フリーランス・個人事業者との業務委託契約では、最低賃金法による最低賃金が適用されますか?
企業間契約である業務委託契約には、最低賃金法は適用されませんので、最低賃金以下の報酬でも最低賃金法違反にはなりません。
ただし、フリーランス・個人事業者との業務委託契約において報酬が最低賃金以下の場合、業務委託契約ではなく労働契約・雇用契約とみなされ、結果として最低賃金法が適用され、委託者が最低賃金以上の賃金・給料・残業代等を支払わなければならなくなる可能性があります。

このページでは、業務委託契約の委託者とフリーランス・個人事業者である受託者向けに、業務委託契約の報酬と最低賃金の関係について解説しています。

企業間契約である業務委託契約では、最低賃金法は適用されませんので、報酬については、最低賃金の規制とは関係なく、当事者の合意により自由に決めることができます。

これは、最低賃金の規制を定めた最低賃金法が、労働契約・雇用契約に適用されるためです。

ただ、最低賃金以下の報酬を定めた場合、たとえ当事者の合意だったとしても、適法な業務委託契約ではなく、違法な労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされる可能性が高くなります。

業務委託契約ではなく労働契約・雇用契約とみなされた場合は、当然、最低賃金法が適用され、委託者は、最低賃金以上の賃金の支払いを求められることとなります。

このページでは、こうした業務委託契約の報酬と最低賃金の関係について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • フリーランス・個人事業者の報酬に最低賃金の規制が適用されるかどうか。
  • 受託者がフリーランス・個人事業者の業務委託契約において最低賃金以下の報酬を定めた場合、最低賃金の規制が適用されるリスク。
  • 最低賃金以下の報酬により下請法違反となるリスク。




フリーランス・個人事業者は最低賃金の規制対象外

最低賃金は労働基準法上の労使間に適用される

フリーランス・個人事業者との業務委託契約の報酬は、最低賃金の規制対象外です。

このため、最低賃金以下の報酬を設定したとしても、直ちに違法というわけではありません。

最低賃金は、「最低賃金法」という法律に定められたものです。

この最低賃金法第4条第1項に、以下の規定があります。

第4条(最低賃金の効力)

1 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

2 (以下省略)

このため、「最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」のは、「使用者」となります。

あくまで最低賃金の規制対象は労働基準法の使用者

ここでいう「労働者」「使用者」「賃金」は、次のとおり、それぞれ労働基準法に規定されたものです。

第2条(定義)

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1)労働者 労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

(2)使用者 労働基準法第10条に規定する使用者をいう。

(3)賃金 労働基準法第11条に規定する賃金をいう。

このため、最低賃金の規制は、あくまで労働基準法が適用される労使間にしか適用されません。

よって、企業間取引である業務委託契約には、受託者が法人であろうとフリーランス・個人事業者であろうと、最低賃金の規制は適用されません。





最低賃金以下の報酬は結果的に最低賃金法が適用される可能性がある

労働者性の判断基準=「労働基準法研究会報告」とは?

ただし、受託者が個人事業者・フリーランスの場合、最低賃金以下の報酬のときは、結果的に最低賃金法違反=違法となる可能性があります。

というのも、受託者が個人事業者・フリーランスである業務委託契約において、最低賃金以下の報酬とした場合、その業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされる可能性が高くなります。

この労働契約・雇用契約に該当するかどうかの判断基準は、「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)」によるものです。

最低賃金以下の報酬=労働者性を強める要素

この「労働基準法研究会報告」の第2 2(1)ロに、以下の記載があります。

ロ 報酬の額

報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合には、上記イと関連するが、一般的には、当該報酬は、労務提供に対する賃金ではなく、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金の支払と認められ、その結果、「労働者性」を弱める要素となるものと考えられる。

これにより、「報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合」は、「事業者」に対する代金と認められます。

これに対し、個人事業者・フリーランスの報酬を最低賃金以下とした場合は、「報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額」には、原理的になり得ません。

よって、最低賃金以下の報酬は、「労働者性」を「強める要素」となり、業務委託契約ではなく労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされる可能性があります。

フリーランス・個人事業者との業務委託契約に労働基準法が適用されるリスク

フリーランス・個人事業者との業務委託契約に労働基準法が適用され、労働契約・雇用契約とみなされた場合、委託者にとっては以下のリスクがあります。

フリーランス・個人事業者との業務委託契約で労働基準法が適用されるリスク
  • 報酬・料金・委託料が従業員の残業代と比較して少ない場合は、残業代を請求される。
  • 極端に報酬・料金・委託料が少ない場合は、最低賃金以上の給料を請求される。
  • 「個人事業者・フリーランス」が業務実施中に事故に遭うと「労災」を主張される。
  • 日本年金機構(悪質な場合は国税庁)に社会保険料の負担を求められる。
  • 税務調査の際に「給与所得」としての源泉所得税(しかも追徴課税つき)の支払いを求められる。

これらのフリーランス・個人事業者との業務委託契約が労働契約・雇用契約とみなされた場合のリスクの詳細につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランスとの契約が雇用契約・労働契約とみなされる条件とリスクとは?

最低賃金以下の報酬だからといって直ちに違法というわけではない

ただし、業務委託契約か労働契約・雇用契約かの判断は複雑であり、最低賃金以下の報酬だからといって、直ちに労働契約・雇用契約とみなされるわけでありません。

逆に、たとえ「報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額」であったとしても、フリーランス・個人事業者である受託者が委託者の「指揮監督下の労働」に従事している場合は、労働契約・雇用契約とみなされることもあります。

この他、「労働基準法研究会報告」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは





最低賃金以下の報酬は下請法違反となるリスクもある

「買いたたき」に該当する場合は下請法違反・違法

なお、下請法が適用される業務委託契約において、最低賃金以下の報酬を定めた場合、下請法違反となる可能性もあります。

下請法が適用される場合(後述)は、親事業者=委託者が「著しく低い下請代金の額を不当に定めること」は、「買いたたき」に該当する可能性があります。

【意味・定義】買いたたきとは?

買いたたきとは、下請事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めることをいう(下請法第4条第1項第5号)。

なお、「通常支払われる対価」は、以下の2つの価格をいいます。

「通常支払われる対価」とは,当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。ただし,通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については,例えば,当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には,従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。

つまり、受託者がフリーランス・個人事業者であろうと法人であろうと、業務委託契約の報酬が、無償や最低賃金以下など、相場よりも低い場合や従来の取引価格より低い場合は、買いたたきに該当する可能性があります。

最低賃金以下の報酬が「買いたたき」に該当する事例

なお、下請法が適用される場合、「次のような方法で下請代金の額を定めることは,買いたたきに該当するおそれがある」とされています。

ア  多量の発注をすることを前提として下請事業者に見積りをさせ,その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること。

イ 量産期間が終了し,発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず,単価を見直すことなく,一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めること。

ウ  労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

エ  労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

オ  一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めること。

カ  親事業者の予算単価のみを基準として,一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

キ  短納期発注を行う場合に,下請事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ク  給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず,当該知的財産権の対価を考慮せず,一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

ケ  合理的な理由がないにもかかわらず特定の下請事業者を差別して取り扱い,他の下請事業者より低い下請代金の額を定めること。

コ  同種の給付について,特定の地域又は顧客向けであることを理由に,通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。

キ  給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず,当該知的財産権の対価を考慮せず,一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること。

下請法が適用される条件とは?

下請法は、特定の条件(資本金・業務内容)を満たした企業間取引に適用される法律です。

下請法が適用される業務委託契約のパターンにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?資本金・業務内容(製造委託等)について解説

下請法が適用されなくても独占禁止法違反(優越的地位の濫用)に該当する

なお、下請法が適用されない業務委託契約であっても、無償の業務委託は、優越的地位の濫用に該当する可能性があります。

このため、委託者としては、資本金の金額等に関係なく、無償の業務委託はなるべく避けるべきです。

この他、独占禁止法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約では独占禁止法(不公正な取引方法・優越的地位の濫用)に注意





業務委託契約と最低賃金に関するよくある質問

フリーランス・個人事業者が受託者である業務委託契約には、最低賃金の規制が適用されますか?
フリーランス・個人事業者が受託者である場合であっても、企業間取引である業務委託契約には、労働契約・雇用契約に適用される最低賃金法や最低賃金の規制は適用されません。
フリーランス・個人事業者が受託者である業務委託契約において、最低賃金以下の報酬を定めた場合、どのようなリスクがありますか?
フリーランス・個人事業者が受託者である業務委託契約において、最低賃金以下の報酬を定めた場合、その業務委託契約が労働契約・雇用契約(偽装請負)とみなされ、結果的に最低賃金法や最低賃金の規制が適用されるリスクがあります。また、下請法の「買いたたき」に該当するリスクもあります。