警備業法では、警備業者には、いわゆる契約締結前交付書面と契約締結時交付書面の交付義務があります。
これらの交付書面の性質について、警備業者の方から「分かりづらい」というご指摘をいただきます。
確かに、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面は、あたかも契約書のようで、それだけあれば問題ないようにも思えます。
しかしながら、あくまでこれらの書面は警備業務の内容を明らかにすることで依頼者を保護するためのものであって、警備業者にとっては、警備業務委託契約・警備契約の証拠にはなりません。
このため、警備業務委託契約・警備契約を締結する際には、しっかりと契約書を作成するべきなのです。
このページでは、警備業法における契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の詳細や警備業務委託契約書・警備契約書を作成するべき理由について、開業20年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページをご覧になることで、以下の点について理解できます。
このページでわかること
- 警備業務委託契約・警備契約の定義
- 警備業法における契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の法的な性質
- 警備業務委託契約・警備契約が請負契約と準委任契約のどちらが適切か
- 警備業務委託契約書・警備契約書を作成するべき12の理由
- 警備業務委託契約書・警備契約書や契約締結前交付書面・契約締結時交付書面に発生する印紙税
警備業務委託契約・警備契約とは?
警備業者がおこなう警備業務に関する契約
警備業務委託契約や警備契約は、民法や警備業法では特に定義が規定されていません。
ただ、警備業法には、以下の規定があります。
警備業法第19条(書面の交付)
1 警備業者は、警備業務の依頼者と警備業務を行う契約を締結しようとするときは、当該契約を締結するまでに、内閣府令で定めるところにより、当該契約の概要について記載した書面をその者に交付しなければならない。
2 (以下省略)
引用元:警備業法 | e-Gov法令検索
この規定から、警備業務委託契約・警備契約の定義は、以下のとおりです。
【意味・定義】警備業務委託契約・警備契約とは?
警備業務委託契約・警備契約とは、警備業者が依頼者と締結する警備業務をおこなう契約をいう。
なお、警備業務委託契約・警備契約という表現以外でも、「警備保障契約」や、「ホームセキュリティ契約」(主に消費者との機械警備に関する契約)と表現される場合もあります。
5種類の警備業務とは?
なお、ここでいう警備業務は、警備業法において以下のとおり定義づけられています。
警備業法第2条(定義)
1 この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
(1)事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(2)人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(3)運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(4)人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
(第2項から第4項まで省略)
5 この法律において「機械警備業務」とは、警備業務用機械装置(警備業務対象施設に設置する機器により感知した盗難等の事故の発生に関する情報を当該警備業務対象施設以外の施設に設置する機器に送信し、及び受信するための装置で内閣府令で定めるものをいう。)を使用して行う第一項第一号の警備業務をいう。
6 (以下省略)
引用元:警備業法 | e-Gov法令検索
この警備業法第2条第1項各号列記の業務を、それぞれ1号警備、2号警備、3号警備、4号警備といいます。
【意味・定義】警備業務とは?
警備業務とは、以下の5つの業務をいう。
- 1号警備(施設警備業務等)
- 2号警備(交通誘導警備警備・雑踏警備業務)
- 3号警備(貴重品運搬警備業務等)
- 4号警備(身辺保護警備業務)
- 機械警備
契約締結前交付書面・契約締結時交付書面とは?
警備業法による交付が義務づけられた書面
警備業法では、特に契約書の作成や取交しは義務づけられていません。
他方で、警備業法第19条において、警備業者には、書面の交付義務が課されています。
この警備業法第19条第1項の「契約を締結しようとするとき」に交付される書面を、一般に「契約締結前交付書面」といいます。
また、警備業法第19条第2項の「契約を締結したとき」に交付される書面を、一般に「契約締結時交付書面」といいます。
単に警備業者が「交付する」書面に過ぎない
あくまで警備業務の依頼者を保護するための書面
この契約締結前交付書面と契約締結時交付書面ですが、両方とも、それ単体では、単に警備業者から依頼者に対して交付する書面に過ぎません。
契約締結前交付書面と契約締結時交付書面は、あくまで、契約内容を明らかにすることで依頼者を保護するためのものです。
このため、警備業法に規定されている法定記載事項だけを記載して依頼者に送付しても、警備業務委託契約・警備契約の成立の証拠にはなりません。
それどころか、原本を依頼者に交付した場合、警備業者としては、依頼者から受領書等を受け取っておかないと、これらの交付書面を交付した証拠すら残りません。
なるべく契約書を作成する
このため、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面を交付する際は、交付をした旨(これに加えて説明を受けた旨)を証する受領書や確認書も徴収するべきです。
こうすることで、少なくとも、警備業法を遵守している証拠になります。
また、できるだけ警備業務委託契約書・警備契約書を作成し、これらの交付書面を綴じ込むなどの工夫をします。
こうすることで、これらの交付書面を交付した証拠として手元に残り、契約の内容や成立の証拠を確保するようにするべきです。
ポイント
- 警備業法により、警備業者は、警備業務の依頼者に対し、契約締結前交付書面・契約締結時交付書面を交付する義務がある。
- 契約締結前交付書面・契約締結時交付書面はあくまで依頼者を保護するための書面であり、契約内容や契約成立の証拠にはならない。
- 最低限、契約締結前交付書面・契約締結時交付書面を交付した旨の受領書や確認書を徴収する。
- 警備業者としては、なるべく警備業務委託契約書・警備契約書を作成し、契約の内容や成立についての証拠を確保しておく。
契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の法定記載事項
1号警備の契約締結前交付書面
- 警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務対象施設の名称及び所在地
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務対象施設の鍵の管理に関する事項
- 警備業務対象施設における盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
1号警備の契約締結時交付書面
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務対象施設の名称及び所在地
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務対象施設の鍵の管理に関する事項
- 警備業務対象施設における盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
- 契約の締結年月日
2号警備の契約締結前交付書面
- 警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務を行うこととする場所
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務を行うこととする場所における負傷等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
2号警備の契約締結時交付書面
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務を行うこととする場所
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務を行うこととする場所における負傷等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
- 契約の締結年月日
3号警備の契約締結前交付書面
- 警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするもの
- 警備業務を行う路程
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 二以上の車両を使用して警備業務を行うときは、これらの車両の車列の編成
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするものの管理に関する事項
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするものに係る盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
3号警備の契約締結時交付書面
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするもの
- 警備業務を行う路程
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 二以上の車両を使用して警備業務を行うときは、これらの車両の車列の編成
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするものの管理に関する事項
- 運搬されることとなる現金、貴金属、美術品等であって、警備業務の対象とするものに係る盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
- 契約の締結年月日
4号警備の契約締結前交付書面
- 警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務の対象となる者の氏名及び住所又は居所
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務の対象となる者に対する危害が発生するおそれがあり、又は発生したときの措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
4号警備の契約締結時交付書面
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務の対象となる者の氏名及び住所又は居所
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務の対象となる者に対する危害が発生するおそれがあり、又は発生したときの措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
- 契約の締結年月日
機械警備の契約締結前交付書面
- 警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務対象施設の名称及び所在地
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務対象施設の鍵の管理に関する事項
- 基地局及び待機所の所在地
- 盗難等の事故の発生に関する情報を感知する機器の設置場所及び種類その他警備業務用機械装置の概要
- 待機所から警備業務対象施設までの路程(当該路程を記載することが困難な事情があるときは、局地内において盗難等の事故の発生に関する情報を受信した場合にその受信の時から警備員が現場に到着する時までに通常要する時間)
- 送信機器の維持管理の方法
- 警備業務対象施設における盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
機械警備の契約締結時交付書面
- 警備業務を行う日及び時間帯
- 警備業務対象施設の名称及び所在地
- 警備業務に従事させる警備員の人数及び担当業務
- 警備業務に従事させる警備員が有する知識及び技能
- 警備員の服装
- 警備業務を実施するために使用する機器又は各種資機材
- 警備業務対象施設の鍵の管理に関する事項
- 基地局及び待機所の所在地
- 盗難等の事故の発生に関する情報を感知する機器の設置場所及び種類その他警備業務用機械装置の概要
- 待機所から警備業務対象施設までの路程(当該路程を記載することが困難な事情があるときは、局地内において盗難等の事故の発生に関する情報を受信した場合にその受信の時から警備員が現場に到着する時までに通常要する時間)
- 送信機器の維持管理の方法
- 警備業務対象施設における盗難等の事故発生時の措置
- 報告の方法、頻度及び時期その他の警備業務の依頼者への報告に関する事項
- 警備業務の対価その他の当該警備業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額
- 上欄の金銭の支払の時期及び方法
- 警備業務を行う期間
- 警備業務の再委託に関する事項
- 免責に関する事項
- 損害賠償の範囲、損害賠償額その他の損害賠償に関する事項
- 契約の変更及び更新に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- 警備業務に係る苦情を受け付けるための窓口
- これらのほか特約があるときは、その内容
- 契約の締結年月日
いずれも、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面の違いは、以下のとおりです。
警備業法における契約締結前交付書面と契約締結時交付書面の違い | ||
---|---|---|
契約締結前交付書面 | 契約締結時交付書面 | |
契約締結日の記載 | 不要 | 必要 |
警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名 | 必要 | 不要 |
作成が必要なのは警備業務委託契約書と締結前・締結時交付書面のどちら?
警備業法では契約締結前交付書面・契約締結時交付書面だけが必須
すでに述べたとおり、現行法の警備業法では、第19条において、警備業者に対し、依頼者への契約締結前交付書面と契約締結時交付書面の交付が義務づけられています。
他方で、これ以外の書面については、特に交付の義務が規定されていません。
このため、警備業法上は、特に警備業務委託契約書・警備契約書の作成、取交しについては義務づけられていません。
従って、警備業法上は、必ずしも警備業務委託契約書・警備契約書は、必ずしも作成する必要はありません。
警備業務委託契約書・警備契約書と契約締結前交付書面・契約締結時交付書面は兼用できる
また、警備業務委託契約書・警備契約書は、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面の両者と兼用することができます。
つまり、契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の記載事項を契約内容として規定できていれば、その契約書は、契約締結自前交付書面かつ契約締結時交付書面として扱うことができます。
契約書は、依頼者がサインをする前に渡されるため、契約締結時交付書面として機能します。
また、依頼者が契約書にサインした跡は、契約締結時交付書面(かつ契約締結前交付)として手元に残ります。
この他、契約書に契約締結前交付書面と契約締結時交付書面を綴じ込むことで、一体の書類として扱うことができます。
各都道府県警察によって書面の運用が異なる
なお、これらの書面については、警備業者を監督する都道府県によって取り扱いが異なります。
警備業法は、警察庁が所管する法令です。
しかし、警備業者を監督するのは各都道府県の公安委員会であり、警備業法を実際に運用するのは、各都道府県警察がおこなっています。
こうした事情により、都道府県によっては、法定記載事項が記載された警備業務委託契約書・警備契約書があっても、契約締結前交付書面・契約締結前交付書面の交付を求める場合もあります。
このため、都道府県によっては、警備業務委託契約書・警備契約書を作成する場合であっても、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面を別途作成する必要がある場合もあります。
ポイント
- 警備業法では契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の作成・交付が必須とされていて、必ずしも警備業務委託契約書・警備契約書を作成する必要はない。
- 警備業務委託契約書・警備契約書と契約締結前交付書面・契約締結時交付書面は、警備業法に規定されている内容が明記されていれば、兼用できる。
- 都道府県警察によっては、警備業務委託契約書・警備契約書と契約締結前交付書面・契約締結時交付書面を別々に作成するよう運用している場合もある。
警備業務委託契約・警備契約の契約形態は請負契約?準委任契約?
法律上は特に決まっていない
警備業務委託契約書・警備契約書を作成する際に、最も重要な契約条項のひとつが、契約形態に関する条項です。
【意味・定義】契約形態条項とは?
契約形態条項とは、その契約が(主に)民法上のどの契約に該当するのかを規定する条項をいう。
警備業務委託契約・警備契約においては、契約形態が請負契約か準委任契約のどちらなのかを規定する条項となります。
なぜ契約形態が重要な条項なのかといえば、警備業法や民法では、警備業務委託契約・警備契約が何の契約に該当するのかが規定されていないからです。
同様に、過去の判例でも、特に明らかにはされていません。
この点については、以下の3つの考え方があります。
警備に関する契約の契約形態の考え方
- 請負契約であるとの考え方
- 準委任契約であるとの考え方
- 請負契約や準委任契約などの民法上の典型契約に該当しない非典型契約・無名契約であるとの考え方(名古屋地裁昭和50年4月22日判決)
いずれにしても、特に法律で規定がない以上、契約自由の原則により、契約形態を自由に決めることができます。
【意味・定義】契約自由の原則とは?
契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。
警備業務は請負(仕事の完成)といえるか?
では、警備業務委託契約・警備契約は、請負契約と準委任契約のいずれの契約なのでしょうか。
請負契約は、「仕事の完成」という結果を目的とした契約です。
【意味・定義】請負契約とは?
請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。
この結果について、警備業務における結果は、必ずしも明らかではありません。
この点から、警備業務委託契約・警備契約が請負契約といえるのか、疑問と言わざるを得ません。
一般的な警備業務は準委任契約のほうが実態に即している
他方で、準委任契約は、「法律行為でない事務」の実施という、行為そのものを目的とした契約です。
【意味・定義】準委任契約とは?
準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。
また、準委任契約は、契約当事者間の信頼関係にもとづき成り立つものです。
さらに、準委任契約には、いわゆる善管注意義務が課されます。
【意味・定義】善管注意義務とは?
善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。
こうした性質から、準委任契約のほうが、警備業務委託契約・警備契約のほうが、請負契約に比べて、実態に即しているものと思われます。
3号警備は請負の側面もある
ただし、貴重品運搬警備業務等である3号警備は、業務内容によっては、運送業に近い業務となることもあります。
特に、警備業者自身が貴重品等を運搬する場合は、「特定の場所へ貴重品を運搬する」という仕事が目的となります。
これは、請負契約の性質が非常に強いと言えます。
もっとも、だからといて、3号警備の警備業務委託契約・警備契約の契約形態を必ず請負契約にしなければならない、というわけではありません。
請負契約と準委任契約の違い
以上のとおり、一般的な警備業務委託契約・警備契約では、依頼者にとっては「仕事の完成」=結果が保証されている請負契約の方が有利であり、警備業者にとっては必ずしも結果の保証が必要でない準委任契約の方が有利となります。
なお、請負契約と(準)委任契約については、次の14の違いがあります。
請負契約と(準)委任契約の違い | ||
---|---|---|
請負契約 | (準)委任契約 | |
業務内容 | 仕事の完成 | 法律行為・法律行為以外の事務などの一定の作業・行為の実施 |
報酬請求の根拠 | 仕事の完成 | 履行割合型=法律行為・法律行為以外の事務の実施、成果完成型=成果の完成 |
受託者の業務の責任 | 仕事の結果に対する責任 (完成義務・契約不適合責任) | 仕事の過程に対する責任 (善管注意義務) |
報告義務 | なし | あり |
業務の実施による成果物 | 原則として発生する(発生しない場合もある) | 原則として発生しない(発生する場合もある) |
業務の実施に要する費用負担 | 受託者の負担 | 委託者の負担 |
受託者による再委託 | できる | できない |
再委託先の責任 | 受託者が負う | 原則として受託者が直接負う (一部例外として再委託先が直接負う) |
委託者の契約解除権 | 仕事が完成するまでは、いつでも損害を賠償して契約解除ができる | いつでも契約解除ができる。ただし、次のいずれかの場合は、損害賠償責任が発生する
|
受託者の契約解除権 | 委託者が破産手続開始の決定を受けたときは、契約解除ができる | いつでも契約解除ができる。ただし、委託者の不利な時期に契約解除をしたときは損害賠償責任が発生する |
印紙(印紙税・収入印紙) | 必要(1号文書、2号文書、7号文書に該当する可能性あり) | 原則として不要(ただし、1号文書、7号文書に該当する可能性あり) |
下請法違反のリスク | 高い | 高い |
労働者派遣法違反=偽装請負のリスク | 低い(ただし常駐型は高い) | 高い(常駐型は特に高い) |
労働法違反のリスク | 低い | 高い |
この他、請負契約と(準)委任契約の違いの解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 法律上、警備業務委託契約・警備契約の契約形態(請負契約・準委任契約)は特に決まっていない。
- 警備業務委託契約・警備契約には、「仕事の完成」を目的とした請負契約は馴染まない。
- 警備業務委託契約・警備契約は、準委任契約のほうが実態に即している。
- 3号警備は、業務内容によっては、運送請負契約の性質が強くなる。
警備業務委託契約では契約書の作成は必要?不要?
すでに述べたとおり、警備業法では、警備業務委託契約書・警備契約書の作成は必要ではありません。
警備業法上は、警備業者は、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面を交付するだけで構いません。
しかしながら、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面を交付するだけでは、契約内容としては不十分なものとなります。
このため、よほど小規模な警備業務である場合を除いて、一般的には、警備業務委託契約書・警備契約書を作成します。
警備業務委託契約・警備契約書の作成が必要な12の理由
具体的には、以下の理由により、警備業務委託契約・警備契約書の作成が必要となります。
警備業務委託契約書の作成が必要な理由
- 【理由1】契約締結時交付書面は契約の成立の証拠にならないから
- 【理由2】損害が大きい契約だから
- 【理由3】免責事項を規定する必要があるから
- 【理由4】損害賠償額の制限を規定する必要があるから
- 【理由5】請負契約か準委任契約かを決める必要があるから
- 【理由6】業務内容=「警備業務」を明記する必要があるから
- 【理由7】偽装請負を防止する必要があるから
- 【理由8】秘密保持義務を規定する必要があるから
- 【理由9】警報機器の所有権・管理等を決める必要があるから(機械警備の場合)
- 【理由10】三条書面の交付が必要となるから(下請法が適用される場合)
- 【理由11】消費者向けのクーリング・オフの書面が必要となるから(特定商取引法が適用される場合)
- 【理由12】警報機器の設置工事請負契約書の作成義務があるから(機械警備の場合)
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
【理由1】契約締結時交付書面は契約内容の証拠にならないから
契約締結時交付書面を交付しただけでは口約束と同じ
理由の1点目は、契約書がなければ、警備業務委託契約・警備契約の契約内容の証拠が残らないからです。
契約締結前交付書面も、契約締結時の交付する契約締結時交付書面も、依頼者に対し交付されるものであるため、警備業者の手元には残りません。
つまり、これらの書面を交付しただけでは、口約束の状態と何ら変わりがないわけです。
仮にコピーなどが警備業者の手元に残っていても、それも契約内容の証拠にはなりません。
契約内容の証拠がないと事故発生時のリスクに対応できない
次項で述べるとおり、警備業務委託契約・警備契約は、事故が起こった場合に被害が大きくなることがあります。
この際、事故の発生について、警備業者に責任が発生する可能性もあります。
こうした責任についても、契約書がなければ、非常に大きな責任を取らされるリスクもあります。
このため、後に述べる免責事項や損害の範囲を限定した契約書を作成するべきです。
【理由2】損害が大きい契約だから
理由の2点目は、警備業務委託契約・警備契約が、事故が発生した場合に、損害の金額が非常に多くなる契約だからです。
この「損害が大きい」という点は、他の契約条項全体に影響を及ぼす、警備業務委託契約・警備契約で最も重要な要素です。
一般的に、依頼者は、事故が起こった場合は「損害が大きい」と認識しているからこそ、警備を依頼します。
このため、大半の警備業務委託契約・警備契約は、想定される事故の損害額が非常に大きくなります。
警備業者としては、この損害の負担や責任を軽減することが、警備業務委託契約書・警備契約書を作成する最も重要な理由となります。
【理由3】免責事項を規定する必要があるから
理由の3点目は、警備業務委託契約書・警備契約書で免責事項を規定する必要があるからです。
契約締結前交付書面や契約締結時交付書面にも、免責事項を規定する必要があります。
しかしながら、業務内容や契約の実態に適合した免責事項を規定する場合、非常に多くの免責事項を規定することもあるでしょう。
そうした場合には、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面の記載だけでは、不十分となる可能性があります。
これに対し、警備業務委託契約書・警備契約書を作成した場合は、実態に適合した免責事項を記載することができます。
【理由4】損害賠償額の制限を規定する必要があるから
保険では損害を全額補填しきれない
理由の4点目は、警備業務委託契約書・警備契約書で損害賠償額の制限を規定する必要があるからです。
一般的な警備業者は、損害が発生したとしても、加入している保険で損害賠償責任をカバーできるようにしています。
しかしながら、よほど保険料が高い保険でない限り、損害を補填できる保険金について、上限が設定されています。
このため、警備業務委託契約書・警備契約書には、保険金の上限に合わせて、損害賠償額の上限も規定する必要があります。
契約実務では「損害」の範囲・種類が多種多様
損害賠償額についても、免責事項同様に、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面に規定する必要があります。
この点から、単に金額だけを規定するのであれば、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面に記載するだけでいいかもしれません。
しかしながら、ひとくちで「損害」といっても、その範囲や性質は様々です。
このため、契約締結前交付書面・契約締結時交付書面だけでは、損害について十分に記載しきれない場合があります。
警備業者としては、なるべく損害の範囲・金額が狭く・少なくなるよう、警備業務委託契約書・警備契約書において、「損害」について明記するべきです。
【理由5】請負契約か準委任契約かを決める必要があるから
理由の5点目は、警備業務委託契約書・警備契約書において、その契約が請負契約と準委任契約のどちらなのかを規定する必要があるからです。
すでに述べたとおり、警備業務委託契約・警備契約は、一般的には請負契約か準委任契約のいずれかになります。
請負契約と準委任契約では、責任の性質や程度が非常に大きく異なります。
このため、万が一、事故が発生した場合に、請負契約と準委任契約のどちらかが明記されていないと、その解釈を巡ってトラブルになる可能性が高いです。
この点から、警備業者としては、警備業務委託契約書・警備契約書で責任が限定されている契約形態(一般的には準委任契約)を明記するべきです。
【理由6】業務内容=「警備業務」を明記する必要があるから
理由の6点目は、警備業務委託契約書・警備契約書で業務内容を明確に定義づける必要があるからです。
冒頭でも述べたとおり、「警備業務」は、警備業法第2条において定義づけられています。
警備業者の中には、この「防止する業務」という表現について、責任が過大となる懸念やリスクを感じる方も一定数いらっしゃいます。
こうした場合、あえて警備業務委託契約書・警備契約書で警備業法に規定された警備業務の定義を修正したり、業務内容を詳細に定義づけることもあります。
【理由7】偽装請負を防止する必要があるから
警備業務は偽装請負のリスクが高い
理由の7点目は、警備業務委託契約書・警備契約書に偽装請負を防止する各種規定を明記する必要があるからです。
警備業務は、程度の差はあれ、依頼者の求めに応じておこなわなければなりません。
この際、依頼者の求めが「指揮命令」や「指示」に該当した場合、警備業務委託契約・警備契約ではなく、労働者派遣契約(=偽装請負)となってしまいます。
【意味・定義】偽装請負(労働者派遣法・労働者派遣契約)とは?
労働者派遣法・労働者派遣契約における偽装請負とは、実態は労働者派遣契約なのに、労働者派遣法等の法律の規制を免れる目的で、請負その他労働者派遣契約以外の名目で契約が締結され、労働者が派遣されている状態をいう。
そうなると、警備業者・依頼者ともに、労働者派遣法違反となってしまいます。
偽装請負とならないためにも、管理責任者の選任、警備員の選定、指揮命令・指示、労務管理等について、警備業務委託契約書・警備契約書に明記し、実際にその内容を順守するようにしましょう。
なお、偽装請負に該当するかどうかのチェックポイントにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
依頼者がしてもいい指揮命令・指示の例外は?
なお、依頼者から警備業者の警備員に対する直接の指揮命令・指示は、原則として偽装請負となります。
ただし、以下の場合は、適法な指揮命令・指示として、例外的に認められています。
適法な指揮命令・指示の具体例
- 災害時等の緊急時における受託者の労働者に対する指示(疑義応答集第2集)
- (車両管理業務委託契約の場合)委託者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じた場合における受託者の労働者に対する指示(同上)
- 法令遵守のために必要な指示(同上)
- 業務手順等の指示(同上)
また、以下の場合は、そもそも指揮命令・指示ではないものとされています。
指揮命令・指示ではない行為の具体例
- 委託者と受託者の労働者との日常的な会話(疑義応答集第1集)
- (通信回線の営業代行契約・代理店契約等の場合)委託者から受託者の労働者に対する回線工事のスケジュール等の情報提供(疑義応答集第2集)
- (車両管理業務委託契約の場合)委託者から受託者の労働者に対する用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間の伝達(同上)
- 打ち合わせへの受託者の労働者の同席(同上)
- 委託者による受託者の管理責任者に対する電子メールを送信した場合にける受託者の労働者に対する(CC等による)電子メールの送信(同上)
- 委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション(疑義応答集第3集)
- (アジャイル開発型のシステム・アプリ等開発契約の場合)開発チーム内のコミュニケーション(同上)
- (同上)会議や打ち合わせ等への参加(同上)
- (同上)委託者による受託者の開発担当者の技術・技能の確認・スキルシートの提出を求める行為(同上)
これらの指揮命令・指示の例外につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【理由8】秘密保持義務を規定する必要があるから
通常は依頼者から警備業者に対し秘密保持義務を課す
理由の8点目は、警備業務委託契約書・警備契約書で秘密保持義務を課す必要があるからです。
現行法の警備業法では、警備業者には秘密保持義務が課されていません。
もちろん、だからといって警備業者が依頼者の秘密を漏えいしていいわけではありません。
このため、どちらかといえば、依頼者の側から、警備業者に対し、秘密保持義務を課すよう求められることが多いです。
警備業者から依頼者に対し秘密保持義務を課すこともあり得る
ただ、依頼者が企業である場合、つまり企業間契約としての警備業務委託契約・警備契約の場合、警備業者の側から依頼者に対し秘密保持義務を課すこともあります。
警備業者は、依頼者に対し、警備料金や警備計画など、企業秘密、場合によっては不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報を開示することもあります。
【意味・定義】営業秘密とは?
営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう(不正競争防止法第2条第6項)。
警備料金が競合他社に漏えいすると、競合他社の値引きを招き、依頼者が競合他社に乗り換えるリスクがありあす。
また、警備計画が依頼者から外部に流出すると、警備に支障が出る可能性もあります。
こうした事態を防ぐためにも、警備業者の側からも、依頼者に対し、秘密保持義務を課すべきです。
【理由9】警報機器の所有権・管理等を決める必要があるから
警報機器は譲渡するか貸与するか決めておく
理由の9点目は、機械警備の警備業務委託契約書・警備契約書では、警報機器の所有権・管理等について明記しておく必要があるからです。
機械警備の場合、依頼者の警備対象施設に警報機器を設置することとなります。
問題は、その設置された警報機器が警備業者・依頼者のどちらの所有物で、誰が管理やメンテナンスの責任を負うのか、という点です。
この点を明らかにしておかないと、警報機器の動作不良で事故が防げなかった場合の責任が、大きく変わってきます。
警報機器を貸与した場合は「資産」として計上する必要がある
なお、一般論として、警備業者が依頼者に対し警報機器を貸与した場合、その警報機器は警備業者の所有物ということとなります。
このため、会計処理上は、この警報機器を資産として計上しなければなりません。
こうなると、多数の警報機器で機械警備業務をおこなっている場合、会計処理が非常に煩雑になる可能性があります。
こうした点からも、警報機器の所有権について検討する必要があります。
【理由10】三条書面の交付が必要となるから
理由の10点目は、下請取引(再委託)である警備業務委託契約・警備契約の場合は、親事業者である警備業者から下請事業者である警備業者に対し、いわゆる「三条書面」を交付する義務があるからです。
【意味・定義】三条書面(下請法)とは?
三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。
これは、当然ながら、下請法が適用される場合に限ります。
つまり、一定の資本区分の要件を満たした依頼者である警備業者から、別の警備業者に対し警備業務を再委託する場合です。
この場合は、親事業者である警備業者からは下請事業者である警備業者に対し三条書面が交付され、逆に下請事業者から親事業者には契約締結前交付書面と契約締結時交付書面が交付されます。
このように、相互に同様の書面を交付し合うのですから、警備業務委託契約書を作成したほうが効率的です。
【理由11】消費者向けのクーリング・オフの書面が必要となるから
訪問販売・電話勧誘販売はクーリング・オフの規制対象
理由の11点目は、消費者向けの機械警備業務契約・ホームセキュリティ契約では、クーリング・オフに関する規定を明記した書面を交付しなければならないからです。
これは、特定商取引法上の訪問販売や電話勧誘販売等の一定の勧誘方法により成約した場合に限ります。
このような場合、特定商取引法では、警備業者は、消費者である依頼者に対し、クーリング・オフについて規定された法定書面を交付する義務があります。
こういった規制に抵触しないように、警備業者は、消費者である依頼者に対して、契約締結前交付書面や契約締結時交付書面と同一の書面または別途の書面で、クーリング・オフについて記載したうえで交付しなければなりません。
クーリング・オフの書面は要件を満たさないと交付したことにならない
クーリング・オフの書面は、記載事項だけでなく、文字の色や大きさなども指定されており、非常に厳しい要件を満たす必要があります。
しかも、クーリング・オフの書面が特定商取引法に規定された要件を満たしていない場合、そもそも適法なクーリング・オフの書面を交付したことになりません。
こうした法定書面の要件を満たさない書面を交付してしまった場合、理屈のうえでは、消費者である依頼者は、いつまでもクーリング・オフができてしまいます。
こうした状態にならないよう、消費者である依頼者には、特定商取引法の要件を満たした書面=ホームセキュリティ契約書を交付しなければなりません。
【理由12】警報機器の設置工事請負契約書の作成義務があるから
理由の12点目は、正確には警備業務委託契約書・警備契約書の話ではりませんが、機械警備では、警報機器の設置工事が建設工事に該当し、建設工事請負契約書の作成が必須になるからです。
警報機器の設置工事は、電気通信工事をはじめ、各種建設工事に該当します。
このため、建設業法が適用されることとなります。
建設業法第19条では、建設工事の当事者に対し、建設工事請負契約書の作成と交付を義務づけています。
この他、建設工事請負契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
警備業務委託契約書・警備契約書の契約条項のポイント
すでに述べたものも含め、警備業務委託契約書・警備契約書には、次の重要な条項があります。
警備業務委託契約書の重要な契約条項一覧
- 業務内容
- 契約形態
- 管理責任者の選任
- 警備員の選定
- 指揮命令・指示
- 労務管理等
- 警報機器の譲渡・貸与
- 警報機器の管理等
- 鍵の貸与・管理等
- 有償出動
- 報告
- 秘密保持義務
- 損害賠償額の限定
- 免責
警備業務委託契約書では印紙税が発生する?収入印紙が必要?
請負契約の場合は必要・準委任契約の場合は不要
すでに述べたとおり、警備業務委託契約書・警備契約書は、通常は請負契約か準委任契約のいずれかに該当します。
請負契約に該当する場合は2号文書または7号文書、準委任契約に該当する場合は不課税文書となります。
また、一般的な警備業務委託契約書では、無体財産権(≒知的財産権)の譲渡がありませんので、1号文書に該当することはありません。
印紙税の金額は警備料金に応じた金額または4,000円もしくは0円
印紙税の金額は、契約形態が請負契約の場合、スポットの警備業務委託契約書などの2号文書の場合は報酬に応じて計算されます。
また。継続的な警備業務委託契約書などの7号文書の場合は4,000円となります。
契約形態が準委任契約の場合は不課税文書ですので、印紙税の金額は、当然0円となります。
この他、警備業務委託契約書・警備契約書の印紙税・収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 警備業務委託契約書・警備契約書は、契約形態が請負契約の場合は収入印紙が必要、準委任契約の場合は収入印紙が不要。
- 警備業務委託契約書・警備契約書の印紙税の金額は、警備料金に応じた金額または4,000円もしくは0円。
契約締結前交付書面・契約締結時交付書面は収入印紙が必要?
契約締結前交付書面は不課税文書=不要
契約締結前交付書面と契約締結時交付書面が課税文書に該当するかどうかは、これらが印紙税法上の「契約書」に該当するかどうかによります。
この点につき、国税庁の見解によると、契約書の意義は以下のとおりです。
…契約書とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含みます。以下同じ。)の成立もしくは更改または契約の内容の変更もしくは補充の事実(以下「契約の成立等」といいます。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書または契約の当事者の全部もしくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することになっているものも含まれます。
したがって、通常、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される申込書、注文書、依頼書などと表示された文書であっても、実質的にみて、その文書によって契約の成立等が証明されるものは、契約書に該当することになります。引用元: No.7117 契約書の意義|国税庁
契約締結前交付書面は、一般的な見積書と同様に、「契約の成立等を証する」書面ではありませんので、不課税文書であると考えられます。
契約締結時交付書面は課税文書=必要となる可能性が高い
他方で、契約締結時交付書面は、「警備業務を行う契約を締結したとき」に遅滞なく交付する書面です。
契約締結時交付書面は、警備業法施行規則第33条第1号イの「警備業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあつては代表者の氏名」を記載する必要はありません。
しかしながら、一般的な契約締結時交付書面では、これらの項目は記載されています。
仮に記載がないとしても、「契約の当事者の全部もしくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することになっているもの」に該当する可能性が高いです。
このため、準委任契約である旨が明記されていなければ、契約締結時交付書面は課税文書に該当する可能性が高いです。
契約締結時交付書面を警備業務委託契約書に綴じ込むことで節税できる
課税文書はあくまで1部または1冊のみ
なお、契約締結時交付書面とは別に警備業務委託契約書を作成している場合、契約締結時交付書面を警備業務委託契約書に綴じ込むことで、1冊の文書とすることができます。
課税文書は、あくまで1部または1冊あたりに課税されます。
このため、契約締結時交付書面と警備業務委託契約書を1冊の文書とすることで、印紙税の2重払いを回避できます。
警備業務委託契約書があっても別途交付書面の作成が必要な場合も
なお、理論上は、警備業法第19条の内容を満たした警備業務委託契約書を2部作成し、委託者に交付していれば、契約締結時交付書面を交付したこととなります。
しかしながら、各都道府県公安委員会の警備業法の運用によっては、警備業務委託契約書とは別に契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の作成・交付を求めるケースもあります。
こうした場合は、実務上は、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面を警備業務委託契約書に綴じ込むことで対応することができます。
ポイント
- 契約締結前交付書面は不課税文書。
- 契約締結時交付書面は、準委任契約である旨が明記されていなければ、課税文書となる可能性が高い。
- 契約締結時交付書面を警備業務委託契約書に綴じ込むことで印紙税の2重払いを回避でき、節税できる。
警備業務委託契約・警備契約に関するよくある質問
- 警備業務委託契約・警備契約とは何ですか?
- 警備業務委託契約・警備契約とは、警備業者が依頼者と締結する警備業務をおこなう契約のことです。
- 警備業務委託契約・警備契約では、契約締結前交付書面と契約締結時交付書面以外に、別途契約書を作成する必要はありますか?
- 警備業務委託契約・警備契約では、警備業法上は、特に契約書を作成する必要はありません。しかしながら、以下の理由により、契約書を作成するべきです。
- 【理由1】損害が大きい契約だから
- 【理由2】免責事項を規定する必要があるから
- 【理由3】損害賠償額の制限を規定する必要があるから
- 【理由4】請負契約か準委任契約かを決める必要があるから
- 【理由5】業務内容=「警備業務」を明記する必要があるから
- 【理由6】偽装請負を防止する必要があるから
- 【理由7】秘密保持義務を規定する必要があるから
- 【理由8】警報機器の所有権・管理等を決める必要があるから(機械警備の場合)
- 【理由9】三条書面の交付が必要となるから(下請法が適用される場合)
- 【理由10】消費者向けのクーリング・オフの書面が必要となるから(特定商取引法が適用される場合)
- 【理由11】警報機器の設置工事請負契約書の作成義務があるから(機械警備の場合)
警備業務委託契約書・契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の作成依頼はすべておまかせください
弊所では、警備業務委託契約書等の警備に関する契約書、契約締結前交付書面、契約締結時交付書面をはじめ、さまざまな契約書の作成依頼を承っております。
お見積りは完全無料となっていますので、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
- 1 警備業務委託契約・警備契約とは?
- 2 契約締結前交付書面・契約締結時交付書面とは?
- 3 契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の法定記載事項
- 4 作成が必要なのは警備業務委託契約書と締結前・締結時交付書面のどちら?
- 5 警備業務委託契約・警備契約の契約形態は請負契約?準委任契約?
- 6 警備業務委託契約では契約書の作成は必要?不要?
- 7 警備業務委託契約・警備契約書の作成が必要な12の理由
- 8 警備業務委託契約書・警備契約書の契約条項のポイント
- 9 警備業務委託契約書では印紙税が発生する?収入印紙が必要?
- 10 契約締結前交付書面・契約締結時交付書面は収入印紙が必要?
- 11 警備業務委託契約・警備契約に関するよくある質問
- 12 警備業務委託契約書・契約締結前交付書面・契約締結時交付書面の作成依頼はすべておまかせください