- 業務委託契約(請負契約・準委任契約)では、委託者が受託者(フリーランス・個人事業者・一人親方)の稼働時間について時間管理をすることは違法となるのでしょうか?
- 業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、委託者が受託者(フリーランス・個人事業者・一人親方)の稼働時間について時間管理をすること自体は、特に違法ではなく、適法です。
ただし、稼働時間の時間管理が指揮命令を目的としたものである場合は、適法な業務委託契約ではなく、違法(偽装請負)な労働契約・雇用契約とみなされる可能性があります。
このページでは、業務委託契約の委託者・受託者の双方向けに、業務委託契約(請負契約・準委任契約を含む)において委託者が受託者の業務実施・稼働について時間管理をした場合の違法性・適法性について解説しています。
業務委託契約において、委託者が受託者(個人事業者・フリーランス・一人親方)から提供を受ける業務について時間管理をしたとしても、それ自体は違法ではありません。
ただし、時間管理が稼働時間の把握等にとどまらず、指揮命令を目的としたものである場合は、受託者が労働者扱いとなり、違法(偽装請負)となる可能性があります。
このページでは、こうした業務委託契約における勤務時間の指定に関する違法性と適法性について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 業務委託契約における時間管理の違法性・適法性。
- 受託者が個人事業者・フリーランス・一人親方である場合において、時間管理が違法・適法となる条件。
業務委託契約における時間管理は原則として違法ではない
業務委託契約における「時間管理」とは?
時間管理は法令用語ではありませんので、特に法律上の定義はありません。
業務委託契約においては、契約当事者が法人、フリーランス・個人事業者・一人親方のいずれの場合であっても、委託者による業務提供・稼働の時間(量)の把握を目的とした管理のことを意味することが多いです。
【意味・定義】時間管理(業務委託契約)とは?
業務委託契約における時間管理とは、委託者が受託者が業務を実施した時間(量)を把握するための管理をいう。
これは、労働契約・雇用契約における、時間管理と同様の考え方となります。
業務委託契約における時間管理は報酬の計算のために必要な場合もある
企業間契約である業務委託契約において、受託者の稼働について時間管理をすること自体は、契約自由の原則により、原則として違法ではありません。
【意味・定義】契約自由の原則とは?
契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。
民法第521条(契約の締結及び内容の自由)
1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
上記の民法第521条第2項にあるとおり、「法令の制限内」ではありますが、業務委託契約において受託者の稼働時間を管理したとしても、原則として違法=法律違反ではありません。
特に、稼働時間に応じて報酬を計算する場合(いわゆる「時給」に類似した報酬の場合)、稼働時間の時間管理をしなければ、報酬の計算自体ができません。
このため、特に稼働時間に応じた報酬としている場合は、受託者の保護のためにも、むしろ時間管理をしなければなりません。
ただし、「時給」による報酬は違法となる可能性が高い(後述)ため、注意が必要です。
フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者の場合は時間管理は違法?適法?
必ずしも「時間管理=指揮命令=違法」とは限らない
ただし、受託者がフリーランス・個人事業者・一人親方の場合、委託者が受託者の稼働時間について時間管理をすると、その目的によって違法となる可能性と適法となる可能性の両方があります。
勤務時間の指定の違法性・適法性(個人事業者・フリーランスが受託者の場合)
- 「業務の遂行を指揮命令する」目的の時間管理=違法
- 「業務の遂行を指揮命令する」以外の目的(特に報酬の計算の目的)の時間管理であり、かつ、報酬が委託者の「同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合」における稼働時間の把握を目的とした時間管理=適法
前者の場合は、いわゆる「指揮命令」に該当し、業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされ、委託者が労働基準法・労働契約法等の労働法に違反する可能性があります。
また、この場合は、受託者であるフリーランス・個人事業者・一人親方が労働者とみなされます。
他方で、後者の場合は、特に指揮命令を目的とせず、かつ、報酬も高額であることから、適法な業務委託契約と判断される可能性が高いです。
労働者性の判断基準=「労働基準法研究会報告」とは?
上記の違法性・適法性の判断基準は、「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)」によるものです。
この「労働基準法研究会報告」には、時間管理について直接言及されていませんが、「勤務時間」の指定については、第2 1(1)ハに、以下の記載があります。
ハ 拘束性の有無
勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素である。しかしながら、業務の性質上(例えば、演奏)、安全を確保する必要上(例えば、建設)等から必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合があり、当該指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある。
このように、「勤務時間」の指定ですら「業務の遂行を指揮命令する必要によるもの」は違法となります。
このため、同様に「業務の遂行を指揮命令する必要による」時間管理は違法(労働基準法・労働契約法等の各種労働法違反)となる可能性が高いといえます。
この他、「労働基準法研究会報告」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約において違法となる時間管理とは?
「指揮命令」目的の時間管理=違法
フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者の場合、勤務時間を指定すると違法なる条件は、「業務の遂行を指揮命令する」目的であることです。
つまり、本来は業務委託契約においてその必要がないにもかかわらず、委託者が個人事業者・フリーランス・一人親方である受託者による業務遂行を指揮命令するために時間管理をすることです。
具体的には、次のような行為が該当する可能性があります。
時間管理による指揮命令に該当する可能性がある行為
- 委託者が受託者の「遅刻」の回数や遅れた時間量を把握したうえで叱責をすること。
- 業務委託契約の内容の範囲を越えて、委託者が受託者の稼働時間の少なさを理由に、稼働時間を増やすよう求めること。
- 業務委託契約の内容の範囲を越えて、委託者が受託者の稼働時間の多さを理由に、稼働時間を減らしたうえで、成果を出すよう求めること。
このような場合、その業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされる可能性が高くなります。
業務量・業務従事の時間量を制限する目的の時間管理=違法
また、指揮命令以外の目的であっても、業務量・業務従事の時間量を制限する目的で、フリーランス・個人事業者・一人親方の時間管理をした場合も、違法となる可能性があります。
すでに述べた「労働基準法研究会報告」では、「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」について、第2 1(1)イに、以下の記載があります。
イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
「使用者」の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素となる。これに対して、具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有しない場合は、一応、指揮監督関係を推認させる重要な要素となる。なお、当事者間の契約によっては、一定の包括的な仕事の依頼を受諾した以上、当該包括的な仕事の一部である個々具体的な仕事の依頼については拒否する自由が当然制限される場合があり、また、専属下請のように事実上、仕事の依頼を拒否することができないという場合もあり、このような場合には、直ちに指揮監督関係を肯定することはできず、その事実関係だけでなく、契約内容等も勘案する必要がある。
つまり、仕事を受注する量については、フリーランス・個人事業者・一人親方が自由に決められる状態でなければなりません。
よって、安全のためなどの正当な目的が無いにもかかわらず、業務量や業務従事の時間量について下限・上限等を設定すると、違法となる可能性があります。
すべての時間管理が違法になるわけではない
このように、フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者になる業務委託契約であるからといって、すべての時間管理が指揮命令に該当するわけではありません。
あくまで、問題となるのは、「業務遂行を指揮命令する」や「業務量・業務従事の時間を制限する」ことを目的とした時間管理です。
また、仮に業務遂行を指揮命令するために時間管理をしたとしても、そのこと自体は、数多くある労働者性の判断基準のひとつに過ぎません。
この点からも、(そのこと自体は望ましくはないですが)時間管理により、直ちに「業務委託契約→労働契約・雇用契約」「フリーランス・個人事業者・一人親方→労働者」(偽装請負)と判断されるわけではありません。
この他、個人事業者・フリーランスの労働者性のチェックリストにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
指揮命令目的でない時間管理≒報酬の計算を目的とした時間管理=適法
このように、「業務遂行を指揮命令する」ことや「業務量・業務従事の時間を制限する」ことを目的としていない時間管理であれば、適法となる可能性があります。
この点について、一般的な業務委託契約において、指揮命令・業務量や業務時間の制限の以外の目的では、時間管理は、報酬の計算が目的であることがほとんどです。
つまり、稼働時間の量に応じた報酬(いわゆる「時給」)の場合、委託者は、正確な報酬計算のために、受託者の稼働時間の把握=時間管理をすることとなります。
このように、正確な報酬計算のための時間管理は、それ自体は「指揮命令」に該当しないため、適法となります。
業務委託契約における時間管理が適法となる条件
「時給」の業務委託契約は違法となる可能性が高い
ただし、そもそも「時給」計算の業務委託契約自体が、違法となる可能性が高いため、たとえ指揮命令の目的でなく、報酬計算の目的であったとしても、結果的に違法となる可能性があります。
すでに述べた「労働基準法研究会報告」によると、フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者の場合、「時給」計算の報酬が違法となる条件は、次のとおりです。
「時給」計算が違法(労働法違反・偽装請負)となる条件
- 「労働の結果による較差が少ない」こと。
- 「欠勤した場合には応分の報酬が控除され」ること。
- 「いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給される」こと。
これらの条件を満たすことによって、「報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合」、受託者であるフリーランス・個人事業者・一人親方が労働者扱いとなり、違法(労働基準法、労働契約法、最低賃金法等の各種労働法の違反)となる可能性があります。
「時給」計算が適法となる条件とは?
他方で、フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者の場合、「時給」計算の報酬が適法となる条件は、次のとおりです。
「時給」計算が適法となる条件
- 報酬の額が委託者において同様の業務に従事している正規従業員(正社員)に比して著しく高額であること。
このように、個人事業者・フリーランスが受託者である場合であっても、報酬が同様の業務に従事する正社員よりも著しく高額なときは、「時給」計算の報酬であっても、適法となります。
この際、単に額面上の正社員の賃金と比較するのではなく、社会保険料等も考慮するべきです。
このため、個人事業者・フリーランスであっても、例えば以下のような契約・職業は、「時給」計算の報酬であっても、その金額が著しく高額であれば違法とはなりません。
「時給」計算が適法となる個人事業者・フリーランスの具体例
- SES契約(システムエンジニアリングサービス)におけるハイスキルのエンジニア
- コンサルティング契約における経営コンサルタント
- 顧問契約における士業
「報酬計算が目的」かつ「正社員よりも著しく高額な報酬」の場合の時間管理は適法
以上の点から、委託者による受託者(フリーランス・個人事業者・一人親方)の稼働時間の時間管理が適法となる条件は、以下のとおりです。
業務委託契約における時間管理が適法となる条件
- 目的が指揮命令のためではなく、受託者の報酬の正確な計算のためであること。
- 受託者の報酬の金額が委託者の正社員よりも著しく高額であること。
なお、「時給」計算の報酬につきましては、この他にも、非常に複雑な条件があります。
これらの「時給」計算の報酬につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約における時間管理に関するよくある質問
- 業務委託契約で委託者が受託者の業務実施・稼働の時間管理をすることは違法ですか?
- 業務委託契約で委託者が受託者のの業務実施・稼働の時間管理をしたとしても、直ちに違法になるわけでありません。
- 業務委託契約において、違法となる業務実施・稼働の時間管理は、どのような場合でしょうか?
- フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者になる業務委託契約では、委託者が「業務遂行を指揮命令する」ことを目的とした時間管理をした場合、労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされ、労働基準法、労働契約法などの各種労働法に違反する可能性があります。
時間管理が必要な業務委託契約書の作成は弊所におまかせください
このように、フリーランス・個人事業者・一人親方を受託者とした業務委託契約の場合、「時間管理」は法律違反のリスクがあります。
弊所では、やむを得ず時間管理をする場合を含め、フリーランス・個人事業者・一人親方が受託者となる業務委託契約書の作成依頼を承っております。
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