このページでは、委任契約型・準委任契約型の業務委託契約の委託者・受託者に向けて、善管注意義務(読み方:ぜんかんちゅういぎむ)について解説しています。

善管注意義務とは、「行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務」です。

善管注意義務は、正確には「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」(民法第644条の場合)のことであり、民法等に規定されている義務です。

業務委託契約では、善管注意義務は、(準)委任契約型の場合に受託者に発生します(民法第644条)。

善管注意義務は、言葉自体は知っていても、「具体的にはどういうことなのかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。

それもそのはずで、民法では、善管注意義務の規定はあっても、その具体的な基準等は特に規定されていません。

このため、(準)委任契約型の業務委託契約書では、単に善管注意義務を規定するのではなく、どのような行為をすること、あるいはどのような行為をしないことが善管注意義務違反や契約違反となるのかを明記する必要があります。

このページでは、こうした善管注意義務の定義、具体例から、業務委託契約における5つのポイント、業務委託契約書に規定するべき善管注意義務に関連した条項まで、簡単に分かりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 善管注意義務の定義
  • 善管注意義務の範囲の考え方
  • 善管注意義務の具体例
  • 善管注意義務の期間
  • 契約書における善管注意義務の書き方




善管注意義務とは?

善管注意義務は(準)委任契約で受任者に課される義務

善管注意義務とは、法律上の正式な表現としては、「善良な管理者の注意義務」といいます。

善管注意義務は、(準)委任契約の場合に、受任者に課される義務のひとつです。民法での根拠条文は、次のとおりです。

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

このほか、善管注意義務は、民法では第298条、第400条、第1032条および第1038条において規定されてます。

民法第298条、第400条、第1032条および第1038条

第298条(留置権者による留置物の保管等)

1 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。

2 (第2項以下省略)

第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

第1032条(配偶者による使用及び収益)

1 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

2 (第2項以下省略)

第1038条(配偶者による使用)

1 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。

2 (第2項以下省略)

なお、委任契約・準委任契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

善管注意義務の意味は非常にわかりにくい

【意味・定義】善管注意義務とは

民法をはじめ、法律の条文では、善管注意義務の明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、次のような意味となります。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

この表現は非常にあいまいですが、これが契約実務における善管注意義務の問題点です。

ひと言で善管注意義務といっても、注意義務の内容や水準は、個々の事案ごとに異なります。

このため、何をしたら(しなかったら)善管注意義務に違反することになるのかは、すべての(準)委任契約に共通する統一的・客観的な基準はありません。

だからこそ、善管注意義務の定義もあいまいにならざるを得まえません。

善管注意義務を簡単にわかりやすく言えば?

このように、善管注意義務は非常にあいまいですが、あえてわかりやすく言えば、次のような意味になります。

善管注意義務をわかりやすく言えば?

善管注意義務は、義務を負う人・会社が、「ちゃんとしなければならない」義務。

この「ちゃんとしている」かどうかは、契約内容や、義務を負う人・会社によって異なります。

このため、どの程度「ちゃんとしているか」、つまり善管注意義務を果たしているか、それとも善管注意義務に違反するかは、個別具体的な状況によります。

善管注意義務の範囲はどこまで?

このような事情があるため、実際に委任型の業務委託契約書を作成する場合、過去の判例を調べて、どのような行為が善管注意義務違反に該当するのかを調べて対応します。

ただ、そのような判例も、案件によっては十分に数があるとは限りません。

ですから、判例・事例が少ない業務委託契約では、善管注意義務の範囲がどこまでなのかは、「裁判をしてみるまでわからない」ということがあります。

善管注意義務の範囲はどこまで?

善管注意義務の範囲がどこまでなのかは、過去の判例を調査するか、または実際に裁判をしてみなければわからない。

このような事情があるため、特に委託者の立場の場合は、委任型の業務委託契約書を作成する際は、「善管注意義務」を規定しただけで満足してはなりません。

これに加えて、業務内容、検査基準・検査方法、禁止行為などを個別具体的かつ客観的に規定することが重要となります(後述)。

業務委託契約書を作成する理由

(準)委任型の業務委託契約では、民法上の善管注意義務があったとしても、具体的・客観的な善管注意義務違反の判断基準がないことから、特約として善管注意義務違反や契約違反の判断基準を規定した契約書が必要となるから。

善管注意義務は受任者による行為の実施そのものの義務

すでに触れたとおり、民法上、(準)委任契約では、受任者は、善良な管理者の注意をもって委任者からの委任を受けた行為を処理する義務を負います。

つまり、(準)委任契約では、受任者は、委任を受けた行為の処理そのものについて責任を負います。

逆にいえば、善管注意義務を果たしさえすれば、受任者は、それ以上の責任を負うことはありません。

仮に、受任者の行為によって、結果として委任者にとっての損害や不利益が生じた場合であっても、善管注意義務を果たしていれば、受任者には責任が生じません。

すべての業務委託契約で善管注意義務があるわけではない

請負契約は善管注意義務ではなく契約不適合責任

なお、善管注意義務は、すべての業務委託契約において受託者に発生するわけではありません。

たとえば、請負型の業務委託契約では、善管注意義務ではなく、契約不適合責任が発生します。

【意味・定義】請負契約における契約不適合とは?

請負契約における契約不適合とは、請負契約において請負人がおこなった仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと。いわゆる「瑕疵」(欠陥・ミス等)を含む。

契約不適合責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】業務委託契約における契約不適合責任とは?「知った時から1年」の修正方法は?

運送請負契約には善管注意義務はない

なお、誤解されがちですが、運送請負契約は、文字どおり請負契約ですから、運送業者・運送人には、善管注意義務ではなく、契約不適合責任が課されます。

つまり、運送業者・運送人は、「荷物を届ける」という「仕事を完成する」責任はあります。

他方、運送の過程では、壊れたり、変質したりしない限り、どんな運び方をしても、責任を負うことはありません。

このため、運送請負契約においては、運送業者・運送人の善管注意義務が問題となることはありません。

業務委託契約では(準)委任契約型と寄託契約型で善管注意義務が発生する

善管注意義務が発生する業務委託契約は、(準)委任型のものと、寄託型のものです。

寄託型のものとしては、商事寄託において、受寄者に善管注意義務が課されています(商法第595条)。

第○条(受寄者の注意義務

商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければならない。

もちろん、契約形態によっては、他の業務委託契約でも善管注意義務が発生する可能性はあります。

また、(準)委任型・寄託型以外の業務委託契約であっても、特約で善管注意義務を設定することができます。

ただし、この善管注意義務の特約が法的に有効かどうかは別問題です。

ポイント
  • 善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務。
  • 善管注意義務は、受任者(受託者)の側の業務実施・業務処理の義務。
  • 善管注意義務は、非常に曖昧な定義であるため、最終的には裁判をしてみないと善管注意義務違反があったかどうかはわからない。
  • 善管注意義務は、(準)委任契約や寄託契約(商事寄託)における受任者・受寄者の義務。
  • 請負契約には善管注意義務はない。




善管注意義務の具体例(医療・弁護士・IT関係・コンサル契約等)

4種類の善管注意義務の具体例

一般的な(準)委任契約の事例としては、次のようなものがあります。

善管注意義務が課される契約の具体例
  • 医師による医療行為に関する契約
  • 弁護士による訴訟代理契約
  • IT関係(アジャイル型開発契約・SES契約)
  • コンサル契約(経営コンサルタント契約・経営コンサルティング契約)

医師による医療行為に関する契約

医師による医療行為に関する契約は、準委任契約です。

医師による医療行為により、診察・診療がおこなわれた場合、結果として患者が死亡することがあります。

この場合であっても、善管注意義務さえ果たしていれば、医師は、責任を負うことはありませんし医療報酬を受取ることもできます。

他方で、善管注意義務を果たしていなければ、いわゆる「医療過誤」となります。

この場合、医師は、善管注意義務違反つまり債務不履行(いわゆる契約違反)となり、損害賠償責任等を負うこととなります。

弁護士による訴訟代理契約

弁護士の善管注意義務とは

弁護士による訴訟代理は、委任契約です。弁護士による訴訟代理により、結果として裁判に敗訴することがあります。

この場合であっても、善管注意義務さえ果たしていれば、弁護士は、責任を負うことはありませんし、弁護士報酬を受取ることもできます(成果報酬の場合は別です)。

他方で、善管注意義務を果たしていなければ、弁護士は、善管注意義務違反つまり債務不履行(いわゆる契約違反)となり、損害賠償責任等を負うこととなります。

弁護士以外の士業の善管注意義務

弁護士以外のいわゆる「士業」の場合であっても、同様に善管注意義務が課されます(一部の業務を除きます)。

善管注意義務が課される士業の具体例
  • 公認会計士
  • 弁理士
  • 税理士
  • 社会保険労務士
  • 行政書士

なお、これらを含む士業は専門性が高いため、一般的な事業者の善管注意義務と比べて、より高度な善管注意義務が課される傾向があります。

IT関係(アジャイル型開発契約・SES契約)

(準)委任型のソフトウェア・システム・アプリなど、IT関連の開発業務委託契約、特にアジャイル型開発の業務委託契約では、善管注意義務が課されます。

また、いわゆる常駐型でコーディングやプログラミングの行為そのものを提供するシステムエンジニアリングサービス契約(SES契約)でも、善管注意義務が課されます。

なお、これらの契約は、請負契約ではないため、原則として、システム等の完成については責任を負いません。

単に、システム等を開発する行為そのものを提供するだけに過ぎません。

ただし、アジャイル型開発の業務委託契約は、SES契約とは異なり完成を目指すものですから、より重い善管注意義務が発生する可能性があります。

コンサル契約(経営コンサルタント契約・経営コンサルティング契約)

経営コンサルタント契約・経営コンサルティング契約なども、一部の例外(成果物の作成があるもの)を除くと、多くが(準)委任契約となります。

このため、経営コンサルタントには、一定の善管注意義務が課されます。

経営コンサルタントの業務は多岐にわたりますが、基本的には、経営者や依頼者に対し、知識、情報、ノウハウ等を提供することとなります。

この提供される知識、情報、ノウハウが間違っている場合は、善管注意義務違反に該当する可能性があります。

ポイント
  • 医師は、医療行為の実施そのものに善管注意義務を負うため、結果的に患者が死亡しても、その患者の死亡について責任を負わない。
  • 弁護士は、訴訟行為の実施そのものに善管注意義務を負うため、結果的に敗訴しても、その敗訴について責任を負わない。
  • 準委任型のシステムエンジニアリングサービス契約(SES契約)のベンダやアジャイル型開発のシステム等の開発契約は、システム等の開発行為の実施そのものに善管注意義務を負うため、結果的にシステム等の開発が失敗し、完成しなくても、その失敗について責任を負わない。
  • 経営コンサルタントは、経営者や依頼者に対する知識、情報、ノウハウ等の提供そのものに善管注意義務を負うため、その成果について責任を負わない。




【ポイント1】善管注意義務違反=契約違反

善管注意義務を怠ると損害賠償や契約解除の原因となる

(準)委任契約では、受任者が善管注意義務を果たしているかどうかが、契約を履行しているかどうかの判断基準となります。

つまり、善管注意義務の違反は、債務不履行=契約違反となります。

より正確には、債務不履行のうちの「不完全履行」(改正民法第415条)となります。

このため、善管注意義務違反があった場合、委任者は、受任者に対し、損害賠償の請求(改正民法第415条)ができますし、契約の解除(改正民法第541条)もできます。

「ちゃんとやっている」かどうかの判断が難しい

このように、理屈のうえでは、善管注意義務違反があった場合は、委任者は、損害賠償の請求や契約の解除ができます。

ただ、すでに述べたように、「善管注意義務」の定義自体があいまいで、実際に善管注意義務を果たしているのか、あるいは違反しているのかは、客観的に判断するのは難しいです。

業務委託契約の例でわかりやすく言えば、業務内容を「ちゃんとやっているのか」「ちゃんとやっていないのか」は、簡単には判断がつかない、ということです。

だからこそ、業務内容、検査基準・検査方法、禁止行為などを個別具体的かつ客観的に規定することが重要となります(後述)。

このような工夫をすることで、少しでも、業務委託契約における「善管注意義務」とは何なのかを明らかにするべきです。

ポイント
  • 善管注意義務違反は契約違反=債務不履行。よって、損害賠償請求や契約解除の原因となる。
  • 受任者(受託者)が「ちゃんとやっている」のかどうかの判定は難しい。




【ポイント2】(準)委任契約の目的に適した行為をする義務

【意味・定義】「委任の本旨に従い」とは?

(準)委任契約では、受任者は、「委任の本旨に従い、」委任事務を処理しなければなりません。

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

この「委任の本旨に従い」とは、次のような意味です。

【意味・定義】「委任の本旨に従い」とは?
    民法第644条における「委任の本旨に従い」とは、(準)委任契約の目的に適した事務処理をすることをいう。

言われたとおりにやるだけでは善管注意義務違反となることも

(準)委任契約は、委任者と受任者との信頼が基本となる契約です。

このため、受任者は、委任者の信頼に応えるため、「委任の本旨に」反しない程度に、自由裁量をもって事務処理ができます。

逆に言えば、例えば、委任者からの指図があった場合、その指図が間違っていなければ、その通りに処理するべきです。

ただ、委任者からの指図が間違っていた場合は、その間違いを指摘したり、指図の変更を求めたりしなければ、善管注意義務違反となる可能性もあります。

(準)委任型の業務委託契約では業務内容にない行為もできる

また、委任者からの指図が間違っている場合は、その指図に従わずに、臨機応変に対応することもできます。

特に、企業間取引である(準)委任型の業務委託契約では、商法第505条にもとづき、業務内容に規定されていないこともできます。

商法第595条(商行為の委任)

商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる。

もちろん、この規定にあるとおり、「委任の本旨に反しない範囲内」に限定されています。

ポイント
  • (準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)は、契約の目的に適した業務実施・業務処理をしなければならない。
  • (準)委任型の業務委託契約では、委託者(委任者)から間違った指示があった場合、受託者(受任者)がそのまま指示に従うと、善管注意義務違反となることもある。
  • (準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)は、業務委託契約の目的に適した範囲内で、業務内容にない行為もできる。




【ポイント3】専門家には極めて高度な善管注意義務が課される

専門家と依頼者との契約は(準)委任契約が多い

高度な知識・技能等を有する専門家と依頼者との契約は、(準)委任契約であることが多いです。

例えば、弁護士、公認会計士、弁理士、税理士、不動産鑑定士、司法書士、社会保険労務士、行政書士など、いわゆる「士業」と依頼者との契約は、(準)委任契約となります。

また、医師、宅地建物取引業者などの国家資格保有者と依頼者との契約も、(準)委任契約とされます。

もちろん、すべての専門家との契約が(準)委任契約というわけではなく、中には、請負契約であったり、(準)委任契約と請負契約との複合的な契約(いわゆる「混合契約」)であることもあります。

(準)委任契約は高度な善管注意義務が課される

このような専門家と依頼者との(準)委任契約でも、専門家の側には、善管注意義務が課されます。

この場合、専門家には、一般的な善管注意義務と比べて、極めて高度な善管注意義務が課されます。

特に、医師について、判例では、「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される」最高裁判例昭和36年2月16日)とされています。

また、税理士の業務の場合では、無償での修正申告手続きについて、善管注意義務違反が認められた事例もあります(東京高裁判決平成7年6月19日)。

つまり、報酬の有無にかかわらず、善管注意義務が課される可能性があるというこです。

無償だからといって受任者の責任は軽くならない

(準)委任契約は原則として無償

(準)委任契約は、原則として無償とされています。

民法第648条(受任者の報酬)

1 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

(以下省略)

つまり、そもそも無償である(準)委任契約の義務として、善管注意義務が課されているのです。

このため、「無償だから」という理由で責任が軽くなることはありません。

専門家の側は特に無料相談の回答には注意が必要

この点につき、特に法律関係の専門家の中には、集客の手法として、無料相談等を受け付ける場合があります。

このような無料相談にも、当然、善管注意義務が課されます。

このため、受任者である専門家は、「無料」だからといって手を抜いてしまうと善管注意義務となります。

例えば、無料相談の際に、よく調べないで間違った回答をした結果、その回答によって相談者に損害が発生した場合は、損害賠償の請求を受ける可能性があります。

ポイント
  • 専門家と依頼者との契約は(準)委任契約が多い。
  • 専門家と依頼者との(準)委任契約では、専門家には極めて高度な善管注意義務が課される。
  • 原則として無償の(準)委任契約では、無償であっても善管注意義務が課される。
  • 特に無料相談などの無償のサービスでは、専門家の側は、無償だからといって手を抜いてはいけない。




【ポイント4】業務委託契約書での業務内容や検査基準・検査方法の明記が重要

「業務内容どおりの仕事」かどうかが善管注意義務の判断基準

すでに述べたとおり、善管注意義務は定義があいまいです。

この点から、受任者が善管注意義務を果たしているか、わかりやすく言えば「ちゃんとやっている」どうかがわかりづらい、という問題があります。

このため、業務委託契約の実務では、業務委託契約書を作成する際に、業務内容を明記しておくことが重要となります。

業務委託契約書を作成する理由

民法には善管注意義務の基準等が規定されていないため、善管注意義務違反や契約違反が明確になるように、業務内容等を詳細に明記した業務委託契約書が必要となるから。

業務内容を明記しておくと、その業務内容どおりに受託者(受任者)が業務実施・業務処理をしているかどうか、また、善管注意義務を果たしているかどうかの、ひとつの判断基準となります。

これは、委託者(委任者)と受託者(受任者)の双方にとって重要です。

というのも、業務内容を明記していないと、善管注意義務を果たしてるかどうか、わかりやすく言えば「ちゃんとやっているどうか」を巡って、「やった、やっていない」とトラブルになるからです。

なお、業務委託契約における業務内容につきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書における業務内容の決め方・書き方と全行程を解説

客観的な検査基準・検査方法があればトラブルになりにくい

業務内容の明記に加えて、客観的な検査基準や検査方法を業務委託契約の内容として明記していれば、さらにトラブルになりにくくなります。

一般的な(準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)による業務実施・業務処理があった後で、委託者(委託者)による検査があります(ただし、検査がない場合もあります)。

この検査の際に、各種検査項目について、あらかじめ決められた検査方法による検査の結果、客観的な検査基準に適合している場合は合格とし、不合格の場合は善管注意義務違反または契約違反として取扱うようにします。

こうすることにより、より善管注意義務違反に該当するかどうかが明らかになります。

業務委託契約書を作成する理由

民法には善管注意義務の基準等が規定されていないため、善管注意義務違反や契約違反が明確になるように、検査項目、検査方法、検査基準等を詳細に明記した業務委託契約書が必要となるから。

逆に、検査基準や検査方法などが決まっていないと、結局は委託者(委任者)の恣意的な判断によって善管注意義務違反かどうかが決められてしまい、トラブルの原因となります。

なお、業務委託契約における検査につきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における検査期間・検査期限と検査手続きとは?書き方・規定のしかたは?

ポイント
  • 善管注意義務違反かどうかは、業務内容どおりに業務実施・業務処理をしているかどうかで判断する。
  • 客観的な検査基準・検査方法が業務委託契約書に規定されていると、善管注意義務違反かどうかの判断がしやすい。




【ポイント5】善管注意義務の期間は業務提供の期間と同じ

善管注意義務の期間=業務提供期間

なお、善管注意義務は、契約期間中に、その義務がある者が負う責任です。

業務委託契約の場合は、業務の提供中に善管注意義務が課されます。

このため、契約不適合責任とは違って、契約が終了した後も、継続して善管注意義務を負うことはありません。

つまり、善管注意義務を負う期間は、業務を提供する期間と同じということです。

ポイント

善管注意義務は、契約期間内の業務を提供する期間に負う義務。よって、善管注意義務の期間は、業務提供期間と同じ。

善管注意義務による損害賠償請求権は10年

ただし、すでに触れたとおり、善管注意義務違反は、債務不履行=契約違反となります。

このため、債務不履行にもとづく責任は、消滅時効にかかるまで、存在しつづけます。

債務不履行にもとづく責任(=損害賠償請求権に応じる責任)は、原則として、損害賠償請求権の消滅時効である10年をもって消滅します。

民法第166条(債権等の消滅時効)

1 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

(1)債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。

(2)前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。

(第2項以下省略)




善管注意義務の契約書への書き方・文言の具体例

善管注意義務は、(準)委任契約の場合は、民法上、当然に受任者に課されますので、あえて規定する必要はありません。

ただ、他の契約で規定する場合や、(準)委任契約であっても、念のためあえて規定する場合は、契約書には、次のように善管注意義務を規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】善管注意義務に関する条項

第○条(善管注意義務)

乙は、善良な管理者の注意をもって、本件業務を実施する義務を負う。

(※乙が義務を負う場合。便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】善管注意義務に関する条項

第○条(善管注意義務)

乙は、善良な管理者の注意をもって、本件業務を実施しなければならない。

(※乙が義務を負う場合。便宜上、表現は簡略化しています)

いずれも業務委託契約の場合の書き方ですが、このように、シンプルに記載します。

もっとも、これだけでは、実際に善管注意義務違反があったかどうかは、明らかにはなりません。

このため、すでに触れたとおり、業務内容・検査基準・検査方法など、他の条項がしっかりと規定されているかどうかが重要となります。

ポイント

単に善管注意義務を規定するのではなく、何をもって善管注意義務違反となるのかを意識して契約書を作成する。




(準)委任型業務委託契約の善管注意義務に関するよくある質問

善管注意義務とは何ですか?
善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務のことです。
善管注意義務の具体例は?
善管注意義務の具体例としては、医師による医療行為におけるもの、弁護士による訴訟代理におけるもの、システム・アプリ等の開発会社による準委任型の開発(アジャイル開発、SES契約等)におけるもの、経営コンサルタントによるコンサルティングにおけるもの、等があります。
善管注意義務の範囲はどこまで?
善管注意義務は、その対象となる契約内容により様々ですので、一概に範囲を示すことはできません。
善管注意義務違反の責任は?
善管注意義務違反は、債務不履行(不完全履行)=契約違反となります。よって、損害賠償請求等の対象となります。
(準)委任型の業務委託契約では、善管注意義務はいつまで課される?
(準)委任型の業務委託契約では、善管注意義務は、業務の提供期間に限って課されます。なお、実際に善管注意義務違反があった場合は、債務不履行となり、その消滅時効は10年とされています。
善管注意義務の判断基準は?
民法上の善管注意義務には、特に客観的な判断基準が規定されていません。このため、契約書を作成し、善管注意義務の判断基準を明確化することが重要となります。




(準)委任契約の関連ページ