このページでは、業務委託の委託者・受託者双方の方々に向けて、業務委託契約書の意味・定義と、基本的な内容・注意点について記載しています。

業務委託契約は、事業者間の契約で、何らかの業務の委託・受託とその対価の支払いを規定した契約です。

ビジネスの現場では、業務委託契約は広く浸透していますが、実際は「よく分からない」と思う人も多いのではないでしょうか。

それもそのはずで、実は、業務委託契約は、法律で内容が決まっている契約ではないのです。

なぜならば、「業務委託契約」は、契約の全般的なルールである民法には規定がないからです。

ビジネスの現場では広く浸透しているにもかかわらず、法律ではルールが決まっていないために、業務委託契約は内容が曖昧になることが多く、トラブルになりがちです。

このページでは、こうした業務委託契約の実態や法的な位置づけなどの基本や注意点について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページを読むことで、業務委託契約の注意点が理解でき、また、トラブルを未然に防ぐことができます。

このページでわかること
  • 業務委託契約の意味・定義・性質・基本
  • 典型的な業務委託契約のパターン
  • 業務委託契約と労働者派遣契約の違いの概要
  • 業務委託契約と雇用契約・労働契約との違いの概要
  • 契約書がない場合の業務委託のリスク・デメリット
  • 業務委託契約書を作成するメリット・目的
  • 業務委託契約書の代表的な契約条項の概要
  • 業務委託契約書の収入印紙
  • 雛形・テンプレートの業務委託契約書を使う場合の注意点
  • 業務委託契約書に関するよくある質問




業務委託契約の意味・定義・契約の性質

業務委託契約とは

業務委託契約とは、企業間で締結される契約の一種で、ある企業から別の企業に対して、自社でおこなうべき業務の全部または一部を委託する契約のことをいいます。

【意味・定義】業務委託契約とは?

業務委託契約とは、企業間取引の一種で、ある事業者が、相手方の事業者に対して、自社の業務の一部または全部を委託し、相手方がこれを受託する契約をいう。

よく誤解されがちですが、「業務委託契約書=業務委託契約」ではありません。

業務委託契約書は、あくまで契約書=書類のことです。また、業務委託契約は、契約そのもののことです。

業務委託契約の性質・概要

業務委託契約の契約上の性質は、以下のとおりです。

業務委託契約の性質
典型契約・非典型契約業務委託契約は、典型契約(主に民法上の請負契約か準委任契約)であることが多いですが、非典型契約であることもあります。
双務契約・片務契約業務委託契約は、委託者・受託者の双方が債務を負担する双務契約です。
有償契約・無償契約業務委託契約は、委託者・受託者の双方から相手方に対する経済的な対価の交付がある有償契約です。
諾成契約・要物契約業務委託契約は、当事者の合意のみで成立する諾成契約です。
要式契約・不要式契約業務委託契約は、契約の成立に特定の方式を必要としない不要式契約です。ただし、成立には必要ではないものの、一部の法律(下請法第3条)書面の交付義務がある場合があります。
ポイント
  • 業務委託契約は、一般的には自社がおこなう業務を第三者に委託する契約。
  • 業務委託契約書は、業務委託契約の契約書。
  • 業務委託契約は、典型契約(一部非典型契約)、双務契約、有償契約、諾成契約、不要式契約。





「業務委託契約」の法的な定義はない

「業務委託契約」はあくまで一般のビジネス用語であり法令用語ではない

業務委託契約は、一般的な事業者間でよく結ばれている、なじみのある契約です。ところが、実は、業務委託契約の定義は、法律上の用語の表現としては存在しません。

あくまで、「業務委託契約」という言葉は、一般的なビジネス用語であり、法令用語ではありません。

このため、契約当事者や担当者レベルで「業務委託契約」の定義や解釈がバラバラとなり、トラブルになることがよくあります。

契約のルールである民法には「業務委託契約」はない

契約のルールは、民法という法律で決められています。

民法では、13種類の典型的な契約について、基本的なルールが規定されています。このような典型的な契約のことを、典型契約または有名契約といいます。

【意味・定義】典型契約・有名契約とは?

典型契約・有名契約とは、売買契約、請負契約、委任契約などの、民法に規定されている13種類の契約をいう。

ところが、この13種類の典型契約には、「業務委託契約」という名前の契約はありません。
典型契約・有名契約の一覧
13種類の典型契約・有名契約
  1. 贈与契約(民法第549条)
  2. 売買契約(民法第555条)
  3. 交換契約(民法第586条)
  4. 消費貸借契約(民法第587条)
  5. 使用貸借契約(民法第593条)
  6. 賃貸借契約(民法第601条)
  7. 雇用契約(民法第623条)
  8. 請負契約(民法第632条)
  9. 委任契約(民法第643条)
  10. 寄託契約(民法第657条)
  11. 組合契約(民法第667条)
  12. 終身定期金契約(民法第689条)
  13. 和解契約(民法第695条)

なお、典型契約・有名契約でない契約のことを、非典型契約・無名契約といいます。

【意味・定義】非典型契約・無名契約とは?

非典型契約・無名契約とは、ライセンス契約、フランチャイズ契約などの、民法に規定されていない(=典型契約でない)契約をいう。

非常に稀ではありますが、民法上の典型契約・無名契約に該当しない業務委託契約は、この非典型契約・無名契約となります。

【意味・定義】委託とは?

また、「委託」という表現は、民法では使われている表現ですが、明確な定義までは規定されていません。このため、「業務委託契約」と同じように、「委託」も定義がない用語です。

ただし、家内労働法という法律や、下請法では、一部定義づけられている場合もあります。

この他、委託という表現ついては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

委託とは?契約用語の意味・定義やリスクを簡単に解説

「業務委託」の定義はフリーランス保護法に規定されている

なお、2024年秋までには施行される予定のフリーランス保護法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の第2条第3項により、以下のように定義づけられています。

第2条(定義)

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

【意味・定義】業務委託(フリーランス保護法)とは?

フリーランス保護法における業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)を委託することをいう。

この「業務委託」の定義は非常に幅広く、事実上すべての業務委託が、このフリーランス保護法の「業務委託」に該当するものと考えて差し支えないでしょう。

ポイント
  • 「業務委託契約」という言葉には法的な定義がない。
  • 民法上、「委託」の定義もない。
  • 「業務委託」の定義は、フリーランス保護法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)第2条第3項に規定されている。





業務委託契約は請負契約・準委任契約等またはこれらの複合的な契約

業務委託契約は民法上の請負契約・準委任契約であることが多い

業務委託契約は、すでに触れた民法の13種類の典型契約のうちの、いずれかひとつ、あるいは複合に該当することが多いです。

特に、大半の適法な業務委託契約は、請負契約か(準)委任契約のいずれかの場合が多いです。

つまり、業務委託契約というのは、実は、民法上の「別の契約」であることがほとんどなのです。

請負契約とは?

請負契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第632条(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】請負契約とは?

請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。

この他、請負契約につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

準委任契約とは?

準委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第656条(準委任)

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【意味・定義】準委任契約とは?

準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

「この節」とは、委任契約について規定された節のことです。この委任契約を準用する契約であることから、「準委任契約」といいます。

また、ここでいう「事務」というのは、一般的な用語としての事務(例:事務を執る、事務所、事務職など)ではなく、もっと広い概念です。

民法上は定義がありませんが、作業、助言、企画、技芸の教授など、「法律行為でない行為」が該当すると考えて差し支えないでしょう。

委任契約とは?

なお、委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第643条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】委任契約とは?

委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為のことです。

この他、委任契約・準委任契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

典型的な業務委託契約のパターンは7つある

すでに述べたとおり、一般的な業務委託契約は、請負契約か、委任契約(または委任契約に準じた準委任契約)のいずれかであることが多いです。

もっとも、企業間取引である業務委託契約は、単純な請負契約・準委任契約だけではなく、場合によっては非常に複雑な契約となることがあります。

このため、請負契約・(準)委任契約を含めて、企業間取引での典型的な業務委託契約では、以下の7つのパターンがあります。

典型的な業務委託契約の7つのパターン
  1. 請負契約である業務委託契約
  2. 委任契約または準委任契約である業務委託契約
  3. 寄託契約である業務委託契約
  4. 組合契約である業務委託契約
  5. 実は雇用契約・労働契約である業務委託契約
  6. 実は労働者派遣契約である業務委託契約(偽造請負)
  7. 売買契約・譲渡契約が含まれる業務委託契約

これらの業務委託契約の7つのパターンにつきまして、以下のページにまとめていますので、ご覧ください。

業務委託契約には請負・委任・偽装請負・雇用・売買(譲渡)・寄託・組合の7つの種類がある

ポイント
  • 多くの業務委託契約の実態は、民法上の別の契約。
  • 業務委託契約は、請負契約または準委任契約であることが多い。
  • 請負契約は、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約のこと。
  • 準委任契約は、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約のこと。
  • 業務委託契約は、大きく分けて7種類に分類される。大半は、一般的な業務委託契約は、請負契約か準委任契約のどちらか。





業務委託契約と他の契約との違い

業務委託契約と似た2種類の契約とは?

業務委託契約は、その内容から、労働者派遣契約や雇用契約・労働契約と非常によく似た契約です。

なぜならば、これらの契約は、いずれも「作業と提供その対価の支払い」という点が共通しているからです。

このため、業務委託契約書を作成する際には、これらの労働者派遣契約や雇用契約・労働契約にみなされないように、書き方・内容ともに配慮する必要があります。

では、業務委託契約と労働者派遣契約、労働契約・雇用契約との違いについては、次のとおりです。

業務委託契約と労働者派遣契約との違いとは?

労働者派遣契約とは?

労働者派遣契約の定義は、以下のとおりです。

【意味・定義】労働者派遣契約とは?

労働者派遣契約とは、当事者の一方が相手方に対し、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、相手方の指揮命令を受けて、当該相手方のために労働に従事させることを約する契約。

業務委託契約と労働者派遣契約の違い一覧表

業務委託契約と労働者派遣契約には、主に次の違いがあります。

業務委託契約と労働者派遣契約の違い一覧表
業務委託契約労働者派遣契約
委託者・派遣先に提供されるもの請負契約:仕事の完成
(準)委任契約:委託業務の実施
派遣元の派遣労働者による労働力
単なる肉体労働の提供の可否単なる肉体労働を提供する業務委託契約は労働者派遣契約=偽装請負のリスクあり可能
業務内容のレベル受託者の企画・受託者の専門的技術・専門的技経験のいずれかにもとづく業務実施が必要特に派遣労働者による業務実施のレベルは問われない
受託者・派遣先に提供されるもの金銭(報酬・料金・委託料)+消費税金銭(料金)+消費税
適用される法律商法・会社法・独占禁止法・下請法・各種業法労働者派遣法・商法・会社法・独占禁止法
業務の遂行方法に関する指示受託者による指示派遣先による指示
業務の遂行に関する評価等に係る指示受託者による指示派遣元による指示・派遣先の協力
労働時間の指示受託者による指示派遣先による指示
残業・休日出勤の指示受託者による指示派遣元・派遣先の双方による指示
服務規律の決定・指示受託者による決定・指示派遣元・派遣先の双方による指示
労働者の配置の決定・変更受託者による決定・変更派遣先による決定・変更
事業用の資金の調達・使用受託者による調達・使用派遣先による調達・使用
事業主としての責任の負担受託者による負担派遣元・派遣先による負担(責任を負う相手による)
機械・設備・器材・材料・資材の調達受託者による調達派遣先による調達

これらの業務委託契約と労働者派遣契約の違いの詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約と労働者派遣契約の14の違い

業務委託契約と労働者派遣契約の判断基準「37号告示」とは?

業務委託契約と労働者派遣契約の判断基準としては、厚生労働省のいわゆる「37号告示」(正式名称:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号))があります。

【意味・定義】37号告示とは?

37号告示とは、労働者派遣事業と請負等の労働者派遣契約にもとづく事業との区分を明らかにすることを目的とした厚生労働省のガイドラインである「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」をいう。

法人間で使用する業務委託契約書を作成する際は、労働者派遣契約とみなされ、労働者派遣法違反(いわゆる偽装請負)とならないよう、この37号告示の内容に抵触しないように注意します。

37号告示の詳しい解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

37号告示とは?(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )

業務委託契約と労働契約・雇用契約との違いとは?

雇用契約・労働契約とは?

雇用契約・労働契約の定義は、それぞれ以下のとおりです。

【意味・定義】雇用契約とは?

雇用契約とは、労働者が労働に従事し、使用者が労働に対する報酬を支払う契約をいう。

【意味・定義】労働契約とは?

労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がその労働に対して賃金を支払う契約をいう。

これらの雇用契約・労働契約の詳しい解説につきましては、次のページをご覧ください。

雇用契約・労働契約とは?フリーランス・個人事業者との業務委託契約との違いは?

業務委託契約と雇用契約・労働契約の違いは?

業務委託契約と雇用契約・労働契約には、主に次の違いがあります。

業務委託契約と雇用契約・労働契約の違い一覧表
業務委託契約雇用契約・労働契約
委託者・使用者に提供されるもの請負契約:仕事の完成
(準)委任契約:委託業務の実施
労働力
受託者・労働者に提供されるもの金銭(報酬・料金・委託料)+消費税金銭(報酬・賃金)
契約当事者の関係企業間の取引関係(理屈のうえでは対等)労使関係
適用される法律商法・会社法・独占禁止法・下請法・家内労働法・特定商取引法・各種業法各種労働法(労働基準法・労働契約法等)
報酬・賃金等の金銭に対する規制原則としてなし(ただし下請法等の規制あり)最低賃金法・労働基準法(特に残業代)などの規制あり
報酬・賃金の金額一般的には労働者の賃金に比べて報酬・料金・委託料は高い一般的には個人事業者・フリーランスの報酬・料金・委託料に比べて賃金は低い
報酬・賃金等の金銭に対する源泉徴収義務原則として委託者に源泉徴収義務はなし
(ただし例外に該当する場合が多い)
使用者に源泉徴収義務あり
報酬・賃金等が消費税の仕入税額控除の対象となるか対象となる対象とならない
社会保険料等の負担受託者である個人事業者・フリーランス労使双方の負担
仕事の諾否の自由ありなし
指揮命令の有無なしあり
場所・時間の拘束性の有無なしあり
業務の代替性の有無請負契約:あり
(準)委任契約:なし
なし
業務遂行に必要な機械・器具等・費用の負担受託者である個人事業者・フリーランスの負担使用者の負担
業務遂行にもとづく損害の負担原則として受託者である個人事業者・フリーランスの負担原則として使用者の負担

これらの業務委託契約と雇用契約・労働契約の違いの詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

個人事業者・フリーランスとの業務委託契約と雇用契約・労働契約の15の違い

業務委託契約と雇用契約・労働契約の判断基準「昭和60年労働基準法研究会報告」とは?

業務委託契約と労働者派遣契約の判断基準としては、厚生労働省のいわゆる「昭和60労働基準法研究会報告」(正式名称:『労働基準法研究会報告』(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日))があります。

【意味・定義】昭和60年労働基準法研究会報告とは?

昭和60年労働基準法研究会報告とは、旧労働省(現:厚生労働省)の労働基準法研究会によっておこなわれた、労働基準法第9条の「労働者」の定義と、その判定基準をいう。

個人事業者が相手方となる業務委託契約書を作成する際は、雇用契約・労働契約とみなされ、各種労働法違反とならないよう、この昭和60年労働基準法研究会報告の内容に抵触しないように注意します。

昭和60年労働基準法研究会報告の詳しい解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは

ポイント
  • 業務委託契約は、労働者派遣契約や雇用契約・労働契約と似ている。
  • 法人間の業務委託契約は、労働者派遣契約とみなされる(いわゆる偽装請負)リスクがある。
  • 業務委託契約と労働者派遣契約は、いわゆる「37号告示」の判断基準によって区分される。
  • 個人事業者が相手方となる業務委託契約は、雇用契約・労働契約とみなされるリスクがある。
  • 業務委託契約と雇用契約・労働契約は、いわゆる「昭和60年労働基準法研究会報告」の判断基準によって区分される。





契約書がない場合の業務委託の8つの注意点・リスク・デメリットは?

業務委託契約は口約束だけでも成立するが一般的には契約書を作成する

業務委託契約は、原則として、口約束でも成立します。このような、当事者の合意だけで成立する契約を「諾成契約」といいます。

口約束でも成立する業務委託契約は、法律上の義務がない限りは、業務委託契約書を作成する必要はありません。このように、書面の作成を必要としない契約を「不要式契約」といいます。

ただ、企業間の取引である業務委託契約ですので、金額も多額となることも多く、契約内容も複雑である傾向が強いです。

こうした業務委託契約であるにもかかわらず、業務委託契約書を作成せずに、口約束で済ませると、いろんなリスク・デメリットがあります。

契約書がない場合の業務委託契約の注意点・リスク・デメリット一覧

具体的には、契約書がない場合の業務委託契約には、以下の8つのリスク・デメリットがあります。

業務委託契約書を作成しない注意点・リスク・デメリット一覧
  • 【注意点1】業務委託契約の内容を巡ってトラブルとなる
  • 【注意点2】業務委託契約書を作成しないと下請法違反となる
  • 【注意点3】業務委託契約が雇用契約・労働契約とみなされる
  • 【注意点4】業務委託契約が偽装請負とみなされる
  • 【注意点5】建設業務委託契約書を作成しないと建設業法違反となる
  • 【注意点6】業務委託契約書を作成しないと著作権でトラブルとなる
  • 【注意点7】業務委託契約が資金決済法違反となる
  • 【注意点8】業務委託契約書がないと税法違反・税務調査に対応できない

これらの契約書がない場合の業務委託の8つのリスク・デメリット・注意点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書がない場合の業務委託の8つのリスク・デメリット・注意点とは?

ポイント
  • 業務委託契約書は、諾成契約かつ不要式契約であるため、契約書なしでも、口約束だけで成立する。
  • 業務委託契約書を作成しない場合、法令違反をはじめとした、さまざまなリスク・デメリットが発生する。





業務委託契約書を作成するメリットは?

これに対し、業務委託契約書を作成する場合、次の4つのメリットがあります。

業務委託契約書作成の4つのメリット
  1. 取引内容を可視化・記録できる
  2. 業務プロセスを明確化できる
  3. 違法行為を予防できる
  4. 収入印紙を節約できる

これらの業務委託契約書を作成するメリットにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書を作成する4つの目的・メリットとは?





業務委託契約書を作成する目的は?

以上の点から、業務委託契約書を作成する目的は、以下のとおりです。

業務委託契約書を作成する目的は?
  • 【目的1】業務内容・業務プロセスを明確化し、トラブルを防ぐため
  • 【目的2】取引の内容を記録し、税務調査等の際に提示するため
  • 【目的3】下請法、独占禁止法、労働基準法、労働契約法、労働者派遣法、建設業法等の法令に違反しないため
  • 【目的4】著作権等の知的財産権の処理を巡るトラブルを防ぐため





業務委託契約の契約条項のポイントは?

業務委託契約では、委託者・受託者ともに、以下の21の契約条項が非常に重要となります。

業務委託契約の21のポイント・契約条項・注意点一覧
1.目的条項目的条項は、契約の概要を規定する条項です。
2.契約形態契約形態の条項は、業務委託契約が、民法上のどの契約に該当するのかを規定する条項です。一般的には、請負契約か準委任契約のいずれか、または双方であることを規定します。
3.業務内容業務内容の条項は、委託者が受託者に対し委託する、委託業務の内容について規定する条項です。業務委託契約においては、最も重要な条項のひとつです。
4.契約の成立・受発注の手続き契約の成立の条項は、業務委託契約の成立の条件・時期を規定する条項です。また、いわゆる基本契約である業務委託契約では、個別契約の成立=個々の取引の受発注の手続きを規定します。
5.報酬・料金・委託料の金額・計算方法報酬・料金・委託料の金額・計算方法の条項は、具体的な数字や計算方法により、報酬・料金・委託料を規定する条項です。計算方法で規定する場合は、計算の結果が、契約当事者で異なることが無いよう規定することが重要となります。
6.報酬・料金・委託料の支払方法支払方法の条項は、委託者が受託者に対し、どのように報酬・料金・委託料を支払うのかを規定する条項です。一般的には、現金の銀行振込による支払いが多いです。
7.報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日支払期限・支払期日の条項は、委託者が受託者に対し支払う報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日を規定する条項です。いわゆる「締切計算」をする場合は、何をもって締め切るのかを明記しなければ、トラブルの原因となります。
8.費用負担費用負担の条項は、業務委託契約の履行に必要な費用(内訳・金額・計算等)について、誰がどのように負担するのかを規定する条項です。
9.納期(納入期限・納入期日)納入期限・納入期日の条項では、納入期限または納入期日を規定する条項です。納入期限は「期限」、納入期日は「期日」を意味しますので、単に「納期」と記載することは避けるべきです。
10.納入・納入方法・納入場所納入・納入方法・納入場所の条項は、受託者からなされる納入の定義、納入方法、納入場所を規定します。納入は、何らかの条項(支払期限・契約不適合責任等)のトリガーになる場合があるため、何をもって納入完了となるのかを明記します。
11.受領遅滞(受領拒否・受領不能)受領遅滞の条項は、受託者からの納入があった際、委託者がその納入を拒否した場合や、納入の受入ができない場合の対処を規定する条項です。
12.検査(検査項目・検査方法・検査基準)検査の条項は、検査を実施する際の検査項目、各検査項目の検査の方法、検査結果の合否の判定基準(検査基準)を規定する条項です。
13.検査期間・検査期限と検査手続き検査期間・検査期限の条項は、委託者による検査を実施する期間または期限と、検査の合否の場合の手続きを規定します。
14.所有権の移転の時期所有権の移転の条項は、物品・製品・有体物の成果物の納入がある業務委託契約の場合において、これらの所有権の移転の時期について規定する条項です。一般的な業務委託契約では、所有権の移転の時期は、納入時か検査完了時です。
15.危険負担の移転の時期危険負担の移転の条項は、物品・製品・有体物である成果物が発生する業務委託契約の場合において、これらになんらかの損害が発生した場合の負担について規定する条項です。一般的な業務委託契約では、危険負担の移転の時期は、納入時または検査完了時です。
16.契約不適合責任契約不適合責任(旧民法における瑕疵担保責任)の条項は、請負型の業務委託契約の場合における、契約不適合の定義、契約不適合責任、契約不適合責任の期間等を規定します。
17.善管注意義務善管注意義務の条項では、準委任型の業務委託契約の場合における、善管注意義務を規定します。ただし、契約形態の条項で準委任契約である旨を明記していれば、特に契約条項として善管注意義務を規定せずとも、民法上は善管注意義務が発生します(民法第644条)。
18.契約解除条項契約解除条項は、契約が解除できる事由・理由について規定する条項です。
19.秘密保持義務・守秘義務秘密保持義務・守秘義務の条項は、秘密情報の定義、秘密保持義務、秘密情報の目的外使用の禁止等を規定する条項です。厳格な秘密保持義務・守秘義務を規定する場合は、別途秘密保持契約を締結することもあります。また、個人情報を取り扱う業務委託契約では、個人情報の取扱いについても、併せて規定します。
20.再委託・下請負再委託・下請負の条項は、受託者による業務の再委託・下請負ができるかどうかを規定する条項です。一般的には、全面的に禁止されるか、または許諾される場合であっても、受託者側に再委託先・下請負先に関する責任が課される場合が多いです。
21.合意管轄裁判所合意管轄裁判所の条項は、第一審の裁判を起こせる唯一の裁判所=専属的合意管轄裁判所を規定する条項です。どちらかの立場が優位な契約当事者に近い裁判所が選ばれることが多いです。
これらの、業務委託契約書のポイント・契約条項・注意点は、委託者と受託者の立場によって、大きく異なります。

この点については、委託者側受託者側のそれぞれにつきまして、以下のページで、詳しくまとめていますので、ご参照ください。

【委託者側版】業務委託契約書の21の記載内容・契約条項とリーガルチェックリスト

【受託者側版】業務委託契約書の21の記載内容・契約条項とリーガルチェックリスト





業務委託契約書には収入印紙が必要?

業務委託契約書には収入印紙が必要な場合と不要な場合がある

業務委託契約書は、収入印紙が必要な「課税文書」に該当する場合と、収入印紙が不要な「非課税文書」に該当する場合があります。

課税文書に該当する業務委託契約書は、主に11パターンです。

業務委託契約書が課税文書となる場合・具体例
  1. 1号文書:アジャイル型システム開発業務委託契約書(著作権譲渡があり、かつ契約期間が3ヶ月以内のもの)
  2. 1号文書(運送契約等):「運送に関する契約」(非継続型)
  3. 2号文書:製造請負契約(非継続型)
  4. 2号文書(軽減措置対象):建設工事請負契約
  5. 1号文書かつ2号文書:ウォーターフォール型システム開発業務委託契約書(著作権譲渡があり、契約期間が3ヶ月以内のもの)
  6. 7号文書:代理店契約書(請負契約型。準委任契約型の場合は売買等の委託も含む)
  7. 1号文書かつ7号文書:アジャイル型システム開発業務委託契約書(著作権譲渡があり、かつ契約期間が3ヶ月を超えるもの)
  8. 1号文書かつ7号文書(運送契約等):「運送に関する契約」の基本契約(継続的取引きの基本となる契約、契約期間が3ヶ月を超えるもの)
  9. 2号文書かつ7号文書:製造請負基本契約書(契約期間が3ヶ月を超えるもの)
  10. 2号文書かつ7号文書(軽減措置対象):建設工事請負基本契約書(継続的取引きの基本となる契約、契約期間が3ヶ月を超えるもの)
  11. 1号文書かつ2号文書かつ7号文書:ウォーターフォール型システム開発業務委託契約書(著作権譲渡があり、契約期間が3ヶ月を超えるもの)

これらを図示したものが、以下の図になります。

なお、収入印紙が必要な業務委託契約書については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書の印紙(印紙税・収入印紙)の金額はいくら?

この他、業務委託契約書の収入印紙については、以下の関連ページもご参照ください。

収入印紙が必要ない業務委託契約書は?

上記の10パターンや図に該当しない業務委託契約書には、収入印紙を貼る必要がありません。

具体的には、次のような業務委託契約書が該当します。

収入印紙が必要でない業務委託契約書は?
  • 知的財産家の譲渡が発生しない準委任契約
  • 「売買に関する業務」に該当しない継続的な代理店契約や業務委託契約(印紙税法施行令第26条
  • 成果物が発生しないコンサルティング業務委託契約





業務委託契約書の雛形・テンプレートを使う際の注意点は?

以上のように、業務委託契約は、一般にイメージされているよりも複雑で専門的な契約書になります。このため、業務委託契約書の雛形・テンプレートは、安易に使用するべきではありません。

これは、たとえ専門家の監修を受けた業務委託契約書であっても同様です。

そもそも業務内容を把握していないはずの専門家が作った契約書は、必ずしも実際の業務内容と一致するとは限りません。

やむを得ず雛形・テンプレートの業務委託契約書を使う場合は、次の点にご注意ください。

雛形・テンプレートの業務委託契約書の注意点
  • 自社にとって有利な内容であるかどうかを確認する。
  • 契約内容と一致しているかどうかを確認する。
  • 契約内容と一致していない場合は一致させるように修正する。
  • 足りない条項がある場合は追記する。
  • 表現を統一する。
  • 法令用語を使う。
  • 契約実務の慣例の書き方で修正する。
  • 違法な内容でないかどうかを確認する。
  • 必ず専門家のリーガルチェックを受ける。

なお、弊所では、雛形・テンプレートの業務委託契約書や、修正後の業務委託契約書について、リーガルチェックを承っております。詳しくは、以下のページをご覧ください。

リーガルチェックサービス





「業務委託契約書」というタイトルには要注意

「業務委託契約書」というタイトルを安易に使わない

すでに述べたとおり、業務委託契約は、明確な定義がない契約です。このため、明確な定義がある企業間取引の契約(例:売買契約)以外の契約については、なんとなく「業務委託契約」ということにしてしまいがちです。

ところが、「業務委託契約」というタイトルを決めてしまうと、それで安心してしまうのか、内容がほとんど決まっていない契約書となっていることがあります。

契約書のタイトルは、法的にはほとんど意味がありません。契約実務においては、契約書の本文にある内容のほうが重要なのです。ですから、「業務委託契約」というタイトルをつけて契約書を作成しただけでは安心せずに、契約内容を可能な限り明確に記載するべきです。

「業務委託契約」というタイトルに惑わされない

また、契約書をチェックする場合にも、「業務委託契約」というタイトルに惑わされずに、契約内容をよくチェックすることが重要です。

私の経験上、業務委託契約書というタイトルの契約書は、いい加減な内容のものが多いです。より正確には、業務委託契約書は、実務上、意外と作成することが難しいため、それだけいい加減なものができやすい、という傾向があります。

特に、決めておくべき内容がほとんど決まっておらず、非常に抽象的な業務内容、金銭の支払いに関する条項、申し訳程度の一般条項があるだけの場合がほとんどです。

ですから、「業務委託契約書」というタイトルの契約書をチェックする際には、「本当はもっと規定するべき内容があるのでは?」という視点を持つことが重要となります。

ポイント
  • 契約書を「業務委託契約」というタイトルにすると、それで安心して(あるいはタイトルに「逃げて」)内容が不十分になりがち。
  • 契約書をチェックする際は、「業務委託契約」というタイトルに惑わされずに、契約内容をよく確認する。





業務委託契約に関するよくある質問

業務委託契約書とは何ですか?
業務委託契約書は、業務委託が記載された契約書です。業務委託契約とは、企業間取引の一種で、ある事業者が、相手方の事業者に対して、自社の業務の一部または全部を委託し、相手方がこれを受託する契約のことです。一般的には、民法上の請負契約または準委任契約であることが多いです。
業務委託契約書はなぜ必要なのでしょうか?
業務委託契約は、口頭でも成立する契約ですが、主に、1.業務内容・業務プロセスを明確化し、トラブルを防ぐため、2.取引の内容を記録し、税務調査等の際に提示するため、3.下請法、独占禁止法、労働基準法、労働契約法、労働者派遣法、建設業法等の法令に違反しないため、4.著作権等の知的財産権の処理を巡るトラブルを防ぐため―の4つの目的のために作成します。
業務委託契約書は誰が作るのでしょうか?
業務委託契約書は、原則としては、作成そのものが法律で義務づけられていないため、作成しなくても構いませんし、委託側・受託側のどちらが作成しても構いません。ただし、下請法が適用される場合は、委託側が作成しなければなりません(下請法第3条)。また、通常は、受託者側が、自身の事業の一環として、業務委託契約書を作成することが多いです。他方で、委託者側が大手企業の場合は、購買部や法務部が委託者としての業務委託契約書を作成していることもあります。
業務委託契約書に法的効力はあるのでしょうか?
「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定する」(民法第521条第2項、いわゆる「契約自由の原則」)とあるとおり、法令に抵触しない限り、業務委託契約書の内容は法的に有効となります。また、業務委託契約は事業者間の契約であることから、消費者契約法は適用されず、比較的自由に内容を決めることができます。ただし、下請法や独占禁止法による制限が課される場合もあります。
業務委託契約の費用負担はどちらがするのでしょうか?
業務委託契約において業務を実施するの費用の負担は、原則として受託者の側となります(民法第485条)。ただし、準委任契約である業務委託契約の場合は、費用負担は、委託者の側となります(民法第649条第650条)。もちろん、業務委託契約で別の内容を規定することもできます。
詳しくは、「業務委託契約における費用負担とは?契約条項の規定のしかた・書き方は?」のページをご覧ください。
業務委託契約の報酬の消費税は何パーセントですか?
業務委託契約の報酬の消費税は、通常の税率と同じく10%です。軽減税率の対象にはなりません。