請負契約は、民法でも規定されている契約です。このため、多少いい加減な業務委託契約書を作成しても、民法の規定によって、契約内容は解釈されます。
ただ、そもそも業務委託契約書の内容として、請負契約であることが規定されていなければなりません。
また、民法の請負契約は、最低限の内容しか規定されておらず、ビジネスの実態とはかけ離れた内容となっています。
このため、企業間取引で請負契約型の業務委託契約を結ぶ場合は、このページにあるような条項を規定した業務委託契約書を作成する必要があります。
なお、請負契約の基本的なポイントにつきましては、以下のページをご覧ください。
また、製造請負契約書の契約条項については、以下のページで、より詳しく解説しています。
請負型の業務委託契約は民法の請負契約からかけ離れている
民法の請負契約はあくまで最低限の規定のみ
実際のビジネスの現場で、請負型の業務委託契約を結ぶ場合、非常に大きな問題点があります。
それは、民法で規定されている請負契約の内容とビジネスでの実態としての請負契約の内容がかけ離れている、という点です。
民法に規定されている請負契約の内容は、最低限のものしか規定されていません。
このため、民法の請負契約の規定は、個別の契約内容に関する規定が細部に渡って詰められておらず、ビジネスの現場ではあまり役に立ちません。
民法の請負契約の多くの規定は建設工事請負契約を想定している
しかも、ひとことで「請負契約」と言ってもさまざまな種類の請負契約がありますが、民法での請負契約は、主に建設工事請負契約を想定しています。
このため、建設工事請負契約以外の請負契約、特に製造請負契約では、ますますビジネスでの実態とかけ離れた内容となっています。
なお、その建設工事請負契約についても、建設業法第19条にもとづき、民法よりも詳細な契約内容を定めるように、義務が課されています。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約書の特約で修正する
こうした事情があるため、実際のビジネスの現場では、民法の規定をそのまま企業間取引に適用することは、まずありません。
ほとんどの場合は、契約書を作成して特約を規定し、民法での請負契約の規定を修正します。
逆に言えば、特約が盛り込まれた業務委託契約書を取り交わさないと、万が一裁判となった場合に、民法の原則どおりに実態とはかけ離れた形で、業務委託契約(請負契約)が解釈されるリスクがあるからです。
ポイント
- 民法の請負契約は、理念中心の内容で、しかも建設工事請負契約を想定している規定が多い。
- このため、企業間取引の実態に合わせて、業務委託契約書で修正する必要がある。
【条項・ポイント1】業務内容
業務内容=「仕事」
請負契約は、「仕事の完成」を目的とした契約です。
この「仕事」は、請負型の業務委託契約での「業務内容」に相当します。
業務委託契約書に業務内容を明記しておくことで、何が「仕事」なのかを明確にしておきます。
業務内容は、委託者(注文者)にとっては要望=権利であり、受託者(請負人)にとってはしなければならない義務となります。
「業務委託契約書に書けばいい」というものではない
業務内容は、単に業務委託契約書を作成して書けばいい、というような簡単なものではありません。
業務内容は、「仕事が完成したどうか」の、ひとつの基準となります。
業務委託契約書でいい加減な書き方や曖昧な書き方で業務内容を記載した場合、「仕事が完成したかどうか」を巡って、委託者(注文者)と受託者(請負人)の間で、トラブルとなります。
ですから、業務内容は、業務委託契約書を作成する時点で、可能な限り、客観的で明確な書き方で記載します。
なお、業務委託契約書における内容の記載については、以下のページもご覧ください。
いい加減な業務内容の書き方は下請法違反
下請法が適用される請負型の業務委託契約(下請取引)の場合、業務内容は、「三条書面」の「下請業者の給付の内容」に相当します。
このため、業務委託契約書を作成していい加減な業務内容を記載した場合、親事業者(委託者・注文者)は、下請法違反となります。
「下請業者の給付の内容」をどの程度明確に書くべきかという点については、次のとおりです。
(3) 3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」とは,親事業者が下請事業者に委託する行為が遂行された結果,下請事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務提供委託をした場合にあっては,下請事業者から提供されるべき役務)であり,3条書面には,その品目,品種,数量,規格,仕様等を明確に記載する必要がある。(以下省略)
引用元: 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準第3 1(3)
なお、下請法と三条書面につきましては、詳しくは以下のページをご覧ください。
ポイント
- 業務内容=請負契約で完成させるべき「仕事」。これを明確に規定することが業務委託契約書の作成のコツ。
【条項・ポイント2】受発注の手続き
受発注の手続きを決める
反復・継続的に複数回の業務が発生する請負型の業務委託契約の場合、受発注の手続きを明記しておきます。
こうした手続きの規定が必要な具体例としては、製造物の請負契約、それも継続的な製造物製造請負基本契約が該当します。
反復・継続的な業務委託契約では、個々の取引き(「個別契約」といいます)の受発注について明記しておきます。
そうしないと、個々の取引きの関する個別契約が成立したのか、それとも成立していないのかが、ハッキリとしなくなります。
なお、1回限りの請負契約では、特に考慮する必要はありません。
発注の方法・内容・スケジュールを明記する
具体的には、受発注の方法・内容・スケジュールを業務委託基本契約書に明記します。
受発注の方法は、電話、書面(注文書・注文請書、発注書・受注書など)、電子メール、EDIなど、さまざまな方法があります。
受発注の内容は、個々の取引きの業務内容、単価、個数、納期、納入場所、検査の日程など、個々の受発注の際に決める内容を記載します。
もちろん、具体的な内容については、それぞれの取引きのつど決めて、「受発注の方法」に従って、相手方に通知します。
受発注のスケジュールは、発注があってから、受注が完了するまで、誰が何をするのかを、具体的な期限を区切って記載します。
なお、この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
下請法では書面の交付での発注が義務づけられている
原則として書面の交付での発注
なお、下請法が適用される請負型の業務委託契約(下請取引)の場合は、受発注の方法が限られています。
具体的には、原則としては、書面(三条書面)の交付によって、受発注しなければなりません(下請法第3条第1項)。
ですから、下請法が適用される場合は、委託者(注文者)による口頭や電話での発注は、下請法違反となります。
事前に受託者(請負人)から承諾を得れば電子メールなどの電磁的方法でも発注可能
また、電子メールなどの電磁的方法による発注も認められていますが、電磁的方法による発注をすること自体について、あらかじめ受託者(請負人)から承諾を得る必要があります(下請法第3条第2項)。
この承諾も、「書面又は電磁的方法による承諾」となっています(下請法施行令第2条第1項)。
つまり、電子メールなどの電磁的方法で受発注をしたい場合は、業務委託契約書を作成してその旨を規定しておく必要があります。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
下請法では紙出力のファックスは「書面」扱い
ファックスでの発注に関しては、「受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は、書面の交付に該当する。」となっています(下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項 第1-1-(1)の注1)。
この点について、委託者(注文者)として注意するべき点は、紙出力でないファックスへの送信する場合です。
このような場合は、電磁的方法と同じ扱いとなります。
受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は,書面の交付に該当するが,電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックスに送信する場合には,電磁的方法による提供に該当する(留意事項第 1-1-(1))。
引用元: 下請取引適正化推進講習会テキストp.105
第1 電磁的記録の提供の方法に関する留意事項
1 電磁的記録の提供の方法
下請法第3条第1項の書面の交付に代えて行うことができる電磁的記録の提供の方法は,以下のいずれかの方法であって,下請事業者がファイルへの記録を出力することによって書面を作成することができるものをいう。
(1) 電気通信回線を通じて送信し,下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「下請事業者のファイル」という。)に記録する方法(例えば,電子メール,取引データをまとめてファイルとして一括送信する方法(EDI等),電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法等)
(注1)受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は,書面の交付に該当する。
(注2)電子計算機とは,内部にCPU(中央演算装置)やメモリーを有し,電気通信回線を通じて電磁的記録を受信できるものをいう。
(以下省略)
建設業法では書面の交付が義務づけられている
建設工事の請負契約を結ぶ場合、次のとおり、書面の交付が義務づけられています。
建設業法第19条(建設工事の請負契約の内容)
1 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(1)(以下省略)
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
しかも、単に契約内容を記載した書面を交付すればいいだけではなく、「署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」となっています。
このため、通常は、建設業法第19条第1項各号に適合した、建設工事請負契約書を取交します。
ちなみに、この規定では、「建設工事の請負契約の当事者は」となっていますので、委託者・受託者の双方に義務が課されています。
このため、建設工事請負契約書を作成しないと、委託者・受託者の双方が建設業法違反となります。
このほか、建設工事請負契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
商法第509条により発注を放置すると受注したことになる
業務委託契約での発注放置=自動受注
反復・継続的な取引関係にある委託者(注文者)から発注があった場合に、受託者(請負人)が何の連絡もせずに、その発注を放置したときは、委託者(注文者)からの発注を受注したものとみなされます。
商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
引用元:商法 | e-Gov法令検索
商法は、商行為、わかりやすくいえば企業間取引に適用されるルールですので、通常の業務委託契約に適用されます。
「発注放置=自動拒否」とするには業務委託契約書が必須
受託者(請負人)が、このような、いわば「発注放置=自動受注」というルールを適用したくない場合は、業務委託契約書を作成して、特約を結ぶ必要があります。
商法第509条は、あくまで原則を規定したものであり、当事者の合意=契約・特約があれば、これとは違うルールにすることができます(商法第509条は、いわゆる「任意規定」です。)。
【意味・定義】任意規定とは?
任意規定とは、ある法律の規定と異なる合意がある場合に、その合意のほうが優先される法律の規定をいう。
言いかえれば、商法第509条とは異なるルールが記載された物証(特に業務委託契約書)がなければ、原則どおり、「発注放置=自動受注」となります。
ですから、受託者(請負人)が「発注放置=自動受注」ではなく、「発注放置=自動拒否(個々の取引きの契約不成立)」としたいのであれば、そのような内容で業務委託契約書を作成して取り交わす必要があります。
ポイント
- 受発注の手続きは意外と軽視しがち。しっかりと明確にしておかないと、「発注した」「いや受注していない」というトラブルになる。
【条項・ポイント3】納入期限・納入期日・提供期日・提供期間
物品や知的財産などの成果物を納入するタイプの請負契約の場合、納入期限・納入期日、いわゆる「納期」を規定します。
これは、下請法の三条書面でも記載が必須の項目です。
納入期限とは、「期限」ですので、指定された「日まで」に納入するという意味になります。
納入期日とは、「期日」ですので、指定されたピンポイントの「日」に納入するという意味になります。
また、サービスの提供のようなタイプの請負契約の場合は、サービスが提供される期日や期間を規定します。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- ひと言で「納期」といっても、様々な設定のしかたがある。
【条項・ポイント4】納入場所・業務実施の場所
納入・業務実施の場所の特定が必要な場合は必ず規定する
なんらかの物品(製品・目的物・成果物)の納入がある場合や、特定の場所で業務を実施してもらうタイプの業務委託契約の場合、納入場所や業務実施場所を規定します。
これは、下請法の三条書面でも記載が必須の項目です。
なお、物品の納入の納入の場合、納入場所は、大きく分けて、次のいずれかです。
納入場所の例
- 委託者(注文者)の指定する住所
- 受託者(請負人)の工場などの事業所
- 委託者(注文者)が指定する船舶・航空機・車両(トラック、トレーラー、タンクローリーなど)がいる場所
個人事業者・フリーランスとの業務委託契約では必要のない場所の制限はしない
ちなみに、作業を提供してもらうタイプの請負型の業務委託契約を個人事業者・フリーランスとの業務委託契約の場合、作業実施場所を契約内容に規定するのには、注意が必要です。
というのも、必要もないのに作業の実施場所を業務委託契約に規定した場合、業務委託契約ではなく、雇用契約・労働契約とみなされるリスクがあります。
ですから、業務内容の特性上、やむを得ない場合に限って、作業実施場所を規定します。
例えば、社内研修などで、フリーランスの講師に研修を依頼する業務委託契約などであれば、作業実施場所を委託者(注文者)が入居する建物などに特定しても、特に問題となりません。
ポイント
- 業務実施の場所は、下請法では記載必須の事項。
- ただし、ヘタに個人事業者・フリーランスを拘束すると、雇用契約・労働契約とみなされるリスクもある。
【条項・ポイント5】検査(検査項目・検査方法・検査基準)
検査をするかどうかを規定する
検査の規定については、まず、検査自体をするかどうかを決める必要があります。
民法では、請負契約における「検査」そのものが規定されていません。
言いかえれば、委託者(注文者)は、必ずしも検査をしなくてもいい、ということになります。
ただ、一般的な企業間取引での請負型の業務委託契約では、業務内容について、検査する旨が規定されます。
また、検査をしないのであれば、検査を省略する旨を規定します。
下請法が適用される場合は「検査省略=自動合格」
なお、下請法が適用される請負型の業務委託契約の場合、委託者(注文者)が業務委託の目的物の検査を省略したときは、その目的物は、自動的に合格となります。
こうなると、目的物が業務委託契約の業務内容の規定と違っていたり、後で目的物に欠陥があったとしても、返品は認められません。
下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準 第4-4-(2)-オ
(途中省略)なお、次のような場合には委託内容と異なること又は瑕疵等があることを理由として下請事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。
(ア~エまで省略)
オ 給付に係る検査を省略する場合
(以下省略)
このため、下請法が適用される業務委託契約の場合は、委託者(注文者)としては、安易に検査を省略するべきではありません。
検査をする場合は検査方法・検査基準を明確にする
検査をする場合、業務委託契約には、なるべく検査の方法と基準を明確に規定します。
請負型の業務委託契約ではありがちですが、実施された業務=仕事が「完成したかどうか」を巡って、よく委託者(注文者)と受託者(請負人)の間でトラブルになります。
これは、業務内容が明記されていない場合にもありますが、検査方法や検査基準が規定されていない場合にもある話です。
客観的な(できれば数値化した)検査方法や検査基準を業務委託契約に規定して、その検査方法に従って検査した結果によって、合格・不合格を判定するよにすれば、こうしたトラブルは防げます。
あらかじめ、つまり業務委託契約を結ぶ時点で検査方法や検査基準を決められなくても、少なくとも納入の前には検査方法や検査基準を規定するようにします。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 検査については、民法では一切規定されていない。
- このため、業務委託契約書を作成して詳細に規定する必要がある。
【条項・ポイント6】検査期限・検査手続
検査期限(スケジュール)と検査手続きを明記する
検査期限は委託者(注文者)が「検査しない」ことを防ぐ
また、検査の規定では、検査の期限を設定します。
検査の期限を設定することで、委託者(注文者)がいつまで経っても検査をしない、というトラブルが防げます。
ちなみに、下請法が適用される業務委託契約では、検査をする場合は、「検査を完了する期日」が三条書面の必須記載事項となっています。
ですから、検査をするにもかかわらず、業務委託契約書を作成した際に「検査を完了する期日」を記載しない場合は、下請法違反となります。
三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
検査期限が過ぎた場合の取扱いも規定する
検査期限は、単に設定すればいい、というものではありません。
ポイントは、検査期限を過ぎた場合に、その検査がどうなるのかを規定しておくことです。
この点について、受託者(請負人)にとって有利なのは、検査期限を過ぎたら、業務内容は合格したものとみなす内容です。
逆に、委託者(注文者)にとって有利なのは、検査期限を過ぎたら、業務内容は不合格とみなす内容です。
また、検査内容(合格・不合格)の通知方法など、検査手続きについても規定します。
この点につきましては、以下のページもご覧ください。
ポイント
- 検査の期限を区切ることで、委託者がいつまでも検査をしないことを防ぐ。
- 検査期限を経過した場合の自動合格・自動不合格も決めておく。
【条項・ポイント7】契約不適合責任
受託者(請負人)が検査合格後に負う責任
請負型の業務委託契約において、なんらかの物品(製品・目的物・成果物)の納入がある場合は、その物品等に契約不適合(≒欠陥・瑕疵)があった場合の受託者(請負人)の責任について規定します。
【意味・定義】有償契約における契約不適合とは?
契約不適合とは、有償契約において債務者により履行された債務の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないことをいう。旧民法における、いわゆる「瑕疵」に相当する概念。
このような責任を「契約不適合責任」といいます。
【意味・定義】契約不適合責任とは?
契約不適合責任とは、有償契約において、債務者により履行された債務が契約の内容に適合しない場合において債務者が負う責任をいう。
業務委託契約では、一般的に、検査に合格した後に発覚した物品等の契約不適合(≒欠陥・瑕疵)について、受託者(請負人)が、期限を区切って契約不適合責任を負います。
これを、「契約不適合責任の期間」といいます。
瑕契約不適合責任は4種類
請負契約において、仕事に契約不適合があった場合、受託者=請負人は、履行追完責任・代金減額責任・損害賠償責任・契約解除の4つの責任を負います。
4種類の契約不適合責任
- 履行追完責任
- 代金減額責任
- 損害賠償責任
- 契約解除責任
民法第562条(買主の追完請求権)
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
契約不適合の期間を設定する
民法では契約不適合の期間は「知った時から1年以内」
受託者(請負人)が契約不適合責任を負う期間=契約不適合の期間は、民法等の法律で決まっています。
この期間は、民法上、次のとおり、注文者が契約不適合を「知った時から1年」と規定されています。
このように、契約不適合責任の起算点は、注文者が契約不適合を「知った時から」となります。逆に、請負人にしてみれば、注文者が契約不適合を知らなければ、時効になるまで(納入等から10年間)契約不適合責任は消滅しません。
なお、この1年間は除斥期間とされますので、時効のように中断はしません。
特約で契約不適合責任の期間を設定する
このように、民法上の契約不適合責任の期間は、事実上10年間であり、企業間取引の実態とはかけ離れています。
ただ、契約不適合責任の期間は、業務委託契約にもとづく当事者の合意によって自由に変えることができます(一部法律によってできない場合もあります)。
このため、一般的な請負型の業務委託契約では、契約不適合の期間を民法等の法律とは別の期間(納入や検査完了時から6ヶ月から1年程度。業務内容による)を設定します。
この際、契約不適合の期間の起算点、つまり、どの時点から契約不適合の期間を計算するのかを明らかにします。例えば、納入があった日や、検査に合格した日などが考えられます。
契約不適合の請求の手続きを明記する
また、契約不適合の条項では、委託者(注文者)による契約不適合の請求の手続きも明記します。
具体的には、契約不適合を請求できる期間内に、何をしなければいけないのかを明記します。
例えば、契約不適合があることを通知することの規定や、このような通知だけではなく、契約不適合の責任について何らかの請求も必要とする規定もあります。
このほか、契約不適合責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【条項・ポイント8】報酬・料金・委託料
金額か計算方法のいずれかを規定する
報酬・料金・委託料につきましては、金額か計算方法のいずれかを業務委託契約に規定します。
金額を規定する場合は、数字を巡ってトラブルになることは、まずありません。
ただし、個人事業者が受注者(請負人)となる場合は、源泉徴収を巡ってトラブルとなることがありますので、特に、委託者(注文者)の立場の場合は注意を要します。
計算方法を規定する場合は、委託者(注文者)と受託者(請負人)の双方の計算結果が違わないように規定する必要があります。
また、消費税の表記(内税・外税の別)も忘れないようにしてください。
このほか、報酬・料金・委託料の金額または計算方法については、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ちなみに、下請法が適用される業務委託契約において、報酬・料金・委託料の計算方法を規定した場合は、「…下請代金の具体的な金額を確定した後,速やかに,下請事業者に通知する必要がある。」とされています(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準 第3 1(2))。
著作権などの知的財産権が発生する場合はその対価も規定する
請負型の業務委託契約では、著作権などの知的財産権が発生する場合もあります。
この場合、一般的には、その著作権等を譲渡するか、または使用許諾をするように規定します。
報酬・料金・委託料の規定では、この譲渡または使用許諾の対価についても、規定します。
多くの場合、委託業務の報酬・料金・委託料に含まれる形にしますが、別々の計算としてもかまいません。
費用は受託者(請負人)の負担
請負契約では、「仕事の完成」に要する費用は、すべて受託者(請負人)の負担となります。
このため、委託者(注文者)としては、わざわざ業務委託契約書において、受託者(請負人)が費用を負担することを明記する必要はありません。
逆に、受託者(請負人)としては、報酬以外に委託者(注文者)に費用負担を求める場合は、あらかじめその旨を業務委託契約書を作成して明記しておく必要があります。
あるいは、どの程度の費用が発生するのかを、あらかじめ想定したうえで、その費用を織り込んだ報酬を設定します。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 報酬・料金・委託料は、金額または計算方法で決める。
- 個人事業者が受託者(請負人)の場合、委託者(注文者)は、源泉徴収を巡ってトラブルとならないように、事前に丁寧に説明する。
- 報酬・料金・委託料には消費税が含まれるか含まれないかを規定する。
- 著作権等の知的財産権の対価も忘れずに規定する。
- 請負型の業務委託契約では、費用は原則として受託者(請負人)の負担。
【条項・ポイント9】原材料の有償支給
製造請負契約や、建設工事請負契約などの契約で、原材料を有償で支給する場合、「品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法」を規定します。
これは、下請法の三条書面で記載が必須の項目となっています。
もっとも、この程度の内容であれば、下請法が適用されない業務委託契約でも規定しておくべきです。
この他、原材料の所有権・危険負担の移転なども規定します。
なお、建設工事請負契約では下請法が適用されませんが、建設工事請負契約書には、「注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め」を記載しなければなりません(建設業法第19条第1項第9号)。
ポイント
- 「原材料の有償支給」の条項は、一種の売買契約。売買契約書をひとつ作るくらいの気持ちで規定する必要がある。
【条項・ポイント10】所有権の移転
請負型の業務委託契約において、なんらかの物品(製品・目的物・成果物)の納入がある場合は、所有権の移転についても、明記します。
より具体的には、所有権の移転の条件と時期について、規定します。
この点について、委託者(注文者)にとっては、所有権の移転が早ければ早いほど有利といえます。
逆に、受託者(請負人)にとっては、所有権の移転が遅ければ遅いほど有利といえます。
この他、所有権の移転につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 所有権は、業務委託契約の対象となる物品(製品・目的物・成果物)の根幹にかかわる重要な権利。
- どの時点で移転させるべきか、慎重に考えて業務委託契約書の作成のときに規定する。
【条項・ポイント11】危険負担の移転
委託者(注文者)・受託者(請負人)の双方に責任がない場合について規定する
所有権と同じように、請負型の業務委託契約において、なんらかの物品(製品・目的物・成果物)の納入がある場合は、危険負担の移転についても、明記します。
危険負担とは、何らかの事情で、請負契約の目的となる物品(製品・目的物・成果物)が損壊・滅失した場合、その危険=リスク、つまり損害をどちらが負担するのか、という規定です。
この点について、委託者(注文者)・受託者(請負人)のいずれかに責任がある場合は、その責任のある者が損害を負担するべきです。
問題となるのは、委託者(注文者)・受託者(請負人)のいずれかにも責任がない場合です。
一般的には納入時に危険負担を移転する
こうした、委託者(注文者)・受託者(請負人)のいずれかにも責任の負担については、受託者から委託者に移転するように規定します。
そして、一般的には、その物品(製品・目的物・成果物)を支配下においている(法的には占有している)当事者が、その損害を負担します。
このため、業務委託契約では、納入があった時点で、危険負担が受託者(請負人)から委託者(注文者)に移転する内容とします。
ただし、これは、契約当事者間での立場や力関係によっては、違った内容、特に検査完了時となることもあります。
民法の原則では検査完了時
民法の請負契約における危険負担は債務者主義
なお、民法では、請負契約の危険負担については、次のとおり規定されています。
民法第536条(債務者の危険負担等)
1 前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
請負契約は、民法第536条第1項の「前2条に規定する場合」に該当しないとされています。
つまり、請負契約では、「当事者双方の責めに帰することができない事由」による危険は、「反対給付を受ける権利」がなくなることで、債務者=受注者(請負人)が負担することになります。
つまり、受注者(請負人)は、債務の履行は免れるものの、報酬・料金・委託料の請求権もなくなります。
このように、危険負担において、危険を債務者に負担させることを「債務者主義」といいます。
債権者の責任の場合は債権者の負担
民法第536条第2項により、「債権者の責めに帰すべき事由」による危険は、「反対給付を請ける権利」がならくならないことで、債権者=委託者(注文者)が負担します。
つまり、受注者(請負人)は、債務の履行を免れるうえに、報酬・料金・委託料の請求権もなくなりません。
このように、危険負担において、危険を債権者に負担させることを「債権者主義」といいます。
ちなみに、債務者=受注者(請負人)の責任で債務を履行することができなくなった場合は、債務不履行(=履行不能)となり、危険負担の問題とはなりません。
仕事の完成=検査完了時に危険負担が移転する
危険負担の問題は、あくまで「債務が履行できなくなったとき」の問題です。
つまり、債務の履行をしてしまった後では、特に問題とはなりません。
この点について、請負契約は、仕事の完成を目的とした契約ですから、債務の履行=仕事の完成となります。
つまり、民法上は、仕事の完成=検査完了時に、受託者(請負人)の債務が履行され、受託者(請負人)による危険負担も消滅します。
このように、民法上は、請負契約において、実質的には検査完了時に危険負担が移転する、ということになります。
この他、危険負担の移転につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 危険負担の移転の時期は、委託者(注文者)・受託者(請負人)の双方に責任がない場合の損害について規定する。
- 一般的には納入時に危険負担を受託者(請負人)から委託者(注文者)移転する。ただし、検査完了時の場合もありうる。
- 民法の原則どおりでは、検査完了時に実質的に危険負担が移転する。
【条項・ポイント12】成果物の著作権の取扱い(譲渡または使用許諾)
業務委託契約では著作権は譲渡されることが多い
請負型の業務委託契約において、知的財産権、特に著作権が発生する場合、その取扱いについて規定しておきます。
具体的には、請負型のソフトウェア(プログラム・システム・アプリ)開発の業務委託契約や、グラフィックデザインの業務委託契約が該当します。
一般的な業務委託契約では、受託者(請負人)から委託者(注文者)に対し、著作権が譲渡、つまり委託者(注文者)による買取りとされることが多いです。
買取りといっても、対価は、委託業務の報酬に含まれることがほとんどで、著作権の対価が別途規定されることはほとんどありません。
この点につきまして、詳しくは、以下のページをご覧ください。
使用許諾=ライセンス契約
この他には、譲渡ではなく、使用許諾とする場合もあります。
つまり、著作権等の権利は受託者(請負人)に残しつつ、委託者(注文者)には著作権等の使用を許諾する、ということです。
このような、知的財産権の使用許諾の契約のことを、「ライセンス契約」といいます。
業務委託契約で知的財産権を使用許諾とする場合は、業務委託契約の一部として、ライセンス契約の内容も規定することになります。
ただ、ライセンス契約は、契約実務でも特に難しい種類の契約です。
このため、ソフトウェア(プログラム・システム・アプリ)開発の請負契約における、いわゆる「モジュール」の使用許諾など、限られた場面でしか、知的財産権を使用許諾とすることはありません。
下請法でも知的財産権の譲渡・使用許諾は三条書面に記載必須の項目
なお、下請法が適用される業務委託契約の場合において、知的財産権が発生するときは、その譲渡・使用許諾について、三条書面に記載しなければなりません。
(途中省略)また,主に,情報成果物作成委託に係る作成過程を通じて,情報成果物に関し,下請事業者の知的財産権が発生する場合において,親事業者は,情報成果物を提供させるとともに,作成の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「下請事業者の給付の内容」とすることがある。この場合は,親事業者は,3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」の一部として,下請事業者が作成した情報成果物に係る知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。
引用元: 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準第3 1(3)
ポイント
- 著作権が発生する業務委託契約では、譲渡や使用許諾等、必ず著作権の取扱いを業務委託契約書を作成して明記する。
【条項・ポイント13】再委託・下請負
請負契約では再委託・下請負は自由
請負契約は、「仕事の完成」を目的とした契約であり、その仕事を「誰が」完成させたかは、重要ではありません。
このため、民法上は、受託者(請負人)が再委託・下請負をすることは、禁止されていません。
逆にいえば、委託者(注文者)として、受託者(請負人)に対して、再委託・下請負を禁止する場合は、その旨を業務委託契約書の作成の際に記載しなければなりません。
このほか、再委託・下請負につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
建設工事請負契約では建設業法によって「一括下請負」=丸投げが禁止されている
なお、建設工事請負契約では、建設業法第22条により、原則として、「一括下請負」、つまり「丸投げ」が禁止されています。
建設業法第第22条(一括下請負の禁止)
1 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3 前2項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
4 (省略)
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
ただし、第3項にあるとおり、「共同住宅を新築する建設工事」(建設業法施行令第6条の3)以外の建設工事で、発注者(いわゆる「施工主・施主」)からの書面による承諾がある場合は、例外として一括下請負が認められます。
この他、一括下請負の定義・条件・例外等につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 請負契約は、原則として再委託・下請負は自由。
- このため、委託者(注文者)が請負型の業務委託契約で再委託・下請負を禁止したいのであれば、業務委託契約書を作成してその旨を規定しないと禁止できない。
【条項・ポイント14】契約解除・中途解約
すでに述べたとおり、請負契約では、委託者(注文者)の側は、中途解約をしやすいようになっています。
民法第641条(注文者による契約の解除)
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
他方、受託者(請負人)の側は、「注文者が破産手続開始の決定を受けたとき」に、中途解約ができます。
民法第642条(注文者についての破産手続の開始による解除)
1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。
2 (以下省略)
引用元:民法 | e-Gov法令検索
このため、受託者(請負人)が、より広い範囲で中途解約や契約解除ができるようにするためには、業務委託契約書を作成して、中途解約・契約解除の条項を規定する必要があります。
このほか、中途解約・契約解除の条項につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 受託者(請負人)は、極めて限定的な条件でしか、請負型の業務委託契約は解除できない。
- このため、業務委託契約書を作成することで、より広い解除権を確保するべき。
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