こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約おける善管注意義務(読み方:ぜんかんちゅういぎむ)について解説しています。

善管注意義務とは、「行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務」です。

善管注意義務は、(準)委任型の業務委託契約の場合に、受託者に発生する責任です(民法第644条)。

(準)委任契約では、受任者が、なんらかの行為の委託を受けて、その行為そのものを実施する契約です。

この行為をする際に要求される、一定程度の注意を払う義務が、善管注意義務です。

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【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務は(準)委任契約で受任者に課される義務

善管注意義務とは、正式名称は「善良な管理者の注意義務」といいます。

善管注意義務は、(準)委任契約の場合に、受任者に課される義務のひとつです。

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

このほか、善管注意義務は、民法では第298条第400条で規定されてます。

なお、委任契約・準委任契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

委任契約・準委任契約とは?―(準)委任型の業務委託契約のポイント・当事者の権利義務を解説

善管注意義務=(準)委任契約の履行についての責任

善管注意義務の定義は非常にあいまい

民法をはじめ、法律の条文では、善管注意義務の明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、次のような意味となります。

善管注意義務の定義

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

この表現では、よくわからないと思いますが、これが善管注意義務の厄介な点です。

ひと言で善管注意義務といっても、注意義務の内容や水準は、個々の事案ごとにことなります。

ですから、何をしたら善管注意義務に違反するのかは、客観的な基準がありません。

だからこそ、善管注意義務の定義もあいまいにならざるを得まえません。

最終的には判例を調べるか裁判しないとわからない

このような事情があるため、実際に委任型の業務委託契約書を作成する場合は、過去の判例を調べて、どのような行為が善管注意義務違反に該当するのかを調べて対応します。

ただ、そのような判例も、案件によっては数が多いとは限りません。

ですから、どのような行為をしたら善管注意義務違反となるのかは、「裁判してみるまでわからない」ということがあります。

このような事情があるため、特に委託者の立場の場合は、委任型の業務委託契約書を作成する際は、「善管注意義務」を規定しただけで満足してはなりません。

これに加えて、業務内容、検査基準・検査方法、禁止行為などを個別具体的かつ客観的に規定することが重要となります(後述)。

(準)委任契約では受任者の行為についての責任

(準)委任契約では、受任者は、善良な管理者の注意をもって、委任者からの委任を受けた行為を処理する義務を負います。

つまり、(準)委任契約では、受任者は、委任を受けた行為の処理そのものについて責任を負います。

逆にいえば、善管注意義務を果たしさえすれば、受任者は、それ以上の責任を負うことはありません。

仮に、受任者の行為によって、結果として委任者にとっての損害や不利益が生じた場合であっても、善管注意義務を果たしていれば、受任者には責任が生じません。

善管注意義務の具体例(医療・弁護士・IT)

善管注意義務の具体例としては、医師による医療行為の準委任契約があります。

医師による医療行為により、結果として患者が死亡した場合であっても、善管注意義務さえ果たしていれば、医師は、責任を負うことはありませんし、医療報酬を受取ることもできます。

また、弁護士による訴訟代理の委任契約でも同様で、訴訟代理により、結果として裁判に敗訴した場合であっても、善管注意義務さえ果たしていれば、弁護士は、責任を追うことはありませんし、弁護士報酬を受取ることもできます(成果報酬の場合は別です)。

この他、(準)委任型のソフトウェア・システム・アプリなど、IT関連の開発業務委託契約・システムエンジニアリング契約(SES契約)でも、善管注意義務が課されます。

すべての業務委託契約で善管注意義務があるわけではない

請負契約は善管注意義務ではなく瑕疵担保責任

ちなみに、善管注意義務は、すべての業務委託契約において受託者に発生するわけではありません。

たとえば、請負型の業務委託契約では、善管注意義務ではなく、瑕疵担保責任が発生します。

瑕疵担保責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における瑕疵担保責任とは?その意味・内容・期間は?

運送請負契約には善管注意義務はない

なお、誤解されがちですが、運送請負契約は、文字どおり請負契約ですから、運送業者・運送人には、善管注意義務ではなく、瑕疵担保責任が課されます。

つまり、運送業者・運送人は、「荷物を届ける」という「仕事を完成する」責任(=瑕疵担保責任)はあります。

他方、運送の過程では、壊れたり、変質したりしない限り、どんな運び方をしても、責任を負うことはありません。

このため、運送請負契約においては、運送業者・運送人の善管注意義務が問題となることはありません。

業務委託契約では(準)委任型と寄託型で善管注意義務が発生する

善管注意義務が発生する業務委託契約は、(準)委任型のものと、寄託型のものです。

もちろん、契約形態によっては、他の業務委託契約でも善管注意義務が発生する可能性はあります。

また、(準)委任型・寄託型以外の業務委託契約であっても、特約で善管注意義務を設定することができます。

ただし、この善管注意義務の特約が法的に有効かどうかは別問題です。

ポイント

  • 善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務。
  • 善管注意義務は、受任者(受託者)の側の業務実施・業務処理の義務。
  • 善管注意義務は、非常に曖昧な定義であるため、最終的には裁判をしてみないと善管注意義務違反があったかどうかはわからない。
  • 善管注意義務は、(準)委任契約や寄託契約(商事寄託)における受任者・受寄者の義務。
  • 請負契約には善管注意義務はない。

【ポイント1】善管注意義務違反=契約違反

善管注意義務違反は損害賠償請求や契約解除の原因となる

(準)委任契約では、受任者が善管注意義務を果たしているかどうかが、契約を履行しているかどうかの判断基準となります。

つまり、善管注意義務に違反しているということは、契約違反となります。

より正確には、債務不履行のうちの「不完全履行」(民法第415条)となります。

このため、善管注意義務違反があった場合、委任者は、受任者に対し、損害賠償の請求(民法第415条)ができますし、契約の解除(民法第541条第543条)もできます。

「ちゃんとやっている」かどうかの判断が難しい

このように、理屈のうえでは、善管注意義務違反があった場合は、委任者は、損害賠償の請求や契約の解除ができます。

ただ、すでに述べたように、「善管注意義務」の定義自体があいまいで、実際に善管注意義務を果たしているのか、あるいは違反しているのかは、客観的に判断するのは難しいです。

業務委託契約の例でわかりやすく言えば、業務内容を「ちゃんとやっているのか」「ちゃんとやっていないのか」は、簡単には判断がつかない、ということです。

だからこそ、業務内容、検査基準・検査方法、禁止行為などを個別具体的かつ客観的に規定することが重要となります(後述)。

このような工夫をすることで、少しでも、業務委託契約における「善管注意義務」とは何なのかを明らかにするべきです。

ポイント

  • 善管注意義務違反は契約違反=債務不履行。よって、損害賠償請求や契約解除の原因となる。
  • 受任者(受託者)が「ちゃんとやっている」のかどうかの判定は難しい。

【ポイント2】(準)委任契約の目的に適した行為をする義務

【意味・定義】「委任の本旨に従い」とは?

(準)委任契約では、「委任の本旨に従い、」委任事務を処理しなければなりません。

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

この「委任の本旨に従い」とは、次のような意味です。

「委任の本旨に従い」の定義

「委任の本旨に従い」とは、(準)委任契約の目的に適した事務処理をすることをいう。

言われたとおりにやるだけでは善管注意義務違反となることも

(準)委任契約は、委任者と受任者との信頼が基本となる契約です。

このため、受任者は、委任者の信頼に応えるため、「委任の本旨に」反しない程度に、自由裁量をもって事務処理ができます。

逆に言えば、例えば、委任者からの指図があった場合、その指図が間違っていなければ、その通りに処理するべきです。

ただ、委任者からの指図が間違っていた場合は、その間違いを指摘したり、指図の変更を求めたりしなければ、善管注意義務違反となる可能性もあります。

(準)委任型の業務委託契約では業務内容にない行為もできる

また、委任者からの指図が間違っている場合は、その指図に従わずに、臨機応変に対応することもできます。

特に、企業間取引である(準)委任型の業務委託契約では、商法第505条にもとづき、業務内容に規定されていないこともできます。

商法第505条(商行為の委任)

商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる。

もちろん、この規定にあるとおり、「委任の本旨に反しない範囲内」に限定されています。

ポイント

  • (準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)は、契約の目的に適した業務実施・業務処理をしなければならない。
  • (準)委任型の業務委託契約では、委託者(委任者)から間違った指示があった場合、受託者(受任者)がそのまま指示に従うと、善管注意義務違反となることもある。
  • (準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)は、業務委託契約の目的に適した範囲内で、業務内容にない行為もできる。

【ポイント3】専門家には極めて高度な善管注意義務が課される

専門家と依頼者との契約は(準)委任契約が多い

高度な知識・技能等を有する専門家と依頼者との契約は、(準)委任契約であることが多いです。

例えば、弁護士、公認会計士、弁理士、税理士、不動産鑑定士、司法書士、社会保険労務士、行政書士など、いわゆる「士業」と依頼者との契約が該当します。

また、医師、宅地建物取引業者などの国家資格保有者と依頼者との契約も、(準)委任契約とされます。

もちろん、すべての専門家との契約が(準)委任契約というわけではなく、中には、請負契約であったり、(準)委任契約と請負契約との複合的な契約(いわゆる「混合契約」)であることもあります。

(準)委任契約は高度な善管注意義務が課される

このような専門家と依頼者との(準)委任契約でも、専門家の側には、善管注意義務が課されます。

この場合、専門家には、一般的な善管注意義務と比べて、極めて高度な善管注意義務が課されます。

特に、医師について、判例では、「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される」(最高裁判例昭和36年2月16日)とされています。

また、税理士の業務の場合では、無償での修正申告手続きについて、善管注意義務違反が認められた事例もあります(東京高裁判決平成7年6月19日)。

つまり、報酬の有無にかかわらず、善管注意義務が課される可能性があるというこです。

無償だからといって受任者の責任は軽くならない

(準)委任契約は原則として無償

(準)委任契約は、原則として無償とされています。

民法第648条(受任者の報酬)

1 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

(以下省略)

つまり、そもそも無償である(準)委任契約の義務として、善管注意義務が課されているのです。

このため、「無償だから」という理由で責任が軽くなることはありません。

専門家の側は特に無料相談の回答には注意が必要

この点につき、特に法律関係の専門家の中には、集客の手法として、無料相談等を受け付ける場合があります。

このような無料相談にも、当然、善管注意義務が課されます。

このため、受任者である専門家は、「無料」だからといって手を抜いてしまうと善管注意義務となります。

例えば、無料相談の際に、よく調べないで間違った回答をした結果、その回答によって相談者に損害が発生した場合は、損害賠償の請求を受ける可能性があります。

ポイント

  • 専門家と依頼者との契約は(準)委任契約が多い。
  • 専門家と依頼者との(準)委任契約では、専門家には極めて高度な善管注意義務が課される。
  • 原則として無償の(準)委任契約では、無償であっても善管注意義務が課される。
  • 特に無料相談などの無償のサービスでは、専門家の側は、無償だからといって手を抜いてはいけない。

【ポイント4】業務委託契約書での業務内容や検査基準・検査方法の明記が重要

「業務内容どおりの仕事」かどうかが善管注意義務の判断基準

すでに述べたとおり、善管注意義務は定義があいまいなため、受任者が善管注意義務を果たしているか、わかりやすく言えば「ちゃんとやっている」どうかがわかりづらい、という問題があります。

このため、業務委託契約の実務では、業務委託契約書を作成する際に、業務内容を明記しておくことが重要となります。

業務内容を明記しておくと、その業務内容どおりに受託者(受任者)が業務実施・業務処理をしているかどうかた、善管注意義務を果たしているかどうかの、ひとつの判断基準となります。

これは、委託者(委任者)と受託者(受任者)の双方にとって重要で、業務内容を明記していないと、善管注意義務を果たしてるかどうか、わかりやすく言えば「ちゃんとやっているどうか」を巡って、トラブルになります。

なお、業務委託契約における業務内容につきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書で最も重要な業務内容の5つのポイントとは?

客観的な検査基準・検査方法があればトラブルになりにくい

業務内容の明記に加えて、客観的な検査基準や検査方法を業務委託契約の内容として明記していれば、さらにトラブルになりにくくなります。

一般的な(準)委任型の業務委託契約では、受託者(受任者)による業務実施・業務処理があった後で、委託者(委託者)による検査があります(ただし、検査がない場合もあります)。

この検査の際に、各種検査項目について、あらかじめ決められた検査方法による検査の結果、客観的な検査基準に適合している場合は、合格とし、不合格の場合は、「善管注意義務違反」として取扱うようにします。

こうすることにより、より善管注意義務違反に該当するかどうかが明らかになります。

逆に、検査基準や検査方法などが決まっていないと、結局は委託者(委任者)の恣意的な判断によって善管注意義務違反かどうかが決められてしまい、トラブルの原因となります。

なお、業務委託契約における検査につきましては、以下のページをご覧ください。

業務委託契約の検査期間・検査期限と検査手続きとは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?

ポイント

  • 善管注意義務違反かどうかは、業務内容どおりに業務実施・業務処理をしているかどうかで判断する。
  • 客観的な検査基準・検査方法が業務委託契約書に規定されていると、善管注意義務違反かどうかの判断がしやすい。