契約書には収入印紙を貼る必要があるのでしょうか?
一般的なシステム、アプリ、ソフトウェア等の保守契約書は、著作権の譲渡が発生するため、1号文書となり、収入印紙を貼る必要があります。
システム、アプリ、ソフトウェア等の保守契約書の印紙税・収入印紙の金額はいくらでしょうか?
一般的なシステム、アプリ、ソフトウェア等の保守契約書は、1号文書に該当し、印紙税・収入印紙の金額は報酬の金額に応じて計算されます。なお、「時間単価×稼働時間」や「日額単価×稼働日数」のように、出来高払制のシステム保守契約書の場合は、印紙税・収入印紙の金額は、200円です。