成果物なしの請負契約はあるのでしょうか?また、どのような具体例がありますか?
成果物や納品物がない請負契約はあります。具体例としては、運送請負契約や建物や家電製品等の修理請負契約などがあります。

このページでは、成果物や納品物がない請負契約について解説します。

請負契約は、仕事の完成を目的とした契約です(民法第632条)。

この仕事は、物体=有体物が該当しますし、またプログラムなどの知的財産も該当します。

他方で、この仕事には一定の行為も含まれます。

このため、成果物なし、納品物なしの請負契約もあり得ます。

このページでは、このページでは、こうした「成果物なしの請負契約」について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページを読むことで、「成果物なしの請負契約」があり得る理由とその具体例を理解できます。。

このページでわかること
  • 成果物なしの請負契約がなぜあり得るのか。
  • 成果物なしの請負契約の具体例。
  • 成果物なしの請負契約の注意点。
  • 成果物・納入物の定義。

なお、請負契約の基本的な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?




成果物なしの請負契約はあり得る

請負契約とは?

請負契約=仕事の完成を目的とした契約

請負契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第632条(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】請負契約とは?

請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。

請負契約における仕事とは?

ここでいう「仕事」は、非常に広い意味で解釈されており、具体的には次のとおりです。

【意味・定義】仕事(請負契約)とは?

請負契約における仕事とは、請負人が労務をすることによって何らかの結果を生じさせることをいう。

つまり、仕事は、必ずしも有体物が発生することに限らず、プログラムのような無体物・知的財産であっても構いません。

また、「結果」である以上は、有体物や無体物ではない、請負人の労務によってもたらされる、「一定の状態」もまた仕事に該当します。

「成果物・納品物がある契約=請負契約」は誤解・間違い

以上のように、請負契約における仕事は、有体物・無体物の作成や納入に限ったものではありません。

ですので、成果物なしの請負契約はあり得るのです。

よって、「請負契約に必ず成果物・納品物がある」、あるいは「成果物・納品物がある契約は請負契約」という考え方は間違いです。

つまり、成果物や納品物の有無を請負契約かそうでない契約(準委任契約など)の判断基準にしてはいけません。





成果物なしの請負契約の具体例

成果物なしの請負契約の具体例一覧

成果物なしの請負契約は、具体的には、次のようなものがあります。

成果物なしの請負契約の具体例一覧
  • 運送請負契約
  • 修理請負契約
  • 清掃請負契約

以下、それぞれ詳しく解説します。

【具体例1】運送請負契約

運送請負契約は、最も典型的な成果物なしの請負契約です。

【意味・定義】運送請負契約とは?

運送請負契約とは、「運送人が荷送人からある物品を受け取りこれを運送して荷受人に引き渡すことを約し、荷送人がその結果に対してその運送賃を支払うことを約」した契約をいう。

商法第570条(物品運送契約)

物品運送契約は、運送人が荷送人からある物品を受け取りこれを運送して荷受人に引き渡すことを約し、荷送人がその結果に対してその運送賃を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

商法では、「物品運送契約」となっていますが、運送契約は請負契約の性質を有するため、この物品運送契約は、請負契約の一種です。

この他、旅客運送契約も一種の請負契約です。

【意味・定義】旅客運送契約とは?

旅客運送契約とは、「運送人が旅客を運送することを約し、相手方がその結果に対してその運送賃を支払うことを約」した契約をいう。

商法第589条(旅客運送契約)

旅客運送契約は、運送人が旅客を運送することを約し、相手方がその結果に対してその運送賃を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

運送請負契約も、旅客運送契約も、「物品や人をどこかの場所まで送り届ける」という状態にすることが「仕事」である、成果物なしの請負契約です。

【具体例2】修理請負契約

成果物なしの場合と成果物ありの場合がある

修理請負契約は、物品の修理の請負に関する契約のことです。

【意味・定義】修理請負契約とは?

修理請負契約とは、請負人が物品の修理を約し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを約した契約をいう。

例えば、雨漏りした屋根の修理や、トイレの詰まりの修理、家電製品の修理などがあります。

こうした修理は、必ずしも修理業者による物品の引取りや引渡しがあるとは限りません。

このため、修理請負契約は、「故障が直る」という状態にすることが「仕事」である、成果物なしの請負契約です。

もちろん、パソコンや自動車の修理のように、修理業者がいったん引取り、後に返却する場合のように、ある意味で「成果物」があることもあります。

「修理=請負契約」とは限らない

なお、一般的な修理の契約は、請負契約であり、仕事の完成=成果の保証があります。

他方で、必ずしも故障が直る見込みがない修理の場合は、準委任契約とすることもできます。

この場合は、「修理」という行為そのものが提供される契約となります。

このように、準委任契約としての修理の契約は、必ずしも故障が直るとは限りませんので、ご注意ください。

【具体例3】清掃請負契約

特に建物の清掃・クリーニングが成果物なしの請負契約

清掃請負契約は、清掃、つまりクリーニングの請負に関する契約です。

【意味・定義】清掃請負契約とは?

清掃請負契約とは、請負人が物品や建物の清掃を約し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを約した契約をいう。

例えば、ビルやオフィスの清掃やハウスクリーニングなどの契約が該当します。

業者がなんらかの物品を引取って清掃し、後に返却するタイプの契約であれば、ある意味で「成果物」があるといえます。

これ以外の、特に建物に関する清掃の契約は、「対象物が綺麗になる」という状態にすることが「仕事」である、成果物なしの請負契約です。

家事代行サービスは請負契約ではなく準委任契約の場合も

なお、プロの業者によるハウスクリーニングは、一般的には結果を保証する請負契約であることが多いです。

他方で、一般の個人事業者などがおこなう家事代行サービスとしての清掃は、必ずしも結果を保証する請負契約であるとは限りません。

こうした家事代行サービスは、「家事」という行為そのものを提供している、準委任契約であることが多いです。

このため、プロの業者ほどの成果は期待できない代わりに、料金が安く設定されています。





成果物なしの請負契約では「結果」を明らかにする

結果が明らかでない仕事に関する契約は請負契約にはなりづらい

以上の成果物なしの請負契約は、仕事の内容が明らかです。

運送請負契約は「物品が移動していること」、修理請負契約は「故障が直ること」、清掃請負契約は「対象物が綺麗になること」が仕事です。

このように、「成果物なし」の請負契約は、結果としての仕事の内容が明らかだからこそ成立ち得ます。

逆に言えば、結果が明らかでないタイプの仕事に関する契約は、請負契約としては成立ち得ないこととなります。

このような結果が明らかでないタイプの仕事に関する契約は、準委任契約とします。

成果物なしの請負契約は「結果」としての業務内容が重要

このように、成果物なしの請負契約の場合は、結果が明らかであることが重要となります。

どの契約も契約内容が明らかであることが望ましいですが、成果物なしの請負契約は、最終的な仕事の形がない場合もあります。

このような場合、仕事の完成=契約の履行ができているかどうかを巡って、トラブルになりがちです。

このため、事前に業務委託契約書等で「仕事」の定義や検査の合否判定の基準等について、明確に決めておくことが重要となります。

業務委託契約書を作成する理由

成果物なしの請負契約の場合、「仕事の完成」が不明であることもあるから、契約内容として「仕事」の定義や検査の合否判定の基準等を規定した契約書が必要となるから。

なお、業務委託契約に関する業務内容の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書における業務内容の決め方・書き方と全行程を解説





【補足1】成果物・納品物とは?

成果物は契約の履行により発生した有体物または無体物

成果物は、法律上の定義があるわけではありませんが、一般的には、次のような意味で使われています。

【意味・定義】成果物とは?

成果物とは、一般に、請負契約、準委任契約、業務委託契約などの契約において、請負人、受任者、受託者による債務の履行によって発生する成果であって、有体物または無体物・知的財産権などをいう。

納品物はあくまで有体物に限る

成果物に似た用語として、納品物があります。

こちらは、「物」となっているため、厳密には成果物の中でも有体物のみに限って使われる用語です。

【意味・定義】納品物とは?

納品物とは、一般に、売買契約、請負契約、準委任契約、業務委託契約などの契約において、売主、請負人、受任者、受託者などが相手方に対し引渡す有体物をいう。

成果物と納品物の違いは、成果物はなんらかの成果の結果であるのに対し、納品物は必ずしも成果である必要はありません。

例えば、売買契約のように、売主から買主に売却される物品には、必ずしもなんらかの売主の成果があるとは限りません。





【補足2】成果物ありの準委任契約もある

なお、「成果物なしの請負契約」が成立ち得るのと同様に、「成果物ありの準委任契約」も成立ち得ます。

典型的な契約としては、アジャイル型開発のシステム・アプリ・ソフトウェア等の開発契約があります。

また、いわゆるシステムエンジニアリングサービス契約(SES契約)なども該当します。

これらの契約は、プログラムなどの無体物・知的財産が成果物として発生します。





成果物なしの請負契約に関するよくある質問

成果物なしの請負契約はありますか?
成果物なしの請負契約はあります。
成果物なしの請負契約の具体例を教えてください。
成果物なしの請負契約には、運送請負契約、修理請負契約、清掃請負契約などがあります。
成果物とは何ですか?
成果物とは、一般に、請負契約、準委任契約、業務委託契約などの契約において、請負人、受任者、受託者による債務の履行によって発生する成果であって、有体物または無体物・知的財産権などをいいます。
納品物とは何ですか?
納品物とは、一般に、売買契約、請負契約、準委任契約、業務委託契約などの契約において、売主、請負人、受任者、受託者などが相手方に対し引渡す有体物をいいます。
成果物なしの請負契約で気をつけるべき点は何ですか?
成果物なしの請負契約では、成果物ありの請負契約に比べて、請負人がおこなうべき「仕事」の内容が明らかでないことによりトラブルになりがちですので、「仕事」の内容=業務内容を明らかにする必要があります。





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