このページでは、典型的な業務委託契約として、7つのパターンを紹介しています。

一般的な業務委託契約は、民法上の請負契約か、委任契約(または委任契約に準じた準委任契約)のいずれかであることが多いです。

ただ、この他にも、業務委託契約は、寄託契約、組合契約、雇用契約(労働契約)、売買契約、譲渡契約に該当することもあります。また、民法上の契約ではありませんが、労働者派遣契約である場合もあります。

もちろん、この他にも業務委託契約のパターンはありえますが、たいていの企業間取引での業務委託契約は、このパターンのいずれかに該当します。

自社の業務委託契約が、法律上はどの契約に該当するのかをよくご確認のうえ、知らず知らずのうちに違法な状態にならないように、注意してください。

なお、業務委託契約書の基本的なポイントにつきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書とは?書き方・注意点についてわかりやすく解説




業務委託契約の7つのパターン一覧

業務委託契約には、大きく分けて次の7つのパターンがあります。

業務委託契約の7つのパターン
  • 【パターン1】請負契約型の業務委託契約
  • 【パターン2】委任契約・準委任契約型の業務委託契約
  • 【パターン3】寄託契約型の業務委託契約
  • 【パターン4】組合契約型の業務委託契約
  • 【パターン5】実は雇用契約・労働契約である業務委託契約
  • 【パターン6】実は労働者派遣契約である業務委託契約(偽造請負)
  • 【パターン7】売買契約・贈与契約が含まれる業務委託契約

以下、それぞれ詳しく説明していきます。





【パターン1】請負契約型の業務委託契約

【意味・定義】請負契約は仕事の完成を目的とした契約

請負契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第632条(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】請負契約とは?

請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。

請負契約の重要なポイントは、「仕事の完成」が目的となった契約である、という点です。言いかえれば、「仕事の過程」については、重要ではありません。

なお、請負契約の詳細な解説については、以下のページをご覧ください。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

請負契約は典型的な業務委託契約のひとつ

1つめのパターンは、請負契約です。請負契約は、準委任契約と並ぶ、典型的な業務委託契約です。

例えば、次のような業務委託契約は、一般的には請負契約とされます。

請負契約型の業務委託契約
  • 製品・商品・物品・建物などの物体の「完成」を目的とした業務委託契約
  • システム等(ソフトウェア、プログラム、システム、アプリなど)、デザイン(グラフィック、ロゴマーク、ホームページなど)などの著作物・知的財産の完成を目的とした業務委託契約
  • 物の移動の完成=運送を目的とした業務委託契約(運送請負契約)

業務内容が何らかの仕事=業務の「完成」を目的とした業務委託契約の契約形態は、大半が、この請負契約です。

これに対し、何らかの作業(=仕事の「過程」)をしてもらい、仕事の完成を目的としない業務委託契約は、委任契約・準委任契約等に該当します。

ポイント
  • 請負契約は、請負人(=受託者)による仕事の完成を目的とした契約。
  • 請負契約は典型的な業務委託契約のひとつ。





【パターン2】委任契約・準委任契約型の業務委託契約

【意味・定義】委任契約は「法律行為」をすることを委託する契約

2つめのパターンは、委任契約です。委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第643条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】委任契約とは?

委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為のことです。

【意味・定義】法律行為とは?

法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。

学術的な用語で、非常にわかりづらいですが、わかりやすい具体例としては、「契約を結ぶこと」が、法律行為のひとつの例です。

委任契約である業務委託契約はほとんどない

一般的な企業間の取引では、受託者に対して、委託者が自社の意思表示を任せるような業務委託契約は、ほとんど結ばれません。これは、すでに述べた法律行為が、その企業にとっては対外的な意思決定となるため、そこまでは委託しないからです。

営業を委託する業務委託契約(一般的な呼び方では代理店契約)でさえ、最終的には、顧客(営業先)との取引の契約を結ぶかどうかは、委託者の審査を経て検討されます。

このような場合は、よほど信頼関係がある受託者でない限り、委託者は、自社と顧客(営業先)と契約を結ぶこと(=法律行為)を委託しません。そうしないと、おかしな契約を結ばれてしまうリスクがあるからです。

このように、一般的なビジネスモデルでは、委任契約に該当する業務委託契約は、実際には、まずありません。

【意味・定義】準委任契約は「法律行為でない事務」の委託をする契約

準委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第656条(準委任)

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【意味・定義】準委任契約とは?

準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

ここでいう「事務」というのは、一般的な用語としての事務(例:事務を執る、事務所、事務職など)ではなく、もっと広い概念です。民法上は定義がありませんが、作業、助言、企画、技芸の教授など、「法律行為でない行為」が該当すると考えて差し支えないでしょう。

なお、委任契約・準委任契約の詳細な解説については、以下のページをご覧ください。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

準委任契約は典型的な業務委託契約のひとつ

準委任契約は、請負契約と並ぶ、典型的な業務委託契約です。業務内容がなんらかの作業そのものである業務委託契約は、大半が、この準委任契約です。

例えば、建設工事の一部の作業を一人親方に発注する業務委託契約は、法的には建設工事の準委任契約です。ただし、工事の完成を目的としている場合は請負契約となります。

また、プログラミングの作業を発注する契約も、準委任契約となります。ただし、システムやアプリ、部分的であってもモジュールなどの完成を目的としている場合は請負契約となります。

なお、請負契約と委任契約の違いについては、以下のページをご覧ください。

請負契約と(準)委任契約の14の違い

この他、単なる作業ではなく、経営コンサルタントなどプロジェクトにジョインしてもらったうえで、企画やアドバイスを受ける業務委託契約も、準委任契約です。もちろん、インハウスのコンサルタントとしてジョインしてもらう場合は、直接雇用の労働契約・雇用契約となります。

個人事業者・フリーランスとの準委任契約は雇用契約・労働契約とみなされやすい

注意しなければいけないのは、受託者が個人事業者・フリーランスの業務委託契約では、準委任契約ではなく、雇用契約・労働契約とみなされる可能性がある、ということです。

このような業務委託契約では、準委任契約と雇用契約・労働契約の区別がつきづらいため、契約の実態によっては、雇用契約・労働契約とみなされます。

この点につきましては、後述の「【パターン5】実は雇用契約・労働契約である業務委託契約」で解説します。

また、以下のページも併せてご覧ください。

個人事業者・フリーランスとの業務委託契約と雇用契約・労働契約の15の違い

ポイント
  • 委任契約は「法律行為」をすることを委託する契約。
  • 準委任契約は「法律行為でない事務」(=何かの行為)をすることを委託する契約。
  • 一般的に、何かの行為の実施そのものを委託する業務委託契約は、準委任契約であることがほとんどで、委任契約であることはあまりない。
  • 個人事業者・フリーランスとの準委任契約は雇用契約・労働契約とみなされるリスクがある。





【パターン3】寄託契約型の業務委託契約

【意味・定義】寄託契約は他人の物品を保管する契約

3つめのパターンは、寄託契約です。寄託契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第657条(寄託)

寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】寄託契約とは?

寄託契約とは、寄託者(委託者)が受寄者(受託者)に対しある物の保管を委託する契約をいう。

寄託契約の典型的な例としては、倉庫業者(受託者)が、委託者の荷物を預かる契約があります。

ちなみに、このような倉庫業者による寄託契約は、倉庫業法にもとづいて、国土交通省が各種の標準約款を整備しています。

参考:物流:倉庫業法 – 国土交通省

企業間の寄託契約は「商事寄託」

なお、企業間の取引としての寄託契約は、商法(第2篇 商行為 第9章 寄託)に規定されている、いわゆる「商事寄託」に該当します。

商法は、民法の特別法であり、一般的な企業間の取引では、民法よりも優先して適用されます。

【意味・定義】特別法とは?

特別法とは、ある法律(=一般法)が適用される場合において、特定の条件を満たしたときに、一般法よりも優先的に適用される法律をいう。

商法第595条

商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければならない。

業務委託契約として、委託者の物品を預かる場合、通常は「其営業ノ範囲内」となるでしょう。ですから、商法第593条以下の規定が、民法の寄託の規定よりも優先して適用されます。

倉庫業(=登録が必要な事業)に該当する可能性が高い

さらに、業務委託契約としての寄託契約にもとづいて、受寄者(受託者)が寄託者(委託者)から荷物を預る場合は、その事業は、一部の例外を除いて、倉庫業に該当します。

倉庫業法第2条(定義)

1 この法律で「倉庫」とは、物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であつて、物品の保管の用に供するものをいう。

2 この法律で「倉庫業」とは、寄託を受けた物品の倉庫における保管((中略)政令で定めるものを除く。)を行う営業をいう。

3 (以下省略)

例外的に、上記の規定の第2項のかっこ書きで除外されているものは、以下のとおりです(倉庫業法施行令第1条各号)。

倉庫業の例外とは?

以下の4点が例外として倉庫業に該当しない。

  1. 銀行や証券会社による証券等の保護預り(第1号)
  2. クリーニング店、工業製品加工業者、修理店による洗濯、加工、修理をした物品の保管(第2号)
  3. 手荷物や衣類の保管(第3号)
  4. 他人が使用する自転車・自動車などの保管(第4号)

例えば、物品の製造請負の業務委託契約で、受託者が、委託者から供給された原材料を預かる場合は、2点目に該当し、倉庫業には当たりません。

これらの例外に該当しない場合に、業務委託契約として寄託契約を結ぶのであれば、受寄者(受託者)は、倉庫業の登録をしなければなりません(倉庫業法第3条)。

無登録での倉庫業の営業は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科となります(倉庫業法第28条第1号)。

寄託契約と委託契約の違いは?

このように、寄託契約は委託契約(業務委託契約)の一部であるといえます。

他方で、寄託契約と委託契約は、対象となる業務が、取り扱う業務が物品の保管(寄託)であるか、あらゆる業務(委託)であるかの違いがあります。

寄託契約と委託契約の違い

寄託契約と委託契約の違いは、寄託契約が取り扱う業務内容が物品の保管のみである点に対し、委託契約が取り扱う業務内容があらゆる業務である点。

この他、寄託契約と委託契約の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

寄託契約と委託契約の違いとは?

ポイント
  • 寄託契約型の業務委託契約は、他人の物品を保管する契約。
  • 企業間取引での寄託契約は倉庫業(=登録制)に該当する可能性が高い。





【パターン4】組合契約型の業務委託契約

【意味・定義】組合契約は共同事業の契約

4つめのパターンは、組合契約です。組合契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第667条(組合)

1 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

2 出資は、労務をその目的とすることができる。

【意味・定義】組合契約とは?

組合契約とは、契約当事者が出資(労務の提供も含む)をすることで、共同事業をする契約。

「組合」といえば、一般的には、特定の業界の企業が結成した業界団体のイメージがあると思いますが、この「組合」を組織する契約も、組合契約です。

契約実務としては、組合契約は、投資ファンドを組成するひとつの手法(いわゆる「任意組合」)としても使われます。

共同事業型の業務委託契約は組合契約

「組合」といえば、どうしてもすでに述べたような、業界団体をイメージしがちです。

ただ、企業間の取引では、組合契約は、むしろ民法に規定されている「共同で事業を営むこと」=共同事業をするための契約として使われます。典型的な例は、建設工事のジョイントベンチャー(企業共同体)を組成する契約が、組合契約です。

また、組合契約にもとづく任意組合ではなく、より事業性の高い有限責任事業組合(LLP)を組成する際には、有限責任事業組合契約(LLP契約)を結びます。

このように、何かひとつの事業を共同でする際、その事業の中心となる企業(委託者)と、その構成者(受託者)との間に結ばれる業務委託契約は、実質的には組合契約であることがあります。

ポイント
  • 組合契約は、本来は共同事業をするための契約。
  • 組合契約型の業務委託契約は、共同事業やジョイント・ベンチャーの契約。





【パターン5】実は雇用契約・労働契約である業務委託契約

【意味・定義】「雇用契約」は民法での表現

5つめのパターンは、実は業務委託契約ではなく、実態は雇用契約(労働契約)である場合です。雇用契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第623条(雇用)

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】雇用契約とは?

雇用契約とは、労働者が労働に従事し、使用者が労働に対する報酬を支払う契約。

「雇用契約」という表現自体は、民法上の表現であり、労働契約法では、同様に「労働契約」という表現があります。

なお、民法上の雇用契約に関する規定は、ごく基本的な事項しか規定されていません。

雇用契約の実務では、民法の他に、労働基準法、労働契約法、パートタイム労働法、職業安定法など、さまざまは労働法が適用されてきます。

【意味・定義】「労働契約」は労働契約法での表現

労働契約は、労働契約法では、以下ように規定されています。

労働契約法第6条(労働契約の成立)

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

【意味・定義】労働契約とは?

労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がその労働に対して賃金を支払う契約。

労働契約法の労働契約の定義は、民法の雇用契約の定義とは若干表現がことなります(特に「使用されて」という部分)。

雇用契約・労働契約については、詳しくは、以下のページもご覧ください。

雇用契約・労働契約とは?フリーランス・個人事業者との業務委託契約との違いは?

個人事業者・フリーランスとの業務委託契約は雇用契約・労働契約とみなされる可能性がある

個人事業者やフリーランスと業務委託契約を結ぶ場合、いくら当事者同士で請負契約や準委任契約として合意したとしても、実態は、雇用契約・労働契約となんら変わらないことがあります。こうした実態の業務委託契約では、請負契約や準委任契約ではなく、雇用契約・労働契約とみなされるリスクがあります。

ですから、個人事業者やフリーランスと業務委託契約を結ぶ場合は、業務委託契約が雇用契約・労働契約とみなされないよう対応した業務委託契約書を用意する必要があります。

もちろん、形式的に書類を用意するだけではなく、取引の実態としても、雇用契約・労働契約ではない状態にしておく必要があります。

この点につきましては、以下のページもご覧ください。

個人事業者・フリーランスとの業務委託契約と雇用契約・労働契約の15の違い

『労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)』に準拠した業務委託契約書とする

なお、個人事業者やフリーランスと適法な業務委託契約を結ぶのであれば、単にタイトルを「業務委託契約書」としただけでは不十分です。タイトルだけでなく、契約内容も、雇用契約・労働契約とみなされない内容にしなければなりません。

この際、参考になるのが、『労働基準法研究会報告』(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)です。

さらに、形式的に契約書を整えるだけでも不十分で、実態としても、雇用契約・労働契約ではなく、適法な業務委託契約である必要があります。

この点につきましては、以下のページもご覧ください。

労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは

ポイント
  • 個人事業者やフリーランスとの業務委託契約は、実は雇用契約・労働契約とみなされるリスクがある。





【パターン6】実は労働者派遣契約である業務委託契約(偽造請負)

【意味・定義】労働者派遣契約は派遣業者による派遣先への労働者派遣の契約

6つめのパターンは、実は業務委託契約ではなく、実態は労働者派遣契約である場合です。労働者派遣契約は、労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)で、以下のように規定されています。

労働者派遣法第26条(契約の内容等)

1 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)(以下省略)

【意味・定義】労働者派遣契約とは?

労働者派遣契約とは、派遣元事業者(派遣業者)が、派遣先事業者に対して、労働者派遣(自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること労働者派遣法第2条第1号))をする契約。

企業間の業務委託契約においては、特に、業務委託契約書が労働者派遣契約とみなされないように、注意する必要があります。

【意味・定義】偽装請負=実態が労働者派遣契約の業務委託契約(請負契約・準委任契約等)

実態が労働者派遣契約である業務委託契約は、いわゆる「偽装請負」とみなされます。

【意味・定義】偽装請負とは?

偽装請負とは、「書類上、形式的には請負(委託)契約ですが、実態としては労働者派遣であるもの」(出典:あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? | 東京労働局)。

「請負」という表現から、委任契約であれば問題ないような誤解がありますが、「労働者派遣以外の名目の契約」(参考:労働者派遣法第40条の6第1項第5号)は、すべて偽装請負とみなされる可能性があります。

この点について、偽装請負ではなく、適法な業務委託契約とするためには、厚生労働省が定める、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(いわゆる「37号告示」)に準拠して、業務委託契約書を作成する必要があります。

詳しくは、以下のページをご覧ください。

37号告示とは?(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )

特に常駐型の業務委託契約は偽装請負とみなされる可能性もある

偽装請負が問題となるのは、主に常駐型の業務委託契約です。例えば、委託者の工場に受託者の社員が常駐する製造業務の業務委託契約が典型的な事例です。

また、特に大規模なシステム開発などで、委託者の事業所に、下請けの受託者の社員が常駐する業務委託契約(いわゆるシステムエンジニアリングサービス契約・SES契約)も問題になりやすい事例です。

こうした業務委託契約では、特に37号告示に準拠した業務委託契約書を用意するとともに、実態としても、労働者派遣に該当しないように、オペレーションをしていかなければなりません。

このほか、業務委託契約と労働者派遣契約の違いにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約と労働者派遣契約の14の違い

ポイント
  • 労働者派遣契約は、派遣業者による、派遣先企業への労働者派遣の契約。
  • 偽装請負=実態が労働者派遣契約の業務委託契約(請負契約・準委任契約等)
  • 常駐型の業務委託契約、特にシステムエンジニアリングサービス契約(SES契約)は、偽装請負とみなされる可能性がある。





【パターン7】売買契約・贈与契約が含まれる業務委託契約

【意味・定義】売買契約は代金で商品などの財産権を買う契約

7つめのパターンは、売買契約(贈与契約)が含まれる業務委託契約です。売買契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第555条(売買)

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】売買契約とは?

売買契約とは、ある契約当事者が、相手方に対し、財産権を移転し、相手方が、その契約当事者に対し、財産権の移転の代金を支払う契約。

売買契約は、多くの場合は、物品(=所有権)の売買の際に結ばれる契約ですが、「財産権」とあるように、必ずしも物品の売買に限った契約ではありません。

例えば、債権や知的財産権のような権利の売買も対象となります。

【意味・定義】贈与契約は相手に財産を与える契約

贈与契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第549条(贈与)

贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】贈与契約とは?

贈与契約とは、ある契約当事者が、相手方に対し、財産を無償で与える契約。

一部の業務委託契約では売買契約が含まれることもある

業務委託契約の業務内容が、実際は売買契約そのものだった、ということは滅多にありません。ただ、例えば、市場に流通している汎用品の製造請負の業務委託契約は、売買契約に該当する場合があります。

製造請負の目的となる製品が汎用品の場合、受託者の倉庫に在庫があることがあります。その在庫だけを納入するのであれば、その契約は、単なる売買契約となります。

他方、その在庫の製品と追加で生産した製品の両方を納入するときは、その業務委託契約は、請負契約と売買契約の混合契約になります。

業務委託契約で有償の原材料の供給がる場合は売買契約や贈与契約となることも

この他、業務内容そのものが売買契約になるわけではりませんが、製造請負や建設工事の業務委託契約の場合、委託者から、受託者に対して、原材料の供給が供給されることもあります。

このような場合、有償で原材料が供給される業務委託契約であれば、有償供給の部分は売買契約といえます。

これに対し、無償で原材料が供給される業務委託契約であれば、無償共有の部分は贈与契約といえます。

なお、受託者が供給された原材料を一定期間、預かる場合は、この預かることそのものは寄託契約といえます。

このような契約は、いわゆる富山の置き薬のような、寄託売買契約といえます(「寄託贈与契約」という呼び方があるかどうかは不明ですが)。

業務委託契約には著作権などの知的財産権の譲渡契約が含まれることもある

また、業務委託契約が履行されたことによって、著作権などの知的財産権が発生する場合があります。

例えば、ソフトウェア(プログラム、システム、アプリ等)開発の業務委託契約や、デザイン(グラフィック、ロゴマーク、ホームページなど)作成の業務委託契約などの場合にあります。

この場合に、受託者が委託者に対し、発生した知的財産権を有償で譲渡する場合は、売買契約となり、無償で譲渡する場合は、贈与契約となります。

また、発生した知的財産権を譲渡せずに、受託者が委託者に使用や利用を許諾する場合は、ライセンス契約となります。

ポイント
  • 業務委託契約と付随した内容として、売買契約や贈与契約が含まれる場合もある。
  • 知的財産権が発生する業務委託契約では、その売買や譲渡が発生する。





【補足】業務委託契約書には必ず契約形態を規定する

契約形態を規定することで契約当事者間で水掛け論になることを防ぐ

管理人が業務委託契約書を作成する場合、必ず以下のような条項を規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約形態に関する条項

第○条(契約形態)

本契約は、民法第632条に規定する請負契約とする。

(※あくまで請負契約とする場合の例です。また、便宜上、表現は簡略化しています)




こうすることで、その業務委託契約が、民法上のどの契約に該当するのかどうかを確定させます。これにより、トラブルになった場合に、契約形態の解釈を巡って水掛け論になるリスクを防げます。

もっとも、このような規定があったからといって、必ずしも有効となるとは限りません(特に偽装請負・雇用契約・労働契約の場合)ので、油断は禁物です。

このほか、契約形態の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約形態とは?その種類・一覧や書き方・規定のしかたについても解説

(準)委任契約の場合は収入印紙をムダに払う必要がなくなる

また、特に(準)委任契約の場合は、契約内容として、わざわざ契約形態を明記することにより、不必要な印紙税を負担するリスクもなくなります。原則として、(準)委任契約書は、不課税文書であるため、(準)委任契約書作成した場合、印紙税を負担する必要はありません。

であるにもかかわらず、(準)委任型の業務委託契約の場合に、その業務委託契約書に(準)委任契約であることが規定されていなければ、税務調査の際、税務署・国税庁の担当官から、請負契約と解釈される可能性があります。

こうなると、不必要な印紙税に加えて、過怠税を負担しなければならなくなります。

なお、(準)委任契約の印紙税については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

(準)委任契約書の印紙(印紙税・収入印紙)の金額はいくら?

業務委託契約の契約形態が決められない場合はどうするのか?

契約形態が決められない業務委託契約は専門家に相談する

「そんなこと言っても、ウチの業務委託契約が何の契約に該当するのかは、ちょっとわからないなぁ…。民法とか知らないし…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

そうであれば、そのまま放置するのではなく、専門家に相談して、最低限、民法上のどの契約に該当するのかくらいは、確定させておくべきです。

「民法上のどの契約に該当するかはわからないけども、とりあえず業務委託契約書は作成しました」というのであれば、その業務委託契約書は期待どおりに機能するものではなく、単に形式的に体裁を整えただけに過ぎません。

そのような業務委託契約書は、どのようにも解釈できますから、トラブルの抑止にもなりませんし、裁判になっても、自社にとって有利な証拠として機能しないどころか、相手方にとって有利に機能する可能性すらあります。

7つのパターン当てはまらない場合はなおのこと業務委託契約書が重要

一般的な企業間取引の業務委託契約は、ほとんどは、すでに述べた7つのパターンのいずれかに該当します。

また、この7つパターンに該当しない場合は、通常の業務委託契約ではない、極めて特殊な契約である可能性があります。そうであるならば、なおのこと、業務委託契約書の記載内容が、非常に重要となります。

というのも、このような特殊な内容の契約は、既存の法律には存在しない概念・内容の契約ですから、契約書で、一からすべてのルールを決めていく必要があるからです。

ポイント
  • 業務委託契約書には必ず契約形態を記載する。
  • 特に(準)委任型の業務委託契約書の場合は、(準)委任契約であることを明記することで、原則として印紙税の負担がなくなる。
  • 業務委託契約の契約形態が決められないのであれば、専門家に相談してでも、最低限、契約形態だけでも決める。
  • 7つの契約形態のパターンのいずれにも該当しない業務委託契約は、非常に特殊な業務委託契約であるため、なおのこと業務委託契約書が重要となる。